11.ママルとグスタフ
(とりあえず、来た道を帰ろう、もうこんな所に用はない)
ママルはむしゃくしゃした気持ちを抱えながら、ノッシノッシと言った具合に歩く。
(つか見た目も普通の人間だったし、樹上生活すんな紛らわしい!
もうちょい痛い目合わせた方が良かったかも。
はぁ~、てか、呪術師スキルの便利さと不便さがホント酷いな)
などと自分からイラつくポイントを探し出してしまう始末。
「ん、てめぇは!」
「あっ」
(俺が最初に会った人間の片割れだ、いたなそういえば)
「ロニーはどうした!!」
盗賊は短杖を構えてこっちに向けて来た。
「…あっちで寝てるよ」
「寝て…やったなてめぇ!もう死体でも関係ねぇ!!≪ファイアランス:炎槍≫!!」
杖からママルに向かって、炎の直線が走る。
「あちっ、お前!まじか?!」
先ほどの盗賊達に攻撃された時は、剣の柄や腹での攻撃だった。
確かに酷い暴力ではあるが、殺意はないと感じていたが、今のは違う。
知らない魔法なので、実際の効果は解らないが、
ママルがこの世界に来て初めてダメージと言うものを感じる強力な魔法だった。
もっとも、数万あるHPに対して1桁ダメージという程度のものだったが。
「なんだ?!火耐性装備か!!」
「お前ら…頭がおかしいのか?」
「≪サンダーランス:雷槍≫!!!!」
「ぁいたっ!…≪ペイン:痛覚刺激≫!」
「ぅあ゛っあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
盗賊は、急に襲ってきた激痛にのたうち回った。
(人間を直接攻撃してしまったが、なんと言うか…)
「ざ、ざまぁみろ、だ…。……もっかい行っとく?」
「ぐううゥゥゥゥ…………」
(ショック死しちゃいそうだな、まぁ、やめとこうかな…)
そう思った時、蹲ってる盗賊の頭部に、突如一本の矢が突き刺さった。
「うっ!えっ!何!」
周囲を見回すと、一人の男が走って来て、片膝を着きまくし立てる。
「失礼します!私はハン!この村の狩人です!」
「えっ、ちょ、えっ、狩り?死んっ」
「どうか!この村をお救い下さい!」
「ちょ!ごめん!何?!」
「救世主様!!」
お互いにある程度落ち着いて話をしたら、自分がとんだ思い違いをしていた事に気づいた。
つまりはこの村はエルフ達の村で、今まさに盗賊たちに襲われていると。
色々合点が行った。
(エルフ。わー、耳長い、手足もながーい。めっちゃイケメン!)
いきなり盗賊の頭をぶち抜いた時は正直めちゃくちゃ引いたけど、
どうやらもう村人も殺されていて、ぬるい事を言ってられる状況じゃないようだ。
「向こうの、村の中心の広場に奴らはいます!」
「あ、はい、俺もこいつら盗賊にはムカついてたし、とりあえず倒します」
聞くなりハンは駆け出す、それについて行きながら、会話が続く。
(まぁこのくらいの速度なら、ちゃんと意識してれば走れるか、流石に)
「ただ、この盗賊共のボスは、相当な斧の使い手です、正直、会ったばかりのママルさんを差し向けるのは、心苦しい」
本当に申し訳ないというような。かつ、勝てる見込みがあるのか不安になっているような面持ちだ。
「ん~、レベル20とかの盗賊団のボスだし、大丈夫だと思いますけど」
「レベル?とは何ですか?」
「え?いや…、強さの指数?的な?」
(そういう概念が無いのか?それならアプライした時にレベルが見えたのも納得がいく、知らない物を隠そうとはならないからな…。
いや、レベルの概念を知らないけど、レベル自体はある?それはそれで何か変な気が。
…てか盗賊ってのも、今まさに盗賊行為をしてる最中だったから見えたって事か?)
「そういうものがあるんですね」
「はい、いえ、忘れて貰って大丈夫です」
「もう、あなただけが頼りです、このままではきっと、皆どこかに連れ攫われてしまう!」
「攫われる…そういえば俺も攫われそうになりました」
「奴らはおそらく人身売買を行っているのでしょう、ただの侵略なら、むしろもう村は全滅していました…」
「なるほど…あっ、あの、そういえば、俺がいた辺りにあった家には、誰もいないんですか?」
「あの辺りは、我々が泊りがけで作物を育てるときとか、獣を狩りに行くときとかに使う別宅とか倉庫とかで、今は誰も居ないはずです」
「別宅…、すごいですね」
「え?……あ、いえ、樹に魔法をかけて作るので、大した手間では無いのですよ」
「あ~……、なるほど~……」
微妙に気まずい空気が流れたような気がしたが、そう感じたのはママルだけだ。
「もうすぐ着きます」
「あ、はい、ハンさんは少し離れていてください」
「わ、解りました…お気をつけて…」
話によると、敵は何かしらの探知スキルを持った奴がいそうとのことだったが、
算段はついた、きっとうまくいく。
とりあえず、外していた頭装備を再装着。
「≪サークル:魔法円範囲化≫
≪シュート:魔法直線範囲化≫
≪ラージマジックⅥ:魔法範囲超拡大≫
≪レジデントマジックⅢ:魔法効果最大延長≫」
目的地にたどり着くと、村人と思われるエルフ達は縛り上げられ、
盗賊達はそれを見張るようにしながら何かを待っていた。
「おせぇぞ、サイ。いや、誰だてめぇは…」
「≪パラライズ:金縛り≫!!!」
場全体を覆うまで範囲を拡大した魔法を、問答無用で叩きこむ。
ターゲットは目視で場の中心付近にいると判断したエルフだ。
盗賊は勿論、エルフ達までもが全身麻痺状態となるが、巻き込みも辞さない覚悟の上だ。
下手に盗賊を逃して人質でも取られたらどうしようもなくなる。
盗賊より村人の方がずっと数が多いので、なんとも申し訳ないが…。
「!!!!」
(ついさっき口を開いたデカい男がいない!)
「≪旋回投斧≫!!!」
「あぃだっ!」
突如、上空から投げられた斧がママルの頭部にクリーンヒットした。
(上!避けたのか?!まじかよ!)
グスタフは着地した後、返ってきた斧を受け止める。
「あぁ?!どういうカラクリだ?」
(まずい!多少とは言え俺にダメージが通ってるのに、人質を盾にでもされたら…
しかも不意打ちの魔法に対して、一瞬で範囲外に出る反応速度。どうするか…)
「随分でけぇ範囲の魔法だ、が」
「くそっ、≪レッグパライズ:足縛り≫!」
(今度は単体指定、ターゲットさえできれば!!)
そう思ったときには、既にグスタフは視界から消えていた。
「≪促尖斧≫!!!」
グスタフはママルの背後から一足で飛びかかりながら、斧で突きを繰り出す。
「いでっ!」
ママルは衝撃で地面を転げまわってしまう。
「【斬】だけじゃなく、【突】もイマイチ通ってないな…なら次は【打】だ」
(う、うぜぇええ…、でもこっちにヘイトが向いてる内は大丈夫。何か手立ては…)
考えていたら、敵が高速で横に駆けだした。
(そうか、即座に俺の死角に入ってタゲ切ってるのか。なら…1/2!)
「≪ラージマジックⅡ:魔法範囲中拡張≫≪シンカー:思考低下≫」
唱えると、薄く白い霧がママルを包む。
「≪爆打旋斧≫!!」
「あぃでっ!」
またも背後から、回転の勢いをつけた斧を刃の逆側で打ち付けて来た。
そしてまたもや地面を転がってしまう。
だが。
「く、食らったな?」
≪シンカー:思考低下≫は、自分中心円範囲の持続魔法、ターゲッティングの必要はない。
そしてその範囲にまんまと飛び込んできたという訳だ。
その効果は、モンスター相手ではイマイチ確証が持てなかったが…。
「あ?あ、あぁ!しねぇぇぇ!!!!!」
グスタフからは、さっきまでの戦士の表情は消え去り、
どこか間の抜けた顔で叫びながら斧を振りかぶり、突っ込んできた。
(やっぱりそのまんま、この魔法効果はシンプルに、クソバカになる!)
ちなみにゲームでは、敵の魔法攻撃力ダウンの効果だ。
「≪パラライズ:金縛り≫」
「ぁへぇ!!」
グスタフは間抜けな声を出しながら、その場に倒れこんだ。
「お、決まった……!」
(ふぅ…なんとかなったな。
シンカーのタイミングで遠距離出されてたらどうしようかと)
「え…と、≪アプライ:鑑定≫」
●人間:盗賊 Lv66 スキル:旋回投斧 促尖斧 爆打旋斧 Mディテクト 瞬速 その他不明
盗賊団、サーチスネークの団長。その他不明
(スキルがいくつも解る。ってことは、今の戦闘中に使ってたって奴って事かな…
てか、思ったよりレベル高いじゃん…しくったなぁ)
 




