106.オスレイ
「一体、いつからなんだい。それに、何故…」
「………………」
「やはり、まだ答えてはくれないか」
「………………」
「このままでは、君は死刑となる。せめて、何かしら、我々に有益な情報をもたらしてくれたら、ある程度の減刑も可能かもしれないが?」
「………………」
ローゼッタの言葉が聞こえていない訳では無いだろうが、
オスレイはただの一言でさえも発そうとはしない。
「ずっとこの調子なんだ。食事はとっている様なんだが…」
「これは……、うぅん………」
「ママル君、何か良い魔法はないかい?」
「そんな便利な物なんて………………」
「あれはどうだ?酔わせると言う奴。確かそんな魔法があると聞いた覚えがあるでな。酔っぱらうと人は口が軽くなると言うからの」
「なるほど、まぁ、やるだけやってみるか…≪ドランク:酩酊≫」
魔法を受けて、オスレイは座ったまま、フラフラと上半身を揺らし始めた。
「あ~~~……ははは、もう、終わりだぁ……」
「!!…オスレイ、話してはくれないか」
「……だ~~みだ~~~……」
「…このままでは、君を拷問するしかなくなる。私は、出来ればそんな事はしたくはない。本心だし、脅しだよ…。解ってくれないか」
「……そんな思いするならさぁ、話すさ。でも、な~んにも聞けないよ」
「?………何を言っているんだ?」
「話したら、私、死んじゃうもん…」
「な……、何故?」
「裏切ったら、死んじゃうんだって~~~」
「そういう呪いがあるのかい?」
「呪いじゃあ、ない…。もっと凄い、░░░░░░様は、何よりも!凄いんだ~~!!」
「い、今なんと……?」
「ま、待ってくれ!ストップ!!そうだ、そうだった!」
「信じられんが…、わしも忘れておった……。今すぐ紙とペンを用意しとくれ!」
(あ、あんな程度の情報でも、忘れてしまうのか…、
いや、インザルが話した情報以上の事を知ったからか?転移魔法とか。
でも、切っ掛けがあったら思い出せた…完全に忘れたわけじゃない…)
ママルとユリは、それぞれの記憶に従い、あの日あった出来事を書き連ねた。
交換して読んでみるが、殆ど同じ内容だ。
やはり、この記憶は正しい。ちゃんと在った事だ。
(まさか、紙に書いた文字まで消えたりしないだろうな…)
皆がその紙を読み回す。
「なるほど……ママル君は、城の地下室で魔法薬を作ってた連中と会った、
と聞いていたが、死体がなかったから、どういう事なのかと考えていたんだ」
「転移魔法を使った、で間違いないと思います…」
「だな、何か、空間に穴を空ける様な魔法だったで」
「このような、訳の分からない存在がいるとはね……」
「全ての元凶、と言った所でしょうか…」
「なんだか、怖いわね……」
(ついにラスボスの登場って感じか…?
でも、こんなの、一体どうやって……対処の仕様があるのか?)
「とりあえず…、このメモは無くさないようにしておこう…」
「状況から察するに、そいつに何かされた人は見られている?
もしくは裏切りと言う行為自体を察知できるのだろうか。
話したら殺されてしまうと言うのなら……どうしたら…」
ローゼッタの言葉に皆が困惑していると、オスレイが口を開いた。
「よお。終わったか?」
先程までの、酔っぱらったオスレイの口調ではない。
この口ぶり、タイミング、正に。
「!!でっ!…出たな!!」
ママルが皆を庇うように前に出る。
「くっく…、まぁそう警戒するな。インザルからお前の情報を聞いたぜ、ママル。
ちょっと興味が湧いたんだ、会話でもしようか」
「……会話だって……?な、何を話したいんだ。俺の情報って…」
「ママル以外は出て行ってくれないか?2人で話したいんだ」
その言葉を聞いて、全員がそう言う訳にはいかないと声を上げる。
「チッ…雑魚は黙ってろよ…、なあママル、いいだろ?
あぁ、そうだ、もう1人、呪術師の奴がいたな………。≪ゲート:空間隧道≫」
出現した黒い空間は、4つ隣の牢へ向けて、真横に一直線に突き進んでいく。
その軌跡にあった壁は綺麗にくり貫かれ、破片すら1つも出ない。
「うわっ!なんd/
そんなペンタスの大声が聞こえて来たと思った瞬間、その声はぶつ切りにされたように消失する。
「あ、あいつをどこにやった……」
ママルの声を聞いて、オスレイは真上を指さして、ニチャリと笑った。
(なんだ?…上?…真上…転移…!!ま、まずい!!)
「皆!今すぐ出て!多分ペンタスが空から落下して来るはずだ!!出来れば助けてやってくれ!!!!」
「お、お主は!!」
「2人っきりで、話してやる…。大丈夫…。心配しないで…」
「信じますからね!!」「どうか、ご無事で!」
「お外に出たらいいの?」「くっ…メイリー!行くで!!」
4人を見送り、少しの後、オスレイは口を開いた。
「今からそこに行く。少し待ってろ」
「なっ!……………あ、あぁ……」
オスレイはその場に倒れ込んだ。そして10秒程経った瞬間、まさに一瞬の内に、
気づいた時には、オスレイの横に1人の青年が立っていた。
何の変哲もない、普通の若い人間の男の様に見える。
「よお。俺はアルタビエレ」
「…………………………」
「挨拶くらいしてくれよ………。こんにちは。ママル」
「……こ……こんに……いや、おかしいだろ」
「くっくっくっくっ!良いね」
「…な…何の用だ?俺から聞きたい事は、山ほどあるが……」
「お前、俺の仲間にならないか?」
「…………一応。聞くけど、アルタビエレ、お前は、何をしたいんだ?」
「大体わかってんじゃないの?」
「確定した情報は、1つもない…、何をしたいかも知らないのに、仲間も何もない…」
「まぁ、そっか。要するに、俺には叶えたい望みがあるって事。
でも、それは別に良いんだよ、俺の仲間になってくれるなら、それぞれが望むことを叶える事が出来るから」
「……………どうやって、そんな事が…」
「悪魔の力さ。彼らは、なんだって叶えてくれる」
「………それが例えば、この世界から戦争やモンスター、悪魔なんかを無くすとかでもか?」
「……お前、嫌な奴だなぁ…。俺は悪魔と仲良くやりたいんだ。
悪魔は人の魂が好きだから、当然犠牲は出るさ。でも無差別じゃない。
どうでもいいだろ?知らない奴とか、ムカつく奴の命なんてさ」
「……スライムは、無差別攻撃してるだろ」
「低級だからさ、まともな知能がないんだ。許してやってくれ」
「仲間になったら、何をして欲しいんだ…、それが一番重要だろ」
「確かにそうだな…、あ~…、まぁ、方法はなんでもいいんだけど…、
…………う~ん…、どうしよっかな……。まぁ、まずは悪性エネルギーを増やしてもらえればいいよ。もしくは、ある場所の破壊とか」
「…グラスエスの神殿か?なんで自分でやらない」
「……………これ以上は、一旦秘密で」
「………………なんで俺を誘おうと思ったんだ…」
「似てると思ったからさ。俺とお前、いくつかの点において」
「いくつかの点……?」
「仲間になったら、教えてあげる。インザルから教えて貰った情報も全部教えるよ」
「……インザル達は、どうした。仲間じゃなかったのか?」
「思い出したんだろ?噓つきは信用出来ないからな。ちゃんと殺したよ。
結構信用してたからさ、部下だったニクスとミラーにも責任を取って貰った。
解ると思うけど、だから俺の言葉には1つも嘘はないから、安心していいよ」
「モンスター化騒動、お前は、解ってて誘発させてるんだよな?」
「そうだよ?」
「それが、悪魔召喚に繋がってる、って感じか…」
「………なぁ、もしかしてお前、俺を騙して、情報だけ話させようとしてるのか?」
アルタビエレの表情が、少しだけ曇った。
(…こいつは、何て言い表すのが正解なのか解らないが、異常なのは確かだ。
勿論ハナから仲間になるつもりなんか無いが…。これ以上の会話は無理か…)
「駄目だ…、仲間にはならない」
「…………何でさ…。俺が誘ってるんだよ?力を見せようか?何が信用できない?」
「………人の命を、軽々しく扱っている所だ…」
「あれ?アルカンダルで暴れたのって、ママルじゃなかったのか?」
「…俺だが」
「じゃあやっぱ、お前も命を軽く見てるだろ。一緒だ。何?自分だけ特別だと思ってるタイプ?まぁ、それは俺もそうだけどさ、くっくっくっ」
「確かに、そうだ……命を軽く見てる、けど……」
「解るよ?俺らは、唯一だ、故に孤独だ。だからさ、仲良くやろう」
「…別に、俺は孤独じゃない」
「………さっきの女共か?ハーレム気分てのも悪くないと思うけどさぁ」
「そ、そんなんじゃ…………、ってか、お前…………!」
(こいつ…俺の前世の事まで知ってんじゃないだろうな?!)
「はぁ…、ま、なんか、もういいや…。とりあえず帰るわ。多分、ロォレストに行くんだろ?それまでに考えといてくれよ。叶えたい望みとかさ」
「えっ!か…帰るのか…」
「……ママルさぁ…ずっと構えてるけど、もしかして戦うって思ってた?
言っただろ。会話がしたいって」
「……お前が元凶なら、逃がすわけには……」
「何?やる?ちょっと今は戦いたくないんだけど、俺もお前がどのくらいやれるのか、興味はある。でもさぁ、やるならこの辺りは更地になるぞ?良いんだな?
女共が逃げる時間とか待ったりしねぇぜ?」
「……………やめておく」
「くっくっく。ま、そうだよな。あ、オスレイは貰ってくよ。
拷問されるなら話すとか言ってやがった。裏切るつもりだったんだ。
…ふざけやがって。≪トランスファ:転送≫」
アルタビエレは魔法を唱えると、右手が鈍い光を発する。
その掌でオスレイの肩を触った瞬間に、オスレイの姿は消えた。
「ま、また上か…?」
ママルがそう呟くと、アルタビエレは、今度は指を下に向けて言う。
「海の底だ。じゃあな。≪リターン:帰還≫」
唱えられた瞬間、掻き消える様にしてアルタビエレの姿は消失した。
―
2人の会話が始まった頃、ペンタスが上空から落下して来る所を、
ユリが≪理障壁:物理結界≫で、その強度を絶妙に調整しながら、
14枚の障壁が割れた所を、ローゼッタが飛び上がってキャッチする事で助けた。




