102.交代
「≪ブルーム:乱花≫」
「≪エイジス:蕾冠≫!!!」
メディウムの攻撃から、ローゼッタは皆を守る様に光の盾を展開した。
「テフラちゃん!これ!」
「いえ……私は…ポーションが効かないので…」
「そ、そんなっ!」
「でも、大丈夫です………」
――――メイリーが目覚めるのを待っていた時。
ママルはアイテム袋から1杯のウイスキーを取り出した。
小さいグラスに入ったそれは、たった一口で飲み干せそうなくらいだ。
そして同時に、雑貨屋で買ったスキットルへとウイスキーを流し込む。
するとグラスは霧散して消えたが、スキットルへ入ったウイスキーはそのままだった。
「前に一回ポーションで試したんですけど、こうやって移しておくことが出来るんですよ。まぁ、そうじゃなきゃそもそも飲むことも出来ないんだろうけど」
「へぇ。その能力、ホントに不思議ですね」
「で、これ、テフラさん持っといて下さい」
「私がですか?」
「なるほどのう。確か、お主の飲み物はポーション以上の効果があるとか言っておったな」
「そうそう」
「キツい酒であれば腐りはせんだろうし、魔法薬耐性も関係ない可能性があると」
「そゆこと!よく解ったね」
「な…なるほど……」
「今後、俺の飲み物は、出来るだけテフラさん用にとっときます」
「そ!そんな!私だけ特別扱いみたいな…」
「いえ、魔法薬耐性を考えると、絶対そうした方がいいですから」
「だな」
「………あ……、ありがとう…ございます……」
テフラはそう言って、スキットルを自身のベルトへと着けると、
ガバッとママルにくっついて、その胸にグリグリと頭を擦り付けた。
「わっ!ちょ!」
「…………な……、撫でて下さい」
「えっ………」
「…駄目ですか?」
「……い、いえ……」
ママルは遠慮がちに、テフラの頭を撫で始める。
すると、テフラの尻尾はブンブンと振られていた。
――――――
(勿体ないなぁ…でも、絶対今飲むべき、ですよね)
スキットルを煽り、ウイスキーを一息で飲み干す。
「くぁっ!!~~~~っ」
(キッツいお酒!!!お…美味しい…、いや、そうじゃなくて…)
「ホントに治った…。行けます!」
3人がかりとなれば、流石にこちらがずっと優勢だ。
だが、ハイクラスが3人でかかっても捌き続けるだけの力がメディウムにはあった。リミッターが無い事から常に100%の力で動き、多少のダメージは物ともせず、感情がない事から遠慮もなく、疲労も感じないためだ。
徐々にまずメイリーの体力が尽き始めて、押されて来た。
(このコープスは状況がよく見れている。強い上に賢い。更に体力は無尽蔵…。
くそっ……。私も、ちょっと、酔いが……)
「ハァッ!ハァッ!…父さん!…もう、良いでしょう!どうか、安らかに…、眠って!お願い……ッ」
その時、一瞬メディウムがたじろいたのを、テフラは見逃さなかった。
「ローゼッタさん!もっと話かけて下さい!!声は届いてます!!
例え感情はなくとも!きっと記憶はあるんですよ!!」
「!!父さん!私だよ!!ローゼッタだ!!解らないかい?!」
「グ………ゥゥゥゥ………」
「父さん!!お願い!!…もう…」
「ガアァッア!!!」
メディウムは、足元の床を思い切り踏み砕き、穴を空けた。
そこからまるで逃げ出すように穴に飛び込むと、ゆっくりと歩き出す。
「お、追わせてくれ!」
ローゼッタがそう叫んで、その穴に続こうとした時。
「あ~~っれ…、ドローニちゃんは?どこいった?」
「お2人とも!新手の呪術師です!」
現れた男の姿を見てテフラが声を上げると、ローゼッタはメディウムの後を追う事を中断し、3人は改めて距離をとる。
「…女の呪術師の事かい?……それなら、そこの壁の穴から落ちていったよ。
多分魔力も尽きてたから、死んでるんじゃないかな……」
「………おい、落下死て…、それじゃぁ!グッチャじゃねぇか!!!
使えねぇじゃねぇかよぉぉ~~~!!!」
「ッ………!!!」
(なんだ…この魔力……こいつは……ッ)
「ローゼッタ、それに、乳のでけぇお前、良いな。死体は綺麗に処理してやるぜぇ」
自分へ意識を割かれていないと思った瞬間、テフラは一気に間合いを詰めようと駆け出すが。
「待って!!!!」
メイリーの叫びを聞き、後方に飛び2人の横に戻る。
「お~~、よく気づいたな。綺麗になんて無理だ、全員グッチャにしてやる」
「2人とも…。あいつが纏っている魔法、なんか、異様だわ、絶対近づかない方が良い……」
メイリーは≪検眼≫で把握したスキルの性質の雰囲気を伝える。
「くくく、衰亡のデテリオ、押して参る。なんつって」
すると、デテリオはスキルを唱えるでもなく、ズカズカと歩き3人に近寄って行く。
「ヤバい!!!離れましょう!!!」
「かっかっかっか!めっちゃビビってるゥ~~!!」
「≪クレセント:来晄≫!!」「≪巣蜘血≫!」
2人のスキルはどちらも、デテリオへ到達する前に朽ち果てる様にして消滅した。
「無駄だって!私が展開している呪術の前には、全て無駄だぁ!大人しく死ねよぉ!」
「デテリオ様!!」
「チッ、おっせぇよ、お前ら、前行け」
デテリオは、駆けつけて来た黒魔術師の3人を顎で使う。
「前衛…ガゾンは居ませんが…」
「おい……オイッ!!何口答えしてんだよ!!」
「す、すみません!!」
3人は、前に出るためにデテリオの横を通り過ぎる。
だがその時、最もデテリオに近かった1人が倒れ込んだ。
その皮膚は剥がれ落ち、肉は変色し、骨にヒビが入って行く。
「あっ!あああ゛あぁッ!!あああああ!!!」
「あ、わり、解除してなかったわ」
「た!助げで!!助けてくだざぁい!!」
「うるせぇ!!」
デテリオは、その頭蓋を踏み砕いた。




