101.銘々
――ママル達が突入して数分後。
「……そろそろか」
オレットがそう言うとほぼ同時に、各所の聖騎士隊が民家に向かって声を上げる。
「我々は聖騎士隊です!!皆様!!今夜は家から出ないように!!
鍵を厳重にかけ!絶対に外に出ないようにして下さい!!」
街中の各所に配置された13隊は、何れも同様に声を張っている。
「そこの!今すぐ家に帰るんだ!自分の命が惜しいならば!」
オレット達が受け持っている大通りは深夜でも多少賑わっていて、
外を歩いていた民から様々な疑問を投げかけられるが、聖騎士隊の信頼は厚い。
そのため、殆どの者は言われるがまま帰路へとついて行った。
「我々の動きに感づいた者が動き出すかもしれない、コープスが現れなくても、警戒を怠るなよ」
「ハッ!」
オレットの声に部下のサリサは応答するが、スカウトされたメンバーは未だどこか不安げだ。
普段は傭兵を行っている剣術士と魔法士、
そしてコルセオでの闘技大会に出場していた槍術士が、サリサの後ろに控える。
それから10分もしない内に、街中から悲鳴や怒声が聞こえてきた。
「出たようだな。来るぞ、構えろ」
「クソッ、お前ら、やるぞ…」「あぁ…!」「楽勝だろ…」
公園広場、聖堂、民家、飲食店、下水道、あらゆる場所の地下から、
ゾロゾロと亜人コープス達が湧いて出て来た。
コープスに与えられている目的は、ただ目の前の生き物を殺す事だけだ。
「マジで腐ってやがる!ゴブリンにコボルトに、オークまでいやがるぞ!」
「まず俺が魔法で牽制する!!≪ファイアスロー:炎投≫!!!」
痛みを感じないコープスを燃やしても意味は無いが、
顔を炎に包ませ、視覚、嗅覚を奪う事が狙いだ。
前方を歩くコープスの足が止まり、大群の行進は乱れた。
すかさず剣術士と槍術士が首を刎ねて周る。
「よし!行けるぞ!」
「あぁ!!」
「後ろからも来てます!」
「そっちは私1人で良い!サリサは3人を援護しながら、囲まれない様注意を払ってくれ!」
「ハッ!!」
(他のチームも、うまく立ち回っててくれよ…)
――――
「コープスが動いている?!」
(と言う事は、ドローニかペンタスが死んだのか…?
折角……!!折角……色々やってたのによぉ……、
結局この街を捨てる事になんのかよぉ!!)
「ッックソがあっ!!!!!」
デテリオは、テーブルを殴りつけて破壊した。
「……………ふぅ……………ふぅ………………。
いや、違う違う、普通に敵がいるなら、それをぶっ殺せばいいだけだ。
コープス共は全部ロォレストにでも送ってヴェントから出せば、
愚民共なんか、数か月もすりゃあまた素知らぬ顔で生活し始めるんだから……、
ふぅ、焦る事はない。よしよし…っよし。
って事はぁ………、まず、ドローニの様子でも見に行くかぁ。
死んでたらコープスにしちゃおうか。一回あの体で遊んでみたかったしな!
ふんふん。意外と悪くないぞ、よしよし」
機嫌を直したデテリオは、隣の部屋の扉をノックする。
ゴンッ!ゴンッ!
「オスレイ君。いるかな?」
「は、はいっ!!」
宰相のオスレイは、即座に扉を開けてデテリオを招き入れた。
「ちょっとヴォヌエッタを見張っといてね、隣の部屋にいるから」
「か、構いませんが、先程から城内が騒がしいようですが、一体何が」
「いーからいーから、黙って言われた通りにしとけ」
「は、はい………」
「あ、そうだ、≪呪詛・宍碍擦礙・呼・流転・厭・縛・捻転≫」
「なっ!な、何を!!」
「これ、持っといて」
「…これは………」
デテリオは、オスレイに石の様な奇妙な物体を渡した。
「城の衛兵とかいたでしょ、あれコープスにしてるから。
それ持って命令したら動くよ。今作ったんだ、凄いでしょ」
「あ、……は、はい!流石でございます!」
「むふふ、じゃあこれ使って守っといてね」
そう言ってデテリオは部屋を後にし、
オスレイは隣の部屋に移動しヴォヌエッタを見張っていると、
大勢の兵士コープスがぞろぞろとやってきた。
――――
(ポーション、これは…凄まじいな…)
ユァンは、未だ痛みは引かないものの、足の骨折どころか、
視覚と聴覚が戻ってきているのを感じる。
フラフラと、なんとか気力を振り絞り立ち上がる。
(上階から聞こえた戦闘音。おそらく、ロゼ達じゃ。
手助けに行くか…。オスレイを探すか……。
オスレイは間違いなく、こやつらと繋がりがある事が解った。
確実に殺るか捕えたいが、探索となると時間がかかる。
まずは、ロゼに加勢すべきじゃな…)
歩く度に、右脚に激痛が走る。
治りかけだからこそ、あまり動かさない方が良い、
そんな事は解っているが、足を止める訳にはいかない。
(俺がこれ程やられる相手…ロゼは無事なんか……。
俺は…………メディウムよ……絶対に、ロゼは守るからな……)




