100.浸出
(あのドローニとか言う女、おそらく自分が纏う魔力の中に、沈めることが出来る…。例えばメイリーさんのスキルだったり、後ろに居るコープスだったり。
だけど、直接私達を飲み込むような攻撃はして来ない…。
こちらの攻撃も、完全に無効化出来ている感じでもない。何か理屈があるんだ…)
「≪呪詛・溺水喉」
(クソッ!なんとかしないと!!)
「≪双牙砕≫!!」
「・反転≫!!!」
≪双牙砕≫をまともに受けるドローニだが、刺突特化の技も効力を発揮仕切らないのは、メイリーのスキルを受けた時と同様だ。
「ぐええぇっ!!痛ぇ!!クソが!!!」
そして、ドローニのスキルを受けたテフラは、口内の水分が揮発していく。
「かっ!エ゛ッ!ゲフッ!ケフッ!」
(まずい、声が!!出せない!!息がっ!)
「ぶっ殺してやる!!」
ドローニが新たにスキルを唱えようとしたが、その瞬間、メイリーの手により、ドローニの胸元から1体のコープスが引き摺り出された。体の大きい男性だ。
国王を狙った≪巣蜘血≫は解除してしまったが、ドローニを狙った時のものは解除していない。スキルの先端、メイリーの魔力の塊と、その掌は、知覚できない程薄くつながったままだった。術者のみが扱える亜空間的存在は、メイリーもよく知る所だったため機転が利いた。
そしてドローニが沈めている空間の中で何かをキャッチすると、再び魔力を込めて、一本釣りでもするかのように引きずり出したのだ。
「くっそ!なんだ!呼んでねぇぞ!!!」
急に目の前に現れた巨体コープスにより、ドローニの視界が防がれる。
その一瞬の隙に、メイリーはローゼッタの母親に向かってスキルを唱えた。
「≪糸蜘血≫……」
メイリーは常時発動型スキルの≪検眼≫により、モンスター化を、そして集中力を増す事で人体構造や、スキルの簡単な性質までをも把握する事が出来る。そして正にクァダバルにした時と同じように、そのアキレス腱を切断した。
その様子を見たテフラはすぐさま、ローゼッタの父親に向かい背後からタックルして押し倒す。
「ローゼッタ…さん。交代……」
メイリーの呟きを聞いて、ローゼッタは即座にドローニに向かって駆け出した。
「すまない!!!」
自分と両親との戦闘でも手一杯だったが、メイリー達の戦況もある程度理解している。
(自身の魔力の中に、コープスや魔法、衝撃を沈める事が出来る…。そして恐らくだが、生き物は侵入出来ない。確かに、私が破るべきだ!)
「どけよ!!!」
ドローニは巨体コープスを蹴り飛ばし、視界が開けた瞬間に、
ローゼッタが襲い掛かった。
剣をドローニの腹に向かって突き立てる。
その刀身は柄まで突き刺さるが、ドローニの背には剣先が現れない。
刀身が、ドローニの空間に侵入している事が解る。
そのまま体当たりで、ドローニを壁面へと抑え込んだ。
「≪ブルーム:乱花≫!!!!」
剣から炸裂する光弾を乱射するそのスキルは、≪アタッチ:聖装≫の効果でより強力になっている。
ドローニを包む魔力が、沸騰するようにボコボコと音を鳴らす。
(2人の攻撃はダメージを与えていた。と言う事は、衝撃事態は本体に伝わっている!このまま!内側へ攻撃を浴びせ続ける!!)
「ぐっ!ぎぎぎ!!は、離れ……」
「≪エントロメント:覇衝≫!!!」
バンッ!と音を鳴らし、ドローニの魔力が弾け飛ぶと、
その衝撃でローゼッタは後方へ転がった。
「………かっ…」
魔力防御が消し飛ばされた瞬間、ドローニは一瞬気を失う。
すると、格納していた10体のコープスが弾かれるようにして出現した。
「わ、私の……く、くそ!コープス共!!その女を殺せぇ!!!」
ローゼッタは、再び剣を強く握り直す。
「≪クレセント:来晄≫ッ!!!」
ローゼッタの前方に向かって放たれた光の斬撃は、ドローニと10体のコープスを巻き込んで吹き飛ばす。それらがまとめて城の壁へと激突すると、壁を破り階下へと落下して行った。
3階から城下に落ちたコープス達は、その衝撃で行動不能になるほど骨が砕け、
その下敷きとなったドローニは、身を守る術もなく、やがて圧死した。
「はぁ………はぁ………。いや、まだ!テフラさん!!父さん!!!!」
「≪ホライズン:一閃≫」
ローゼッタが振り返った直後、メディウムの超速の突進斬撃によりテフラが吹き飛ばされ、内壁へと衝突した。
「ぐッ……!!」
その背と後頭部を強打したテフラは、激痛に顔を歪める。
(なんて力……。気力の防御ごと歪められたような威力…ま、まずい…あばらと…左腕が…)
「テフラちゃん!!!!」
ドローニの死により、その呪術が解かれたメイリーは、
テフラの元に駆け寄り、その肩を抱く。
「ぽ…ポーション飲まなきゃ!!ほら!!」
そんな2人に向かって、メディウムから追撃のスキルが唱えられる。
「≪クレセント:来晄≫」
「≪クレセント:来晄≫!!!」
ローゼッタは、メディウムのスキルが放たれるよりも早く、その構えからスキルを察知して同じスキルをぶつけた。だが、メディウムの技の方が強力だった。
こちらの斬撃は掻き消え、メディウムの斬撃は軌道がそれて、城の天井を突き破って行った。
技が押し負けたのは、膂力の差は勿論だが、
発動の瞬間、這って来た母親に足を掴まれたためだ。
「………!!!!!!」
ローゼッタは、意を決して、母親に向かって剣を振り抜くと、
這いつくばっているその首を切り裂いた。
「すまない……皆……」
表情を変えずに、ローゼッタが涙を流しながら呟いたその言葉は、
テフラとメイリー、他の仲間達、両親、そしてシーグランの民へと向けられた物だ。
程なく、城下から民衆の叫び声が聞こえてきた。
この街にいる呪術師3人、それぞれの呪力を合わせる事で
コープスの大群を完全にコントロール出来る程の支配下に置いていた。
そのため、誰か1人が死んだ瞬間、
街の地下、あらゆる場所へ秘密裏に格納されていたコープスの箍が外れる。
コープスの大群は、突如として街中に溢れ返る。




