99.VSペンタス
「おんし、オスレイが何をしとったかは、と、当然、知っとるじゃろ…」
「まぁね」
(やはり…そもそもは奴が手引きして、こやつらを内部に入れていたのか…。
しかしこやつ、強い。が、阿呆じゃな……)
「じゃからわしは、奴を暗殺しようと侵入した、それだけじゃ…」
「ふ~ん。単独犯てワケ?」
「そうじゃ………」
「あっそ。じゃあ、上から響くこの戦闘音は、なんだろうなあ?」
ユァンは改めて耳を澄ますと、確かに上階から戦闘音が聞こえて来た。
「わし以外にも侵入者が、いたんじゃないか?様子を見に行った方がいいぞ…」
「はっはっは、関わりの無い奴が同時に侵入してきたって?
まぁ、有り得なくはない…、でも有り得ないだろ。流石に。
冗談は好きだけど、笑わすつもりのない冗談は不快だぜ。
なぁ、そろそろ正直になりな?…追撃がお望みか?」
ペンタスはその掌をユァンに向ける。
「見なくても出来るって言ったけど、直接喰らう方が強烈だぜ?」
「わ!解った…!!話す…。俺は………」
ユァンは、ペンタスの気が一瞬緩んだ隙に、
両腕の跳躍でもってその背後へ回り、首を絞める様に抱き着いた。
「おー…、はっや。まぁ、俺に危害は加えられないだろ?」
「ぐ……ぐぅぅぅぅ!!!」
ユァンはその腕に、力を込めることが出来ない。
だが、気力を振り絞り、その体勢を崩さない様に踏ん張る。
「はっは、無駄無駄。教えてやろっか?俺の呪術は、ストレスだ。
俺への攻撃は、嫌で嫌で仕方ないだろ?どれだけ攻撃を意識しても、無意識下のストレスには勝てない。拡張名は【鬱積】…鬱積のペンタスだ。まともな奴程、その効果は絶大。話す気がないって事なら、もう殺しちゃうぜ?」
「馬ぁ鹿めが!!!自分の技を話す阿呆が!どこにおるんじゃ!!!」
ユァンは両腕を離すと、即座に自身の眼球を傷つけ瞼を強く閉じ、鼓膜を貫いた。
その奇行を見て、ペンタスは驚愕する。
「ジジイ!何をやって」
ユァンは、呪術と言う物の特性をある程度調べていた。
何も核心的な情報等は得られていないが、自身の想像と組み合わせた結果、
呪いと言うのは、相手を強く認識する必要があると考えた。
ただ目を閉じるのではなく傷つけたのは、[見る事が出来ない]という状況を作るためだ。
視覚と聴覚を潰した事により、ユァンからペンタスへの認識が薄まる。
何も知らずに呪われているよりも、[こいつに呪われている]と解る方が効果が高くなるんじゃないか。であれば、こちらが相手を認識し辛くなる程、その効果を弱められるんじゃないか。そんな想像に全てをかけて、これ程の行為に及んだ。
ユァンは、直前に見た景色と、自身の気力感知を頼りに攻撃を仕掛ける。
相手は魔法士、気力は殆ど感じられない。
戦闘前に使った≪巧緻操気≫は気力感知まで過敏になるため、薄い気力でも追えるが、その効果が切れたら、再使用までインターバルがある。完全にお終いた。
ユァンは、ガゾンを殺した時の物と同じ技、絶穿歩砲と言う技を、
その時よりも強力な気力を形成して仕掛けた。
だがそれは、視力聴力を封じた故の狙いの甘さと、ペンタスの反応速度で、ギリギリで掠めて行く。
「このっ!!≪呪詛・平疹不!!」
(掠った!当たった!!そこじゃ!!!)
「≪散華≫!!!!!」
ユァンは、ジョルジュを殺したのと同じ技を、スキル化させる事で更に強化して放った。その指先から伸びる極細の気力の針は、その末端のあまりの細さ故の圧力により、いとも容易くペンタスの魔力防御を貫通し、腹部を貫く。
そしてその瞬間、腹部から体外へ、まるで巨木の枝と、そこから咲く花のように突き抜けた。
だが、≪散華≫の気力の針は、確実にペンタスの命を奪うだろうと言うのに、
それぞれがあまりにも細すぎる故に即死には至っていない。
(スキル化する技を……間違えたか……)
だが、次の技を使う余裕はない。なにより、拘束は出来ている、解除する訳には行かない。
「・……動………転≫」
ペンタスが呪術を発動すると、ユァンは全身の皮膚が泡出つ。
全身の異常な痒みにより、意識が飛びそうになった。
「…………かっ!!………ぐぎ………ぎ…」
「お、俺は……天才なんだ……こんな、ジ、ジジイに…」
「……………が、我慢比べじゃ、どっちが先に、くたばるか」
「ふ…≪不、心苛・‥‥…順、転≫………」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ~~~~!!!!」
「大声を…出したくらいで、晴れる様なストレスじゃねぇぞ……さっさとくたばっちまえ…」
(これか!!!俺の攻撃にかかる、異常なストレス!!散華を解除したい!!!
何度か受けた呪術で、骨も、皮膚も……頭がおかしくなりそうじゃっ!
俺は死んでも良い!!!!だが!!!無駄死にはせん!!!)
「ぐっ…くっ!ああ゛っ!!…っ!!」
ユァンは気力を振り絞り、≪散華≫を維持し続ける。
「………………初めて…褒められたんだ…。呪術の、天才なんだ……。簡単だったんだ………」
ぶつぶつと呟くペンタスの声は、ユァンは何も聞き取ることは出来ない。
やがて、最後の呟きと共に、ペンタスは意識を失った。
「姉、ちゃん…」
(………!!!痒みが……治まって行く様な…。奴の呪術が解除されたか…)
だが依然、折られた骨や、荒れた皮膚は治らない。
自身が傷つけた目も耳も同様だ。
≪巧緻操気≫の効果が切れると、その痛みが一層強く襲ってきて、≪散華≫を解除した。
(ぐ……うっ…、そ、そうじゃ…ポーションを……………)
ユァンはポーションへと震える手を伸ばした。




