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森の中に潜むもの

作者: 空川 億里

俺は、ナグ城に馬で向かっていた。傭兵として俺は各地で戦に明け暮れていたのだが最近は戦争もなく、暇を持て余していたのである。そこへちょっとした儲け話が、転がりこんだ。 

城門には衛兵が2人いた。

「何の用だ? 貴様」

 片方の衛兵が、ふてぶてしい顔つきで、俺を睨んだ。

「こいつを見て、ここへ来た」

 俺は羊皮紙に書かれたおふれを、相手の鼻先に突きつける。

「ズガの森にいる妖魔を倒せば百万リウの賞金が出るそうだな。この話、本当か?」

 衛兵が2人、互いに顔を見合わせた。

「中に入れ」

 声をかけて来た方が再び口を開き、そいつが俺を案内する。城内に馬と共に入った俺は、やがて大きな屋敷へと案内された。そしてその屋敷の主人の前に連れてこられる。主人は、白髪頭の老人だった。

「わしは、この国の軍務大臣をつとめるブパじゃ。おぬしが、妖魔狩りに来たという傭兵か?」

「その通りです。剣の腕なら、誰にも負けません。もののけを退治すれば、100万リウを貰えるってのは本当ですかい?」

「その通りじゃが、妖怪の正体がわかっておらん。事の起こりは3ヶ月ほど前からじゃ。森の中に入ったきり木こりや猟師が行方知れずになる事件が頻発した」

 渋い顔になってブパ大臣が説明を続ける。

「これは大変じゃという事で、10名からなる兵士達を送りこんだが、こちらも戻ってこなかったのじゃ。もはや手の打ちようがなくふれを出して、怪物退治に加わる勇者を募ったが、今のところ全員が戻ってこん」

「早速俺が、その森に行きます」

「わかっておろうが、妖魔を退治した証拠を持ってこいよ」

「無論です」

 俺は早速噂の森に入った。今まで俺が見てきた森と、特に変わるところはない。鬱蒼と茂る木々。どこからか聞こえてくる鳥の声。カラスがいて、猿がいて、リスがいる。妖魔だの、怪物だのといったものに会わぬまま歩くうち、やがて俺は疲れてしまう。

 脚が棒のようになり、そろそろ休みたくなった。やがて木立の向こうに、思わぬものが現れる。それは2階建ての木造の屋敷だ。そばまで行ったが人の気配は感じられない。木のドアをノックして、大声で何度も呼びかけたが返答がなかった。

「入らせてもらうよ」

 俺は、木のドアを開く。扉はきしむ嫌な音を立てる。中に入るとあちらこちらに蜘蛛の巣が張っていた。結局中には誰もいないので、休ませてもらう事にした。袋に入れて持ってきたパンを齧り、竹筒に入れた水を飲んだ。

 やがて、夜が訪れる。歩き回って疲れていたので寝台に潜りこむと、すぐに眠りが訪れた。数時間後、異様な気配がして目を覚ます。何かが急速に近づいてくる。それは壁から飛び出してきた。

 半開きの窓から差し込む月明かりに照らされたそれは、太い鞭のようである。反射的に俺は鞭の襲撃を逃れ、ベッドから床に転がった。鞭の太さは丸太ほどあり、寝台に突き刺さる。俺は寝室のドアに走ったが、施錠したわけでもないのに開かなかった。

 そこへ次々壁から出てきた鞭のようなものが俺を襲ってくる。ベッドから離れる時に咄嗟につかんだ剣でそれを薙ぎ払う。意外にもそれは簡単に斬れた。鞭というよりタコやイカやクラゲが持つような触手である。

 容易に切断できたとはいえ、その衝撃は強く、剣が震えるほどだった。俺は窓から逃げようとしたが、先程まで半開きだった窓はいつしか閉まり、部屋のドア同様思い切り力を入れて開けようとしても、ビクともしない。

 そこへ再び尖った触手が襲ってくる。俺はわざとギリギリまでよけず、自分に当たる直前に、その場を離れた。尖った触手は窓にぶち当たり、窓が壊れる。俺は破損した窓の隙間から夜の森に踊り出た。

 そして馬をつないだ木に向かって走り、その背の鞍に乗ってロープを切ると、馬の腹を蹴って走らせる。

 その俺の背後から、家が追いかけてきた。家の下からムカデのようなたくさんの足がいつの間にか生えており、まるで矢のような速さで迫ってくるのだ。どうやら屋敷の正体は「家族いえぞく」と呼ばれる怪物だ。噂には聞いていたが、遭遇するのは初めてだった。

 姿は一見普通の住まいだが、中に泊まった人間を鞭のような触手で叩き殺して食べてしまうのだ。俺は森の中にある、周囲に木のない開けた土地までやってくると、馬の腹に蹴りを入れ、その地の上を、ジャンプさせる。

 その後ろから追ってきた家の化け物は馬が飛び越えた場所まで来ると、地面にできた落とし穴にはまって中に落下した。その落とし穴は、事前にナグ城の兵士達に、ブパ大臣が掘らせたものだ。

 単身で怪物を仕留めるのが難しい場合を考慮して、作らせたのだ。穴は深いので、もののけは出られそうになかった。俺は馬を城に向かって急がせる。が、森を出る前に巡回警備に出ていた兵士達と出くわしたので、かれらを連れて落とし穴に引き返す。

 地面の中で蠢く妖魔の異形を目にして兵達は俺の偉業を認めてくれ、100万リウを俺は手にした。


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