拠点を襲おう
拠点ではアイテムの補給や装備のカスタム、休憩が出来き、対モンスター用の重火器もある。ただし、交戦エリアに含まれることをお忘れなく……
ある日の夕方、アラン、ジョー、リリーは同盟のプライベートルームに居た。フリードはあくまでソロが基本のようで、あまり顔を出していない。
「今日はどうする?ナナは昨日来れるか分からないって言ってたしな……」
アランは装備のカスタムをしながら言った。
「じゃああの洞窟行くのはどう?まだ探索し切れてないでしょ?」
「あの触手野郎はめんどくさいからゴメンだよ」
リリーの案をジョーが断る。触手に捕まってまで開けた宝箱の中身が不満で、未練があるのだ。3人が色々と話しているとナナがログインした。
「お、来たか。今日はどうする?」
アランが話しかけるが、彼女は俯いたまま自分のベッドまで歩いて行った。
「何かあったのか?」
ベッドに仰向けに寝転び、右腕で目を覆った彼女に声をかける。
「……失恋した」
短くナナは答えた。
彼女がぽつりぽつりと語った内容は、同じ大学の男子に振られた、とのことだった。
「1年くらい片想いして、ようやく告白したら友達としてしか見られないって……」
「それは……残念だったな。まぁ、他にいいやつは見つかるって」
「適当なこと言わないでよ。リアルの私がどんなか知ってる?その上VRゲームにのめり込むオタク女子なんて誰も好きにならないって……」
目元は見えないが、泣いているのは明らかだった。慰めようとした言葉が仇となり、アランは困り果てた。ジョーの方も「お手上げ」と首を横に振った。
「分かってたよ。他に可愛い子沢山いるもん。それなのに、勝手に期待して……」
「その、俺達に何か出来ることあるか?1人になりたいならジョーとリリー連れてどっか行くが……」
「じゃあ……」
とナナは口を開いた。
「八つ当たりに付き合って」
しばらくして、4人は森のエリアに来ていた。前方にはログハウスがいくつか並ぶキャンプ地のような場所がある。アランは草の陰から頭を出し、双眼鏡で偵察した。
「6人ぐらいか」
アラン達は高所にいるためよく見えた。そこには6人程青い腕章の人物、教団の信者が彷徨いている。
「あそこは狩場に近い拠点で、装備の変更とか、モンスターのリスポーン待ちが出来るんだ。でも、今はカルトに占拠されてる」
ナナが双眼鏡を見ながら言った。
「準備エリアなら攻撃は出来ないんじゃないか?」
「拠点はPvPエリアに含まれるから、ダメージは通る。サバイバルな雰囲気を味わって欲しい、ってことでそうなってるらしい」
4人は少しずつ前進した。ナナによるとこの拠点は小規模な物で、占拠してる信者も少ないそうだ。
「そろそろ行こうか」
そう言うナナは笑っているがどうにも違和感のある表情だった。
「ゲームでも突撃する前はこうなるんだよね。緊張と、興奮の入り混じった感じ」
彼女はFALのチャージングハンドルを引いて弾を装填した。
「始めるよ」
ナナが手近の敵にセミオートで5発撃ち込んだ。銃声に反応して敵が振り向く。今回はNPCではなく、生きた人間が相手だ。
「突撃!!」
ナナがそう叫ぶと4人は一斉に走り出した。来る途中に打ち合わせた通り、アランは途中で止まるとストーナー63を掃射した。敵に頭を上げさせないためだ。100連発のマガジンを付けているから、撃ちまくれる。その間に他3人が距離を詰め、それを確認するとアランも前進する。小屋の横に伏せると応戦している敵が見えたのでフルオートで仕留める。ストーナー63は少し重量はあるが、使いやすい武器だ。横からも銃声が聞こえ、ナナ達が戦っているのが分かる。3人の銃はそれぞれ別で、アランは誰が撃っているのかも分かるようになっていた。セミオートか、短い連射音はナナだ。威力が高い代わりに弾数が少ないから、そうしている。ジョーはAKを基本フルオートで撃っている。ナナのFALより音が小さい。一段と早い連射音はリリーのM10だ。激しく撃ち合っているが、銃声は少しずつ減っている。こちらが有利だ。
3人を支援しようと移動した時、重々しい銃声が聞こえた。重機関銃だ。敵の1人が小屋の屋根にある重機関銃を使っていた。無線からナナの声が聞こえる。
「気を付けて!アイツは木の壁くらい貫通するから!」
機銃の掃射を受けて彼女達は身動き取れずにいた。幸いアランは気付かれてはいない。敵はナナ達のいる場所に撃ち続けている。
「俺が仕留める」
アランは無線で伝えると立ち上がった。銃を構えたが、機銃の周辺は簡易的なトーチカのようになっていて、狙えない。
「やるしかないか」
他の敵の気配ない。アランは慎重にそのトーチカへと接近した。
ポーチから手榴弾を取り出すと、ピンを抜く。しっかり2秒待ってからトーチカの穴に放り投げた。見事手榴弾は中に入った。すると銃声が止み、数秒して爆発音が聞こえた。だが、アランには敵が爆発前に逃げるのが見えていた。彼は走って建物の裏に回ると、背を向けて走る敵を見つけた。狙いを付けて引き金を引き、背中を打ち抜いて倒した。
「機銃手をやった!」
「了解!残敵掃討、全員突っ込め!」
アランの声を聞くと、ナナは拳銃を抜いて走り出す。彼女が使うのはCZ75というチェコ製の拳銃だ。物陰に隠れていた敵に側面から回り込み、何発も弾丸を撃ち込んで始末した。
「オールクリア、かな?」
「ああ。全滅だ」
ナナとジョーが周囲を確認する。動くものはない。戦闘終了だ。
戦闘が終わり、ナナは建物の屋根の上に座っていた。その隣にアランが座る。
「少しは気分晴れたか?」
「少しはね。ありがとう」
ちょうど夕暮れの時間で、遠くの山に沈む夕陽が見えた。辺りの森がオレンジ色に染められている。ナナはすっかり元通りだった。
「綺麗な夕陽だよね。バーチャルだから、完璧な形が再現されてる」
「そうだな。でも、これだけ綺麗な夕陽を作れる会社が買収されるなんてな」
このゲームの完成度の高さはアランも感じていた。それなら、なぜカルトに買収される事態になってしまったのか疑問に思った。
「制作チームは確かに優秀で、自分たちの作りたい世界を見事に再現出来てた。でも、この手のゲームは開発と維持に莫大なお金が掛かるからね。発売後の経営が失敗したんだって」
「あまり儲からなかったのか?」
「正直なところね。ごちゃ混ぜ感がすごいし、会社の宣伝の仕方も悪かったみたい。それで負債の処理に困った会社が、運営権を売ったの。当時、カルトの連中は表向きは普通の会社を装ってたから」
ナナは苦笑しながら説明した。「それはそうと」と、話を変えた。
「失恋の傷を癒すにはまだ八つ当たりが必要かも。明日も付き合ってくれる?」
「構わないぜ。中々楽しかったしな」
「対プレイヤーも悪くないよね」
しばらくの間、2人は夕陽を見つめていた。ずっと見つめていると、まるでそれが本物のようにすら思えた。
ガンナーズ・ライフの時間は現実とリンクしていない