ミサイル奪取作戦
廃ビルが立ち並ぶエリア、モナカは消音器付きのスチェッキンピストルを構えた。路地を歩く、グレーの迷彩服にプレートキャリアを付けた敵に近付き、頭を撃ち抜いた。減音された銃声が小さく鳴った。念の為頭にもう1発撃ち込み、死体を物陰に引き摺る。これでもう3人を静かに仕留めている。
その様子を、ナナとアランは高いビルから双眼鏡で見ていた。モナカ以外にも複数人のメンバーが静かに敵を倒している。
この場所はNPCが徘徊している基地だ。カルトと戦争を始めて以来、来るのは久しぶりだった。
「モナカは相変わらずだな」
「あの人には試験なんか要らなかったかも。えっと、ダグラスは合格で、エスカルゴも合格……」
脱出に向けたグラデュエイト作戦の第2段階、シューティングスター。カルトの拠点に忍び込んで、ミサイルを奪取する作戦だ。このミサイルは死亡すると落としてしまう。そのため増援を呼ばれて激しい戦闘にならないよう、敵を静かに倒す必要があるのだ。今はその隠密作戦のメンバーを選んでいるところだ。NPCに見つからずに基地を攻略させ、隠密の適性を見極めているのだ。
「お、モナカが最後の1人をやったみたいだ」
双眼鏡を覗いたまま、アランはナナの肩を軽く叩いた。
「これで最後のグループだね。それじゃあ戻ろっか」
その日の夕方、制圧した拠点の倉庫にシューティングスター作戦のメンバーが集められた。潜入チームには試験で選んだ人員が10人。その中にはモナカ、リリー、フリードもいる。続いて中の敵を制圧した後、ミサイルを運び出すメンバーが、アランとナナを除いて20人だ。反乱突撃隊から信用出来る古参メンバーを選んだ。ゲームからの脱出が関わるため、作戦は秘密裏に行われた。
「他のメンバーには内緒だけど、この作戦は脱出に繋がる。今回奪ったミサイルをカルトの拠点に撃ち込んで、ログアウトする」
「ナナ、伝えていいのか?」
いきなり彼女が秘密を明かすので、アランは驚いた。
「この際だからね。拉致されて、ある拠点に監禁されてたんだけど、そこのシステムボックスにはログアウトのボタンがあったの。そこから……」
そのことを伝えるとメンバーはざわつき、歓声を上げる者もいた。
「静かに。一応機密事項だ」
アランは皆を黙らせた。もし話が外部に漏れ、そこからカルトに伝わっては元も子もない。
「そう言うわけだから、いつもより真剣に取り組んで。それじゃあ詳細を……」
その時、倉庫のドアが乱暴に開けられた。
「おい、立ち入り禁止だぞ!」
外で見張りをしていたジョーの慌てた声が聞こえる。
「こんな所で何コソコソしてやがんだ?」
入って来たのはムラタ組の斬り込み隊長、フエゴを筆頭とした10人程だ。ムラタ組だけでなく、反乱突撃隊の比較的新しい面々も見える。
「どうもお前らは俺達に何か隠してる気がしてな。この丘を取ったのも何か別の意図がありそうだ。話してくれよ。仲間なんだろ?」
そうには言いつつ、彼の手にはマシンピストルKG-9が握られていた。
「それで、どんな悪巧みをしてんだ?俺達に隠れてよ」
「話し合いたいならその銃を置いたらどうだ?」
アランはフエゴの方を睨んだ。
「アンタこそ、腰のリボルバーから手を離せよ」
フエゴが睨み返し、緊迫した空気に包まれた。
「これは機密事項だから」
ナナがそう返すも、彼は引き下がらない。
「機密ねぇ。何企んでんのか知らねぇが、俺達を良いように使い潰そうって魂胆は気に入らねぇ」
彼はムラタ組との協定にもあまり乗り気ではなかった。その上ナナ達幹部がここ最近内密にことを進め、目的不明瞭なまま命令を出していたのも事実だ。
「方針が分からない以上、俺達は協力出来ねぇ。ここにいる以外にも、お前らを疑ってる連中はいるぜ。どうするよ?指揮官さん」
フエゴは挑発するようにナナを見た。アランも彼女がどうに出るのか固唾を飲んで見ていた。
「……これから言うことは、絶対秘密にしてくれる?」
「内容によるな」
ナナは30秒程、ゆっくりと考えていた。
「……この作戦には、脱出が絡んでる」
そして、簡単に脱出のプランを話した。
「んで、勝算はあんだろうな?」
「最後は賭けになるかな。それでも脱出のチャンスは少しでもあるから、その賭けに乗って欲しい」
彼女はフエゴの目を見て言った。賭けとは言ったが、ナナの口調からは自信を感じられた。
「そう言うことかよ。……いいぜ。人生なんざ運任せみたいなモンだしな。その代わり、ヘマすんなよな?ムラタさん程俺は優しくねぇからな」
「そっちこそ、脱出したいならある程度は私に従って」
「……あいよ。んじゃ、俺達はこれで失礼するぜ」
しばらくフエゴはナナを睨んでいたが、気怠そうに手を振りながら仲間を引き連れて去って行った。
「ナナ、あれで良かったのか?」
アランがそう聞くと、ナナは緊張を解いて溜息を吐いた。
「私も微妙なところ。でも、何か問題起こされるよりはマシだから。それより準備を進めよう。幸運なことに、今夜は雨だ」
ナナは不敵に笑い空を見上げた。
夜、雨が降る中アラン達は行動を起こした。目的の兵器庫は高いフェンスで囲われたエリアだ。無論、偵察は済んでいる。二手に別れてフェンスの前に伏せる。アランはワイヤーカッターでフェンスに穴を開けた。
「よし、行ってこい。上手くやれよ」
その穴を使って潜入メンバーが中へと潜り込む。敵に見つかりにくいように、全員カルトと同じ青い腕章を付けている。代わりに全員同じ黒の迷彩服を着て、首と足に赤いスカーフを巻いている。それが味方の目印だ。
モナカはSKSライフルを背中に背負い、消音器付きの拳銃を構えた。この拠点には監視塔が4つあり、そこのスナイパーを始末するのが彼女の役割だ。まず、監視塔下で椅子に座っていた敵を拳銃で頭を撃ち抜いて射殺する。死体を物陰に隠すと階段を登る。監視塔はシンプルな構造で、階段を登ればすぐ狙撃手の待機場だ。幸い狙撃手は階段に背を向けていた。モナカは拳銃を仕舞うとナイフを使い、背後から静かに喉を切り裂き、息の根を止めた。続いて、背負っていたSKSを構える。これにも消音器が付けられている。彼女はそれを使って他のスナイパーを次々と始末する。100mも離れていないから彼女にとっては楽な仕事だった。地上に目を向けるとフリードから高台から飛び降りて敵を斬り捨て、その近くでリリーが見張りを刺殺するのが見えた。他のメンバーも順調に敵を仕留めている。銃で殴ったり、ナイフを使ったり、ほとんど音を立てずにだ。モナカは監視塔からの狙撃を続けた。地上の敵を3人始末したところで無線を使い
「クリア」
とだけ伝えた。
その連絡を受けたアラン達は急いで基地の中へ入った。
「急げ。やられた連中がすぐ連絡を入れるはずだ」
彼らは敷地の中央にある武器庫の前に集合した。
「よし、作戦通りにな」
皆は息を整え、正面から武器庫へと入った。入ってすぐの部屋は、ソファーやテーブルなどのある休憩室になっていた。
「臨時の増援だ。本部から送られて来た」
そう言うジョーを先頭に、隊列を組んで堂々と侵入する。ナナは軍用ポンチョを着てフードを被っている。
「増援?そんな話は聞いてないぞ?」
中にいた信者6人が不審な眼を向ける。
「ああ。さっき決まったんだ」
ジョーが適当に話を合わせる。アランはさりげなく隊列を離れた。
「ブーツの中までびしょ濡れだ」
そう言ったのが合図だった。
全員が同時に銃を抜き、信者達を一斉に攻撃した。
「クリア!」
ポンチョを脱ぎ捨てたナナが叫ぶ。ジョーとアランがミサイルの保管場所へ続く道を先導する。道中に敵は無かった。やがて保管場所の両開きの扉があった。ガラス窓からコンテナに積載されたミサイルが見える。
「中は無人だ」
アランがそう言うとナナは扉を開けて中に入り、頷いた。
「運び出して」
ミサイルはアタッシュケース型の発射装置を取ることで使用可能になる。壁際の棚からそれぞれ1個ずつ、素早く手に入れた。ゲームの仕様としてアイテムボックスに仕舞えるので、戦闘に支障はない。
「離脱だ!急げ!」
ミサイルの発射装置を奪取するとアラン達は武器庫を出て、近くにあった軍用トラックに乗り込む。運転はアランだ。
アクセルを踏み込み、フェンスを薙ぎ倒して外に出た時だ。雨の降る夜空に赤と緑の光が見えた。また、道路からは車のヘッドライトも見える。
「もう来やがった!5人一緒に来い!奴らを食い止める!」
ジョーは叫ぶと仲間を連れてトラックから飛び降り、拠点の敷地へと戻る。彼は固定されたM2重機関銃で上空の光、天使のヘリを狙った。
「こっちだ!こっちに来やがれ!」
叫びながらヘリを狙い、地上の車列にも弾幕を浴びせる。彼の横を何かが高速で通過した。見れば、フリードがRPG-7を発砲した後だった。
「いいぞ!派手に撃ちまくれ!」
5人はカルトの部隊に激しく撃ち続けた。
数分後、基地の中へ撤退しながら戦闘を続けるも生き残ったのはジョーとフリードだけだった。2人は今、小さな物置小屋に籠城している。入り口の扉は敵の死体で閉まらなくなり、机を掩体にして隠れている。
「ジョー、何人殺したか覚えてるか?」
「さぁな?20人は確実だが」
敵の攻勢は一旦静まり、束の間の休息が訪れた。
「ま、目標は果たせたぜ。奴らがこっちに押し寄せたお陰で、ナナ達は逃げられたらしいからな。ところでフリード、弾あるか?」
「こっちに、残り1マガジンだ」
フリードはモーゼルC96拳銃を彼に渡した。ジョーの弾はもう無くなり、刃を射出出来る、スペツナズナイフも先程使ってしまった。
「どうする?弾も少ないし、殺されてリスポーンするか?」
「それは気に食わん。自分の運命は自分で決める」
「ま、そうだよな」
次の瞬間2人の間に小さな何かが飛び込んだ。
「フラッシュバン!!」
ジョーは叫んでそれを投げ返し、両目を腕で覆った。それでも、激しい閃光と轟音が彼を襲う。続いて激しく銃撃され、フリードの叫び声が聞こえる。
「ジョー!!俺を撃て!!早く!!」
少しだけ顔を覗かせると、味方の援護射撃を受けた信者がフリードを外へと引き摺って行くのが見えた。その信者は、杖のようなスタンガンを持っている。ジョーは躊躇った。だがフリードと眼が合うと、彼は頷いた。
ジョーの放った正確な弾丸が、フリードの頭を撃ち抜く。即死だ。信者は慌てて建物の外壁へと隠れた。
「奴らに捕まったら、何されるか分かんねぇからな……」
ジョーは机の陰で、自らの頭にC96を突き付ける。
「ゲームだけど、嫌な気分だぜ……」
そう苦笑すると、彼は思い切って引き金を引いた。




