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報復攻撃

非交戦エリアでは家の所有も可能だ。ゲームの中にもう一つの家を持とう

 反乱突撃隊のプライベートルーム、メンバーは突如失踪したナナの行方を追っていた。アランが拉致される彼女を見てから、現実世界の時間で1日経過していた。

「こちらいちごマン、小さめの拠点を3つ襲いましたが手掛かりはナシです……」

アランは北部のあちこちの拠点に捜索部隊を送り込んでいるが、手掛かりはない。

「了解だ。もう少し北の拠点を探してくれ」

もう何時間も続けている。アランはテーブルに広げた地図を睨んだ。マップ北部には教団が拠点にしてそうな場所がいくつもある。やはり、より北方にある警備の厳重な場所だろうか。あるいは、プレイヤー同士の攻撃が出来ないエリアに捕まっているのかも知れない。そうなると救出が困難にになる。

 

 誰かがプライベートルームに入る気配がして顔を上げた。

「手掛かりはあったか?」

何気なくそう言うと、そこには見慣れた姿、ナナが立っていた。

「無事だったか!!」

立ち上がって彼女に駆け寄る。ナナはアランの姿を見ると、力が抜けてその場に座り込んだ。

「大丈夫か?奴らに何かされたのか?」

「今は……言いたくない。とにかく、家で休みたい」

アランはメンバー全員にナナの帰還を連絡すると、2人で彼女の家に向かった。

 

 彼女の家は非交戦エリアにあるログハウスだ。中は狭い基地のようになっている。弾薬箱や銃器が置かれた環境だが、彼女にとって見慣れた場所に戻ったことで、少しは落ち着いたようだった。それでも酷く疲れたようで今はベッド横になっている。

「しっかし無事で良かったぜ。どうする?報復でもするか?」

「後でね。ジョー、ナイフありがう。助かった」

「礼ならリリーに言ってくれ。とにかく、無事で何よりだ」

部屋には幹部メンバー4人が集まっていた。ナナは簡潔に連れ去られ、監禁されていたとだけ話した。薬やあの青年のことは言う気にならなかった。ログアウト出来ることも、今は黙っていた。

「学校襲って、逃げるチャンスくれたのもありがとうね」

「捕えられてた場所か?俺達は何もしてないが……」

ナナの捕まっていた学校はかなり北の方にある。ナナがいる確証もなく、突然警備も厳重だろうからと襲撃には慎重になっていた。攻撃した、という報告もない。

「え?それならあの攻撃は別の反乱グループか……」

「とにかくさ、無事で良かったじゃん!ね?」

リリーは明るく言って場を和ませようとした。

「……ねぇ、ちょっとリリーだけ残って席外して貰える?」

言いにくそうに、ナナは口を開く。

「俺はいいけど、何でだ?」

「そうだ。理由を教えて欲しい」

首を傾げるジョーとフリード。

「……いいから外行くぞ」

何かを察したアランは2人を引きずるようにして外へと連れ出した。部屋にはナナとリリーの2人きりだ。


リリーは彼女のいるベッドに腰掛けた。

「それで、どうしたの?」

「リリーにだけ、聞いて欲しいの……」

ナナはゆっくりと身体を起こした。リリーはいつになく真剣な面持ちで彼女の話を聞いていた。ナナにとって、アレは初めての経験だった。自分が臆病なだけかも知れない。ただ抱き付かれただけ。格闘戦で組み付かれたことも何度かある。それでも、彼に全身を泥か何かで汚されたような不快感が未だ強く残っていた。思い出すだけで悪寒が走る。ナナは伝えたいことが多過ぎて上手く言葉に出来なかった。リリーはゆっくりと話を聞いていた。


 数十分後、リリーが乱暴に扉を開けて外に出た。彼女は髪を振り乱し、急いでどこかへ向かっているようだった。

「おいおい、どこ行くんだよ?」

「報復!奴らに仕返ししてやるの!」

引き止めるジョーに、彼女は強い口調で言った。

「報復って……ナナから何を聞いたんだ?」

「言えない!でも、仕返ししないと気持ちが収まらないの!だって、だってナナは奴らに……」

彼女は決して理由を言わなかった。だがナナのことで、信者達に強い怒りを抱いているのは明確だ。

「ヘリも、装甲車も、全部用意して!」

「待て待て待て。ナナに許可取ったのか?それにこの前痛い目見ただろ?」

「でも!やらなきゃいけないの!」

2人の押し問答は続いた。アランが仲裁に入ろうとすると、家のドアが開いてナナが出て来る。

「リリーが急いで出たと思ったら、そう言うことね。ありがとう、私のために怒ってくれて」

彼女は疲れながらも、笑って見せた。

「もう大丈夫なの?」

リリーは心配そうに声を掛けた。

「大丈夫。奴らを襲うなら私も参加させて。部屋にいても、思い出すだけだから。走って、叫んで、撃って、泥と硝煙に塗れれば少しは忘れられるでしょ」

彼女が何をされたのか具体的なことは分からない。それでも、報復によって彼女の気が晴れるのなら、アランにそれを止める理由はない。


 アラン達は他のメンバーも巻き込み、すぐに攻撃を開始した。今回は天使を警戒してあまり北部へと行かずに、中小規模の拠点を次々と襲った。ヘリで奇襲を仕掛けたり、道路で車を待ち伏せて爆破したり、色々な方法で教団に打撃を与えた。このゲリラ攻撃は2デイ中続けられた。ついでに、また1つの拠点を奪うことに成功した。砂漠にある、寂れた飛行場だ。手の空いたメンバーを防衛に送っておいた。

「少しは気が晴れた?」

「少しはね。でもいつかはアイツを斬るから」

ゲリラ攻撃が終わり、アラン達は占領中の村の塹壕で見張りをしながら休んでいた。丁度自分達の番となったのだ。リリーはまだ満足していないようだが、ナナは充分だった。何より、自分のために怒ってくれたことが嬉しかった

「ありがとね。あたしに付き合ってくれて」

「気にすんなよ。仲間の頼みだ」

リリーはメンバーにお礼を言った。アランは塹壕の中、弾薬箱に座った。攻撃と移動を何度も繰り返し、流石に少し疲れた。

「私からもありがとう」

戦闘によって、ナナの心も平静を取り戻しつつあった。

「皆んなと出会えて良かったよ。ここに私の居場所があったんだね」

「おいおい、最終回みたいなこと言うなよ」

ジョーが笑いながら彼女を小突く。

「だって、言いたかったから。皆んなのお陰で、嫌なことも忘れられそう」

ナナの瞳は数時間前よりもずっと輝いていた。

「マジで最終話か、それに近い回のセリフだぜ?」


 そう言ってジョーが立ち上がった瞬間だった。すぐ近くで小規模な爆発が起こる。破裂音と共に土煙が舞い上がる。続いて村と反対の草原と茂みの広がる方から激しい銃撃があった。

「敵襲!敵襲!」

あちこちで声が上がり、戦闘配置に着く。

「リリーは固定機銃に!フリードは補助!ジョー、左翼陣地を固めて!」

「おうよ!」

ナナはメンバーに配置を言い渡し、自分も銃を構える。この日はFALではなくM3サブマシンガンを使っていた。

「この爆発、グレネード ランチャーか?」

「多分そう。アランも分かってきたね」

アランはナナの隣で敵陣に銃を向けた。

「天使だと思うか?」

「さあ?でも、やるだけだよ」


 数時間前、マップ北方。教団占領下の学校にて。

白いヘリコプターから降りた東雲は護衛の天使3人に守られ、急いである場所に向かっていた。着いた先は、校門付近の機銃陣地だ。彼はある信者に話しかける。メガネを掛けた若い男だ。ホロサイトを装備したAK-74を持っている。

「兆しが現れたのは本当か?」

「はい。リアルで、2日前から。半日前には赤警告が出たので、恐らく……」

「そうか……恐れは感じているかな?」

「恐れはありませんが、少し寂しいですね。仲間と、会えなくなるんで」

彼は悲しそうに笑った。

「でも、俺はこれでいいんです。やっと、解放されるんですから」

それでも、男は清々しい顔をしていた。

「君が望むのなら、私はその旅立ちを見守るだけだ。その他に望みはあるかな?最期の時だ。自由に過ごすがいい」

東雲は彼の肩に優しく手を置いた。

「ありがとうございます。それじゃあ、仲間と一緒に居たいです。最期の瞬間まで」

「分かった。その仲間はどこにいるのかね?ヘリで送ってあげよう」

東雲は優しく微笑む。そして彼を連れて、ヘリコプターへと戻った。

購入した乗り物は何度でも呼び出せる

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