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囚われ

注意!

今回、若干ではありますがセクシャルな表現があります。R-15程度、少年誌で連載可能なレベルではありますが、人によっては不快感を覚える可能性もあるため、ご注意ください

 ナナはマップ北部の学校に捕えられていた。自分達が占領しているのとは別の学校だ。校庭に置かれた檻に入れられ、出口は車で塞がれている。元々人を閉じ込められる檻がこのゲームには無いため、こうしたやや強引な監禁方法になっているのだ。本来ならメニューを開けばバクで壁に埋まった際などに近くに脱出出来るシステムがあるのだが、使えなくなっていた。


 彼女は交渉の後、スタンガンで動きを止められた。誰かが信者を攻撃しているのは知っていたが、よく見えなかった。その後は頭に袋を被せられ、繰り返しスタンガンを当てられ、また筋力ステータスの高い信者に押さえられてここまで連れて来られた。地面に座り込み、信者達に見つめられるのは酷い屈辱だった。

「あの狙撃は君の仲間かな?」

「さぁね?」

東雲は彼女の周りをゆっくりと歩いた。ナナはなるべく粗暴に振る舞って不安を悟られない様にした。スカートの下のナイフはまだバレていない。

「まぁいい。それより、今から君の本心を話して貰う。少々乱暴になるが、許して欲しい。君のためだ。もし本当に君に救済が不要なのであれば、すぐに解放してあげよう」

ナナは一瞬喜んだが、気が付いた。もしここで救済不要と判断されれば、ログアウトすることは可能だ。だがそうなるとメンバーを残して自分だけ立ち去ることになる。東雲としては反乱のリーダーをここで潰すことが叶うのだ。脱出は悲願だが、何も言わずに立ち去ることはしたくなかった。仲間を置き去りには出来ない。


 東雲は懐から注射針の様な物を取り出した。大柄な信者がナナの腕を掴む。

「嘘を言うのはかなり頭を使うことだ。心の言葉と、声に出す言葉を区別することも。この薬はその境界線を払い、心を開かせてくれる」

自白剤だ、とナナは察した。このゲームにそんなアイテム存在しないはず、と考えたが彼らは運営だ。その辺りの細工は容易いのだろう。

抵抗も虚しく、腕に薬が注射された。僅かな痛みが走る。


 電子ドラッグと呼ばれる物の原理をナナはよく知らない。だが脳に特定の刺激を与えて薬物を使った時の様な効果を出すことが可能で、それが一部で蔓延して問題になっているとはニュースで聞いたことがある。ゲーム内で味や痛みを感じるのだから、上手く調整すれば薬物を再現することも可能なのだろう。


 薬が注射されると、ナナは恐怖に震えていた。これから自分がどうなるのか、想像も付かなかった。廃人になる不安すらもあった。やがて意識が朦朧とし始める。眠りに落ちる寸前のような感覚だ。

「まず簡単な質問からしよう。名前と年齢は?名前はこの世界での名前でいい」

「……ナナ。歳は20……」

咄嗟に思ったことが思わず口から出た。

「なるほど。職業は?学生か?」

「大学2年」

「いい調子だ。君は現実に満足しているのかな?」

「……してない。何の才能も無いし、好きな人にも振られたし、友達も少ないし、将来性も無いし……」

呂律が回らなくなり初めていたが、東雲は椅子に座りしっかりと聞いていた。

「君は我々が嫌いかね?」

「嫌い。胡散臭いから」

「そうか。では何故、このゲームを続ける?」

「銃が撃てて、美少女になれて、みんなが、私を慕って、見てくれるから。リーダーでいられるから……」

流れるように止め処なく、思った言葉がそのまま口からで続ける。段々と意識も薄れ、注意して聞かなければ聞き取れない程に呂律も回らなくなっていた。やがて耐え難い睡魔に襲われ、ナナは地面に横になった。

「では、君はこのゲームからの……いや、ここが限界か」

遠くで東雲の声が聞こえていたが、彼女の意識は闇へと落ちていった。



 どれくらいの時間が経っただろうか。徐々に意識が戻る。自分のベッドの上かと思ったが、すぐに先程のことを思い出した。恐る恐る目を開けると、そこはどこかの物置のようだった。体育で使うようなマットの上に寝かされてた。

「……人の幸せを真似する必要はない。あなたは、あなたの幸せを手に入れればいい。高収入で美しい相手と結婚し、高級マンションに住み、ブランドの服を着て、高級車を乗り回すのが幸せとは限らない」

近くから東雲の声が聞こえて、慌てて起き上がる。

「目が覚めたんだね」

物置の入り口には武装した信者がパイプ椅子に座っていた。彼の足元にはラジカセのような機械が置かれ、そこから東雲の演説が流れていた。

「仕事帰り食べるラーメン、休日に見る昔の映画、安売りの酒……。それでいいじゃないか。あなたが幸せなら、それでいいのだ。高級で光輝いていなくとも、あなたはあなたの幸せを見つければいい」

「いい言葉だよね。僕も彼のお陰で本当の幸せに気が付いたんだ」

その信者は一見優しそうな青年だった。しかし長い杖状の武器を持ち、腰には拳銃の入ったホルスターを装備し、椅子の側にはライフルまで置いてある。

「……耳障りだから消してくれない?」

「ダメだよ。寝起きは言葉を吸収するのに効果的なんだ」

東雲の演説は続いた。思い返すと夢の中でもその声が響いているようだった。まだ薬が残っているのか、頭がよく回らない奇妙な感覚だ。それにこの部屋にはお香のような妙な香りも漂っている。東雲は時に熱く、時に優しく、様々な言葉で感情を刺激する。その言葉が胸に真っ直ぐ入って来ることに違和感を覚えた。

「君の居場所はここにある。現実に苦しむ必要はない。我々は君のことを愛し、必要とするだろう……」


薬の効果か、しばらくは動けずにいた。すると

「ナナ、ようやく会えたね」

青年が唐突に立ち上がった。

「僕のこと、覚えてないかな?」

「……覚えてない」

過去の記憶を探ってみたが、全く覚えがなかった。

「そうか……あの日、君は僕のいる村を襲ったんだ。僕達は奇襲されて塹壕に逃げ込んだ。そして、君はそこに突撃した。明方の空、FALを構えて突っ込む君は、とても……綺麗だったよ」

ナナはその日のことを思い出した。反乱を始めてすぐの頃だ。確かに村を襲い、塹壕に逃げた敵を掃討した。それでも敵全員の顔は覚えていない。気にも止めていなかった。

「あの日僕は君に一目惚れしたんだ。この気持ちはどうにも抑えられない。せめて、抱き締めさせてくれ」

青年は杖を持って立ち上がるとナナに接近した。よく見ると、杖の先端にスタンガンが取り付けられているのに気が付いた。次の瞬間青年はそれを槍のように突き出す。不意打ちを食らったナナは僅かな痛みを感じた後、動けなくなった。そこに覆い被さるように青年が抱き付く。

「愛してるよ。いつまでも待つから僕に好きと言ってくれ」

悪寒が全身を駆け巡る。

「離せ!この変態!クソ野郎!殺してやる!!」

身体は動かせない。思い付く限りの罵倒を彼に浴びせる。

「随分キツイこと言うんだね。美少女が台無しだよ」

「黙れ!」

続いて彼はナナの身体をゆっくりと撫で回した。

「ゲームだけど、やっぱり女の子って柔らかいんだね」

いつぞやの触手モンスターよりもずっと気色が悪い感覚だ。相手の体温も、息遣いも、それらが自分の内側を侵食しているようだった。しばらくそれに耐えていると、動けることに気付いた。スタンガンの効果が切れたのだ。彼はまだ気付かず抱き付いたままだ。暴れたい衝動を抑えて、悟られないよう、慎重に右手をスカートの下に伸ばす。


 仰向けに押し倒されていたナナは、左腕と両脚で青年を抱き返した。

「ようやく僕を受け入れてくれるのか!?」

彼が歓喜した瞬間だった。右手のスペツナズナイフを背中に思い切り突き刺す。

「痛い!何をするんだ!」

「私のこと好きなんでしょ!?死ぬまで抱き締めてなよ!!」

逃がさないように抱き締め、何度も刃を突き立てる。青年は滅茶苦茶に暴れて拘束を振り解いた。

「また僕を騙したな!!女なんてみんなそうなんだ!後悔させてやるから覚悟しろ!」

激昂した青年は距離を取り、杖状のスタンガンを構えた。ナナはナイフの切先を向ける。

「リーチがある分杖の方が有利だぞ!」

「これがただのナイフだったらね」

彼女がナイフのグリップに付いたボタンを押すと、バネ仕掛けで刃が射出された。身体の中心を狙った刃は深く突き刺さり、青年が後ろに倒れる。即死には至らず、重傷状態だ。

「畜生……卑怯だぞ……」

「2度と私に関わるな」

ナナは彼の杖を奪うと、スタンガンの無い方を突き立て、トドメを刺した。


 変態を始末した彼女は、今になって物凄い恐怖と不快感に襲われた。全身が泥か何かに塗れ、すぐにでも洗い流したい気分だった。

「とりあえず脱出しないと……」

彼女は青年の死体からナイフの刃を回収し、ホルスターの拳銃を奪う。消音器の付いたワルサーP38だ。

「趣味は悪くない……」

この場で自害すればすぐリスポーンが出来るが、感覚がリアルなのであまり気持ちの良い物ではない。続いて椅子の傍らのライフルも奪う。

「嘘……これって……」

手にして驚愕した。それは自分が普段使うカービン仕様のFALそっくりだった。

「お揃いの銃を作ってたの……?気持ち悪い……」

すぐにでも投げ捨てたい気分だったが、銃に罪はないと割り切って持って行くことにした。


 倉庫は学校の端の方に位置していた。ナナはライフルをスリングで背負い、消音器付きの拳銃を構えてゆっくりと歩き出した。夜で辺りは暗く、雑草やガラクタの山など遮蔽物もあり、隠密には最適だ。校庭には車が止まり、巡回の敵も多い。この辺りいるのは体育館入口の2人の見張りだけだ。かなり前だがここに訪れたことがあり、中に転送用のシステムボックスがあったことを思い出した。それを使えばすぐ自分の拠点に戻れる。フェンスをよじ登って脱走するか、見張りを倒して装置を使うか考えていると、遠くから1人の信者が歩いて来るのが見えた。ナナは近くの砂山の影に隠れた。耳を澄ますと、見張りと話す声が聞こえた。

「よう、どっか行くのか?」

「今日は落ちる。明日はバイトだ」

「半日だったか。頑張れよ」

「ああ。仕事終わって、飯食ったらすぐに戻る」

「おう、その頃俺はフリーだから、いつもの街で会おうぜ」

歩いて来た男は体育館の中へと入った。その会話をナナは注意深く聞いていた。そして目を大きく見開いた。

「ログアウト出来るんだ……信者は……」

校庭で檻に入れられている時に、警備が異様に多いかったことを思い出す。あれは自分を逃さないためではなく、ここを守るためだとしたら……。


 その時、敷地の外から銃声が聞こえた。何発も繰り返し撃ち込み、爆発音も聞こえる。信者達が校門の方へ殺到し、激しく応射をした。体育館前も見張りも警戒体制に入った。お互い同じ方向を向いている。誰の襲撃かは知らないが、好機だ。ナナは側面から2人に接近し、ワルサーP38で1人目のこめかみを撃ち抜いた。2人目も素早く眉間を撃ち抜き、体育館の中に入る。体育館の中は無人だった。ステージの上に、無機質な箱が4つ並んでいる。それの画面に飛び付いて操作をする。そこには、テレポートの他にログアウトのボタンも見えた。ナナは歓喜に叫びそうになった。だが、この情報はなんとしても仲間に伝えなければならない。外ではまだ撃ち合いが続いている。自分の存在が気付かれる前に、彼女は反乱突撃隊の拠点にテレポートをした。

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