第七突撃隊
プライベートルームはメンバーが自由にカスタム出来る。友達と理想の部屋を作り上げよう!
3人は街に戻るととある建物に入った。そこはギルドや連盟と呼ばれる、組織に所属する人だけが入れるプライベートルームだ。このゲームでは同盟と呼ぶらしい。
「ここが我ら『第七突撃隊』のプライベートルーム。リーダーは私ね」
彼女は自分の同盟を紹介した。本来はメンバーしか入れないが、今回はナナの権限で特別に入れてもらった。内装はメンバーが自由にカスタム出来るらしく、木箱や緑色の弾薬箱が乱雑に置かれた、秘密基地と言った印象の部屋だった。部屋の中央には同盟の旗、黒地に白色で2丁のライフルと1振りの刀が斜めに並んだデザインのものが飾られている。アランは勧められたソファーに、ナナは古いが少し豪華な膝掛け椅子に座った。
「話を戻すが、何でそんな環境でまだ続けてるんだ?」
アランはここまで2人から今の環境がどれほど酷いかを聞かされていた。狩場の拠点を選挙してモンスターやアイテムを横取りされたり、集団で追い回されたりと散々な目に遭っているそうだ。
「そりゃあなぁ、愛着のあるゲームだし?」
「それに、時々やり返したりもしてる。それで、どう?やって行けそう?」
「せっかくのところ悪いけど、俺は降りるよ。チーターとかならまだしも、カルトなんて妙な連中には関わりたくない。それに奴らが運営なら尚更だ。」
2人は乗り気ではあったが、アランはそうではない。そのカルトがどんな団体なのかは知らないが、薄気味悪さを感じて関わるのは御免だった。それに、その連中が運営しているとなると一刻も早く離れたかった。
「そっか……」
そう言うとナナは視線を下に下げた。
「ま、無理強いは出来ないしな。でも、勿体無いとは思わないか?」
ナナほど落胆してはいないが、ジョーも引き止めようとしていた。
「ディープ・ドリームのゲームは高いからな。あ、今このゲーム売っても最低価格で買い叩かれるだけだから期待すんなよ」
「……そうなのか?」
プライベートルームから出ようとしたが、思わずその言葉に足を止めた。
「私もすぐ辞めちゃうのは勿体無いと思うな。お金も払って、せっかくアバターもカッコよく作って、なのにすぐ辞めちゃうなんて」
「それもそうだが、変な連中に支配されてるんじゃあな……少し考えさせてくれ」
ナナは立ち去るアランを引き止めなかった。その代わり
「この部屋、いつでも入れるようにしておくからさ、気が変わったらここに来てね」
と声を掛けた。
アランはどこへ行くでもなく、車を走らせた。乗っているのは古い軍用ジープだ。グラフィックも綺麗で、車の振動や銃の反動もリアルだ。辞めるのは勿体無いとは思う。それでも、胡散臭い団体が運営しているゲームなんて嫌だった。しかし、ナナとジョーには助けられた恩がある。アランは答えを出せずに運転を続けた。
しばらくして、彼は森の中にいた。車はゲームだからと無茶な運転をしたせいで湖に突っ込んだので捨てておいた。しかし、闇雲に走ったせいでマップを見ても場所がよく分からない。どうにかM16ライフルは回収出来たので歩いてみることにした。薄暗い森の中を歩いていると、5mほど先を鹿が横切った。何となく、アランはその鹿を仕留めようと思い、M16で狙った。フルオートで動きに合わせて撃つと通知音が撃破を伝え、鹿が倒れる。死体まで近付き、アイテムを確認する。肉と欠損した角を入手した。
「こんな所で会うとは奇遇だな」
突然、後ろから声が聞こえた。
「おっと、銃を捨てな。既に狙いは付けてある」
ここはゲームで、死んでもすぐに復活する。従うのも馬鹿馬鹿しいと思ったアランはM16を撃ちながら振り返る。即座に相手も発砲し、右腕を撃ち抜かれ、銃を落とした。僅かな痛みが感覚のフィードバックとして訪れる。
「言ったろ?狙いは付けてるって」
そこにいたのは青い腕章を付けた男6人だった。そして、前に出ている2人には見覚えがある。最初に奇襲した相手だ。
「本当ならまとめて仕返ししたかったが、まぁお前だけでもいいか」
2人は銃を置くとナイフを抜いた。
「お前も抜けよ。死にたくなかったらな」
「クソ……」
渋々だがアランはベルトの鞘からナイフを抜いた。ゲームでも、このまま黙って殺されるのは御免だった。
「それじゃあ、2対1のリベンジマッチといこうぜ。見たところ初心者だろ?奇襲出来たからって良い気になるなよな」
アランは姿勢を低くして右の男に突撃した。だが真横に躱わされる。その隙に回り込んだもう1人が背中を思い切り蹴飛ばした。身を翻してその男に飛び掛かるも、また避けられて首筋をナイフの柄で強く殴られた。
「今度はこっちの番だ」
続いて最初に狙った男が攻勢に出た。アランはなんとか攻撃を避けるも、何箇所も浅く切られ、ダメージが蓄積していた。
「もらった!」
応戦する隙を突かれ、腹部を深く刺される。体勢が崩れた所に、もう1人が追撃をする。アランは真後ろに倒れて動けなくなった。
重傷状態、急所以外の攻撃でHPが0になると起きる状態だ。這って移動したり、片手で扱える武器での応戦は出来るが、時間以内に蘇生アイテムを使わないと死んでしまう。
「俺らの勝ちだな。で、どうする?」
「通りすがりの奴に回復されんのもアレだし、やっちまうか」
男2人は笑いながら歩み寄る。そして、アランの身体を強く踏み付けた。何度目かの攻撃で、アランは死亡した。視界が暗転し、目の前に文字が浮かぶ。「死亡しました。1分後に復活します。リスポーン地点を選んでください」
アランは最初の喫茶店で復活した。復活後も1分程はシステムボックスから離れられない。その待機時間が終わると、歩き出した。せっかくゲームを始めたと思ったら、カルトに乗っ取られた状態で、屈辱的なPK行為もされた。彼の心はもう決まっていた。そして、アランは目的の場所に着くと扉を開いた。
重傷状態でもやれることはある。大事なのは諦めないことだ。