First Operation
同盟メンバーの入団決定権はリーダーのみが持っているが、この権利は委任することも出来る
「戦争を始めよう」
そう宣言したナナの行動は早かった。彼女はまず、仲間を増やすように動き出した。アランも勧誘のため、マップ南部の様々なエリアを飛び回っている。
「カルト相手に戦争か……」
「ああ。収拾がつかない程に荒らしてやれば解放されるかもされない、って考えた結果なんだが……」
今も勧誘の最中で、目の前には男女5人のグループがいる。
「その話、乗った!」
リーダー格の男が言うと他の面々も頷いた。
「ありがとう。招待送るからナナ、うちのリーダーの承認を待ってくれ」
3日間で第七突撃隊は30人程の規模に成長した。またゲーム内の1日を「デイ」と呼ぶことも決めた。現実世界の時間経過と区別するためだ。
最後のメンバーを勧誘してから数時間後、全員が集結したプライベートルームで、ナナは皆の前に立った。メンバーの視線が彼女に集まる。
「なんか緊張するね……」
リーダーらしさを出すため、黒いベレー帽を被った彼女は照れ笑いしながらアラン達と目を合わせた。
「えっと、まずは私の誘いに乗ってくれてありがとう。これからカルトの連中に反乱して、私達を閉じ込めたことを後悔させてやろう」
最初は緊張している様子だったが、その言葉は次第に力を帯びていった。
「それじゃあ、早速そのための第一歩を始めよう。私達の最初の作戦。ジョー、お願い」
「おうよ」
彼がリモコンを押すと、スクリーンに写真が映し出される。写真には学校が映っていた。
「ここは南北境界線近くの学校で、文字通りカルトの連中が学びの場として使ってる」
ナナは近くにあった指示棒を持ち、校舎の一角を指した。
「そしてここには放送室がある。これを使えばゲーム全体にメッセージを送れる。この前、教祖がやったみたいにね。今回はここを制圧してプレイヤー達に呼びかける。奴らに抵抗するように。アラン、偵察の報告を」
「ああ」
アランが前に出る。数時間前にここを偵察していたのだ。
「学校の表門に見張りが2人で、他の見張りは校庭、屋上、裏門に1〜3人ぐらい。授業中だったらしいが、使ってるのも2教室に15人ずついる程度。それから重火器は無かった。つまり、総数としては俺達と同じか少ないくらいだな。以上だ」
アランが偵察結果を報告すると、ナナが作戦の説明に戻る。
「今回の作戦は二手に分かれる。まずは陽動班。これはジョーをリーダーにして敵を誘い出すのが目的。校門前の道路で平和的に治安を乱して。奴らもこっちが手出ししなければいきなりは撃たないはず」
「平和的に治安を乱すってどうやんだよ……」
そこまで知らされていなかったジョーが突っ込みを入れる。
「エンジン空ぶかししたり、爆音で音楽流したり、とにかく騒いで、奴らを誘い出して。ある程度口論したら殴り合いの乱闘に持ち込んで。ギリギリまで発砲は無し」
「了解だ。やってやるぜ」
ナナは頷くと人員を発表した。第七突撃隊に加わる前のグループを優先して振り分けている。ジョーの他にはフリードが選ばれた。
「それで、残りは襲撃班として私と一緒に裏山に潜伏。騒ぎが起きたら学校に入って、3階の放送室を目指す。放送内容は後で共有するから、占拠出来次第始めて。説明は以上。何か質問は?」
全体を見渡すと、フリードが手を挙げた。
「作戦名は?必要だろ?」
「それを言うのを忘れてたね作戦名は……スクール・ジャック作戦」
最初の作戦となる、スクール・ジャック作戦が始まった。早速アラン達襲撃班は裏山に潜んでいた。教団は明確に前線を作っている訳ではないから、潜入するのは簡単だった。木々が生い茂る斜面で、学校の裏門を見つめる。
「今見張りは1人か……」
ナナはいつものセーラー服ではなく、上下緑の戦闘服を着ていた。銃もグリースガンというサブマシンガンを持っている。消音器も取り付けてあった。裏門には、G36ライフルを持つ見張りが退屈そうに椅子に座っていた。アランはナナから離れた位置で校門の方を見ていた。ちょうどその時、4台のピックアップトラックが正門付近に止まった。そして、それぞれが行動を開始する。
陽動班は20人程だ。それぞれが様々な方法で騒ぎ出す。クラクションを鳴らしたり、ドリフトをしたり、ナナの期待通り治安を乱している。また1台の車の上では
「それじゃあ、ゲリラライブの時間だ!」
ジョーが激しくエレキギターを掻き鳴らした。校門前はカオスな状態だ。耐えかねた見張りが動き出す。
「おい、今すぐやめろ。中で講義をしてるんだ」
「うるせぇ!大人に俺の気持ちが、ロックが分かるかよ!」
ギターを弾きながらジョーは適当にでまかせで言い返した。他の面々もそれぞれ抗議する。校舎の方からも数人が応援で集まる。
「いい加減にしないと、撃ち殺すぞ!」
「やれるもんならやってみやがれ!」
ジョーはギターを振り回して信者の中へと飛び込んだ。他メンバーもそれぞれが殴り掛かる。信者側は銃を抜いて発砲しようにも、この乱闘では味方に当たる恐れがあって撃てない。さらに増援が駆け付け、見事な大乱闘となった。
「ナナ、上手くいったみたいだ」
アランはナナの近くに移動した。あれだけ校舎から人員を動かせればだいぶ楽になるだろう。
「了解。私達も動き出そう」
「ああ。にしても、ジョーのやつギター弾けたんだな」
「あれはエモートだよ。メニュー画面から選んで、システムが身体を動かしてくれるやつ」
それだけ言うと彼女は斜面を滑るように降りて入り口に近付いた。
裏門入り口、眠そうにしている見張りにリリーが飛び掛かる。
「なっ!?」
銃を構える間もなく、見張りは斬殺された。
「どう?今の奇襲?」
「良かったと思うぞ」
リリーは自慢げにアランを振り返った。
「ここから先は放送室を目指すのが最優先だからね。行くよ」
ナナを先頭に、彼らは校舎に侵入した。
入ってすぐ、廊下を歩く敵をナナがグリースガンで仕留める。消音器を付けていても、ある程度音は聞かれたはずだ。
「行くよ!急いで!」
彼女は叫ぶと走り出す。手近な階段を駆け足で登り、一気に3階まで行く。途中で遭遇した敵に体当たりをし、ゼロ距離で射殺する。廊下に出ると、待ち伏せていた敵が激しく撃ってきた。
「援護する!」
アランは曲がり角から銃だけ出すブラインドファイアでストーナー63を掃射する。150連発のマガジンを付けているから撃ちまくれる。
「今だ!」
相手が教室に隠れている間に、彼の後ろからナナ達数人が廊下に出る。アランが射撃を止めると敵が顔顔を出した。しかし、すぐにナナが撃ち抜く。アランはこうした戦術もナナから教わっていた。アランは前進し、敵の居た教室に手榴弾を投げ込む。爆発と同時に腰だめで乱射しながら飛び込む。数発弾が掠ったが、生き残った2人を始末する。
「クリア!」
「半分は後ろを警戒して!」
アランは教室から出るとナナと合流した。少し進むとまた別の教室から応射があった。ナナは素早く床に伏せる。
「アランは援護!また手榴弾投げてあそこを制圧する」
「あたしに任せて!」
アランが立射でストーナーを撃ちまくり、その下をリリーともう1人が姿勢を低くして進む。後ろのメンバーが手榴弾を投げ、爆発が起こると刀とM10を抜いたリリーが飛び込む。2秒程、激しく銃声が交差した。
「倒したよ!」
教室に踏み込むと4人の敵が倒れていた。リリー自身も撃たれたようで、注射器型の回復アイテムを使っている。
「流石だな」
接近戦の乱闘はリリーの得意分野だ。
「関心してる場合じゃないよアラン。早く放送室を押さえないと」
「そうだったな」
ナナに言われたアランはストーナーのマガジンを替え、再び廊下へと戻った。放送室まで後少しだ。
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