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新作です。今回もよろしくお願いします。
無機質な女性の合成音声が聞こえる。……ディープ・ダイバー起動。ユーザー認証……完了。選択されているゲーム「ガンナーズ・ライフ」。よろしい場合は決定ボタンを押してください。
意識の転送を開始します。決定ボタンを押してください。……転送開始。デバイスを外さないで下さい。それでは、良いゲームを。
静かな部屋の中、浅山晃斗は目を覚ました。彼はここでの名前がアランだったことを思い出す。彼はまず自分の両手を見て、部屋を見渡した。木造のカフェのような場所だ。自分の背後には広い空間があり、そこに不釣り合いな灰色の箱が6つ置いてある。大きさは成人男性の腰ぐらい。箱には、液晶画面が付けられ、その隣には鏡がある。写っているのは自分のアバターだ。中肉中背だが、黒髪で若く、男らしい顔立ちをしている。服は茶系色のシンプルな戦闘服だ。どうしたら男前になるのか考えながら作ってみたのを思い出した。
アランはその箱に向かうとタッチパネルを操作した。そこから銃を選んでタップすると、彼の目の前に1丁のM16ライフルが浮かび出る。手に取ると、それは重力に従って下に落ちた。確かな重さを感じる。ゲームだが、よく出来ていると感心した。
晃斗、アカウント名アランは今ゲームの世界にいる。ディープ・ダイバーと言う意識をゲーム世界に飛ばす次世代のゲーム機を使ってだ。ディープ・ダイバーを通したゲームではボタンもレバーもない。現実世界と同じように動き回れるのだ。アランが今プレイしているのは「ガンナーズ・ライフ」。1年半ほど前に発売された、広大なフィールドと様々な銃が魅力のゲームだ。ここではプレイヤー同士の対戦や、モンスターや人間のNPCとの戦闘も楽しめる。彼は約半年前にゲームを買って少し遊んだが、直後にお気に入りのシリーズが発売されたため、久しぶりの復帰となる。彼が先程操作した箱は、システムボックスや転送装置と呼ばれて、ログアウトや装備の変更が行える装置だ。またログインや死亡した時に復活する装置でもあった。
アランは自分の銃を持ってログイン地点であるカフェを後にした。外には中東の砂漠風の街並みが広がっている。NPCやプレイヤーらしき人もちらほらと見える。彼は身体を慣らすために、近くの砂漠へと向かう。
街の入り口にあった車でしばらく走ると、砂と同じ色をした、トカゲのようなモンスターを見つけた。大きさは小型のバスくらいある。アランは車を止めると、M16を持って走った。岩の影に隠れつつ、狙いを合わせる。慣らすのにはちょうどいい強さの相手だ。
その時1台の車がモンスターに接近した。車から2人の男が降り、モンスターを銃で攻撃した。ここはプレイヤー同士も攻撃が許されるPvPエリアだ。プレイヤーを倒すと金が多く手に入る。アランは隙を付いてその2人を襲うことにした。
2人の男は前足や尻尾で攻撃するモンスターと距離を取りつつ、銃弾を浴びせて難なく仕留めた。アイテムを拾うために死体に近付いた時、アランは引き金を引いた。片方にフルオートで数発撃ち込み、振り返ったもう1人も同じようにして仕留めた。撃破したことが通知音で知らされる。
「よし!」
奇襲に成功した彼は2人の死体に近付く。死体に近付くと空間に入手可能なアイテムのリストが表示される。換金用のモンスターの素材と現金だけだ。また、2人は服装は違うが同じ青色の腕章を付けていた。そうしていると、車のエンジン音、続いて銃声が聞こえた。
見れば、1台の車が接近して来ている。車には4人乗っており、アランに向けて発砲している。彼らは先ほどの2人と同じ、青い腕章を付けていた。
「仲間か?運が悪いな」
彼は慌てて、先程倒した2人の車に乗るとアクセルを踏み込んだ。ログイン早々にやられる訳にはいかない。
砂漠を全力で駆け抜けるも、しつこい追っ手を撒けなかった。何発もの銃弾が彼の身体を掠める。やがて嫌な音がして後ろのタイヤがパンクした。撃ち抜かれたのだ。追い付かれると思ったアランは車から飛び降り、岩の後ろへと逃げ込んで戦う覚悟を決めた。音から相手が車を止めたのが分かる。自身はないが一か八か、アランは銃を構えて岩から飛び出した。
引き金を引くより前に、銃声と共に1番端の男が倒れる。疑問に思いつつも、手近な相手をフルオートで仕留める。すると今度はライフル2丁分の連射音が聞こえ、残る2人が倒れる。
「何だ?」
その方向を見ると、砂漠の斜面を下ってくる車が見えた。咄嗟に照準を合わせるも、攻撃する気配は見えない。やがて車は近くに止まり、2人の自分が降りた。
「警戒しなくていいぜ。俺たちは味方だから」
「そ。だからそれ下ろしてくれないかな?」
1人は緑の迷彩服を着た、短い金髪のアランよりやや長身の男だ。ハンサムな顔立ちをしている。もう1人は小柄で白いセーラー服を着た女性……と言うより少女だ。髪はショートヘアで、薄茶色だ。
「助かったよ。だけど俺は久しぶりに復帰した初心者だから、役には立てないと思う」
なぜ見ず知らずの自分を助けてくれたのか、疑問だった。
「そうなの?珍しいね、この時期に」
アランがそう答えると2人は少し驚いていた。
「用がある訳じゃないけどさ、困ってそうだから助けてみたんだ」
「それは……ありがとう。でもどうして俺を?」
男の方が言う。アランは素直に礼を言った。
「そりゃあ困ってる人がいたら当然だよ。そうだ、初心者って言ってたけど、どれくらいな感じ?」
「少し遊んでシステムは何となく分かるが……正直まずどうすればいいのか分からん。銃もあまり詳しくないしさ」
「だったら、その……一緒に来ない?」
少女は控えめながらもアランを誘った。
「いいのか?足手纏いになるかもだが……」
「全然いいぜ!俺たちはエンジョイ勢だからな!」
男は親指を立てて笑った。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前はジョーだ。アンタは何て言うんだ?」
「アランだ。よろしく頼む。それでそっちは……」
「私はナナ。これからよろしくね!」
ナナはライフルを置くと右手を差し出した。アランはそれを握り返す。装備を見る限り、2人はそれなりにやり込んでいるようだった。このゲームをあまり理解していないアランには有り難い誘いだった。
「本当に初心者なんて久しぶりに見たよ!」
「だな。まぁ俺たちが身内だけで遊んでるのもあるけど」
アランはジョーの運転する車の後部座席に乗っていた。隣にはナナが座っている。
「そんなに珍しいのか?」
「運営が変わってからはね」
「運営が、変わった?」
アランは思わず聞き返した。するとナナが説明してくれた。半年程前、アランが一旦離れた辺りで運営会社が経営不振に陥り、別の企業に買収されたと言う。
「それでここからが本題なんだけど、今の運営、カルトなんだよね」
「はぁ?」
ナナは苦笑していた。
「ニュース見てないのか?」
「あんまりな」
「変な宗教団体が運営権買収して、ここを楽園にするとか言ってんだよ。さっきアランを襲ってたのカルトの連中だ。青い腕章が目印だな。奴らはフィールドにある拠点の幾つかを占拠してるし、狩場も支配されてるようなもんだ。酷い話だよな」
今度はジョーが呆れた様に話した。
「要約すると、カルトに乗っ取られてクソみたいな環境だってことだよ」
彼はやけくそ気味に笑った。
ありがとうございました。今回は後書きと前書きにチュートリアル文を書こうと思います。
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