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【Side】松戸雪哉 〜姉との再会

挿絵(By みてみん) 


 僕はマツトユキヤ《松戸雪哉》享年17歳 3年前にこの世界にやってきた。気がつくと人気のない丘の上にいたので、とりあえず情報を欲して丘を降りた。たしか僕は親友の香取君と予備校からの帰り道に通り魔に刺されて死んだんだった。


 ……香取くんが無事ならいいんだけど。


 丘を降りると神社があった。松戸神社と書いてある。読み方は違うけど馴染みのある漢字だ。境内には銀杏の木があってがぽぉっと光っている。


「死後の世界の木は光ってるんだね。綺麗……」

 銀杏に手を触れると雷のような衝撃を受けた。

「ここは死後の世界じゃない!僕は転生したらしい」

 唐突に色々な事を理解した。


 細かい事まではわからない。ただここが明治時代である事。3年後の今日、姉も誰かに殺されて同じ場地に転生すること。香取君も亡くなってこの世界に転生した事を理解した。社を振り返り柏手をうつ。


「姉が殺されるのは自分には阻止できないので自分がこの世界で再び姉に会えますように。姉を迎え守るだけの力をつけられますように。姉がこの世界の万人に愛されて、恙なくすごせますように。香取くんに再開できますように」

 

 親に縁の薄い姉弟だった。姉は母であり、姉であり、時に妹のようでもあった。姉さんが殺されるなんて有り得ない。もし自分が生きていたなら姉の死は耐えられなかったはずだ。ここに来てまた一緒に暮らせるなら……


 小さい頃は2人でいつもゲームをしたり、一緒に同じ漫画を読んで過ごした。ヲタクと呼べるほどではないと思うがゲーム発のアニメをみて育った世代なので、ゲームは当たり前にやっていた。

 それが原因かわからないけど効率厨に育った。勉強も2人で目標を設定してゲーム感覚で達成した。僕が小学校に入学した時、姉は「色々興味を持った方がいいからね」と言って理科や歴史の漫画を沢山買ってきた。僕の人格形成の9割以上が姉であると言っても過言ではない。世界で一番、いや宇宙で一番大事な存在なのだ。


 社から振り返るとほわほわした銀杏の光がすーっと斜め右後ろに飛んで行った。光の方向を樹にあたる太陽の影の角度で方向で記憶して歩き出す。矢切の渡しで江戸川を渡り真っ直ぐに歩いて行った。方向を気にしながら5,6キロか歩くと亀有の地に「香取神社」という神社があった。


 香取?もしかして!

 境内にはほんのりと光が灯る御神木があり、10代半ばくらいに見える男の子が茫然自失のていで御神木を見上げてらいる。


「違ったらごめんだけど、香取くん?」

「えっ?誰?」

「僕だよ!マツトユキヤ!」

「松戸くん?松戸くんより若そうに見えるけど」


 香取くんは自分の状況が全くわかっていなかった。もしかすると理解したくないのかもしれない。

 僕は自分の今日の出来事を説明して、香取くんに御神木に触れてみるように促した。彼はビクッと身体を震わせた後、徐に社を振り返り


「俺は天候を支配したい」と呟いた。

「え?どういう事?」 理解が追いつかない。

「雪哉もしたんでしょ?御神木から啓示をもらって御神体にお願いすると、特殊な能力を持つこと叶うって理解したから」

「何だって?!」


 僕は急いで香取神社の御神木に触れてみた。何も起こらなかった……

 僕さっき、何を言った?姉さんと逢えますように。守れますように。彼女が万人に愛されますように。とお願いした気がする。なんてことだ!もしかしてやらかしてしまったかもしれない!




 それから3年間は香取くんと力を合わせて明治の世で基盤を作り生きてきた。できうる限りの環境で姉を迎えるために。



 ちょうど三年後、僕は松戸神社に再び詣でた。もう御神木は光っていないし、触れても何も起こらない。丘を登ると強烈なフェロモンを纏う1人の男の子が古い小屋に入って行くところだった。

 あれは綾姉さんなのか?でも男の子だから違うかもしれない。もし姉さんだとしたら僕の危惧した通りになってしまったのかも・・・姉さんの生活が落ちつくまで、御神木の啓示と授かる能力については言わないでおこう。

 

 ふだん人が来ないような場所なのに、ごろつきのような男達がやってきて小屋に入っていく。あれはたぶん人買いだ!やつらは嗅覚に誘われてやって来たのかもしれない。だとすると躊躇してる暇はないな。抜刀しながら小屋に突入する。

 もう僕は令和の人間ではない!大事な人を守るためならば殺人も厭わない!厭うもんか!という僕の気迫に負けたのか、刀を見てビビったのか男達はあっさり逃げて行った。


 姉だと思われる男子からはさっきよりさらに濃くなったフェロモンを感じる。振り返って見ると、見たことのない表情をしている。(あれは今まで家族だった自分の知らない、異性を見る目・・・)


「おい、大丈夫か?」

 声をかけるととんでもない事を言い出した。やっぱり・・・自分を異性として見ていたせいでフェロモンが濃くなったようだ。

 どうしよう!この能力は絶対に自分のせいだ、どうすればいい?近づくとよりフェロモンが強くなり頭がくらくらして考えがまとまらなくなった。


 (おちつけ自分!これは姉だ!しかも今生は男だ)


 気が付くと強く強く抱きしめていた。

 対策を考えなければ!考えなければ!


 


 もういいや!対策はおいおい考えよう。

 姉は再会を喜んで僕を抱きしめて眠りにつく。こんな幸せな気持ちは何年ぶりだろう?


 僕は考えることを放棄した。

 

 

10/29 誤字脱字、わかりにくい言い回しを改変しました。

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