19時ジャストに
なんか今日は色々あって精神がお疲れ様なのでとりあえず一番落ち着けるはずの自分のデスクに戻ろう。コーヒー飲みながら少し考えを整理したい。
私の椙山班は入り口から1番奥の島で、窓際にある。
入り口を入ろうとした瞬間、二ノ宮馨がこちらを睨んでいるのが見えた。しかも仁王立ちで憤怒の形相で。なんか透明の揺めきが身体をつつんでいる。
怒りで変身しちゃう星の方ですかぁ~?
というか、え?これ私に怒ってらっしゃる?私が戻るのがわかったの?それともずーーーーーっとその状態でいたとか?
……後者だろうな。
綺麗な人なのに、醜悪な生き物に見えるもん。てか、怖っっっ!三十八景 逃げるにしかず!すかさず踵をかえして編集部を出ようとした私を追いかけてくるのが見えた。
エレベーターは2基あって右側は一階に,左側は一つ下の階にいる。階段で一階分下りて左側のエレベーターに乗るまでに左側のが動いたらそこで隠れていればいいね。
階段を一階分走り降りたけどその階にいたエレベーターはまだ動く気配がない。私の班が一番奥の窓際で良かった。追手の方が分が悪かったね。
無事に一階に到着したのでそのまま向かいのビルの喫茶店でお茶をしよう、そうしよう。
コーヒー飲みながら冷静になって考える。あれ?私悪い事してないんじゃ?なぜ二ノ宮さんから必死に逃げないといけなかった?意味がわからない。
今17時半だから1時間したら戻ろう。反射的に逃げたけど、仮に悪いことしちゃってたら謝らないといけないし。
喫茶店の窓から本社ビルの正面玄関が見下ろせる。さっきから出入りしているのはうちの編集部の人ばかりな気がする。小一時間ほど粘っていたら二ノ宮が帰っていくのが見えた。
やっと自分のデスクに帰れるね!間に合いそうで良かった良かった。
編集部に戻ると不思議な現象に遭遇した。まだ18時半過ぎだというのに編集部には誰一人として居ない。ここがこんな静かなのは見た事ないけど、まぁ、いいや。報告書書いて帰る支度しとこう。
少し長めの、何て言うんだっけ?
「天使が通る?天使?キツネだっけ?今日なんか濃ゆい日だったから平和でいいよね。誰も居ないし歌でも歌おうかな、なーんてね」
歌はやめておこう。誰か帰ってきたら恥ずかしいし、椙山に聞かれたら立ち直れない。
「班長まだかな〜」
ふとさっきのことを思い出して赤面する。
やっぱり班長私の事好きでしょ……せっかく誰も居ないんだから早めに来て欲しいな。夕日のあたる窓際なんていい雰囲気じゃない。
「うふふふっ期待期待!」
「何を期待してるんだ?」
「うわぁぁぁ、班長!入ってくるの静かすぎます!」
いきなり現れた椙山にびっくりして立ち上がってしまった。
「間に合って良かった。19時迄まだ数分ある」
「19時丁度に何があるんですか?」
「2人で暮れゆく窓べで愛を語らうんだよ」椙山が含みのある笑顔になる。
「あっ?えっ?なんて?」
「期待していたんだろう?」
「ちっ違います?さっきの期待はそう言う事じゃなくてですね、とにかく違いますって!」
「わかった。そういう事にしといてやろう」
「はんちょぉ〜」
「そろそろ行くか」
そう言って窓際まで連行されるが如く引っ張って連れて行かれた。
まぁ本当に期待、満々の満ですけど。
「班長どういう事なんですか?」
「なんかロマンティックだろう?こういう設定って女子ウケすると思わないか?」
設定って!本当に漫画の事しか考えてないんですね?それにしても私には女子力というものがない。はっきり言って、浪漫ティックとは無縁の長物! なんて返事をすればいいのかわからない。
「はん……ちょう……」
「お前が俺の事を好きなのは知っている。大昔からな。大丈夫だ、俺がお前を守るから……」
「えっ?私が班長を好きって……大昔って……」
私を窓に押し付け壁ドンのような体勢になる。ここの窓は床から天井迄のフィックスの窓なので、嬉しい、恥ずかしいより怖いが勝つ。
「あのっ、班長!そんなに窓にドンってしないで下さい!ちょっと怖いです!」
「だからいいんじゃないか、綾……」
凄い力で抱きしめられてほわほわする。
「綾、蔭間の宿……
班長が何か言いかけた時、轟音と眩しい光に包まれ大爆発がおこった。
彼の私を抱きしめる腕がより一層強くなったのと、もたれかかったガラスが割れる感覚を感じながら・・・
私の意識は暗転した。
10/27 誤字脱字、わかりにくい言い回しを改変しました。