打倒 鳳編集長!
鳳に戦いを挑みにいかないといけない。
彼は前世で私の上司だった人だ。しかも編集長……色んな意味で半端ない。
まず狡智に長けている。
そして何があっても動じない。全く関知しないよと言う体で余裕の笑みを浮かべて相手の腹を探る。
ゴリ押しがかなり強いのに相手がなぜか納得してしまい慕う人が多いという謎。
連載会議や漫画賞の審査にでてくると、ありえない作品を推してきてそれがなぜか通ってしまうのだ。しかも全員一致で納得して……
冷静に考えるならば相手の異能は『この時代の人のみを洗脳する(本人談)』という感じなので、今いるこのメンバーでかかれば能力的には敵ではない。
なのになぜか勝てる気がしないのだ。
プロファイルの共有としてそのことをみんなに話してみた。
「そうだなぁ……あの人は洗脳の力を持っていないころから他人を洗脳する力に長けていた。というのはあるな。その『この時代のひとにしか効かない』っていうのは確かなのかな?」
椙山の問いに
「本人に聞きました。真偽のほどはわかりません。ですが、嘘かもしれないということでしょうか?」
雪哉が首を傾げながら返事をする。
「う~ん……どうなんだろう。そういう嘘はつかないタイプの人なんだが。『元々この時代に居た人以外』に能力が効かないヤツこの中にいるか?俺はタイムリープだからわからないんだ」
「この中で対人の能力を持っているのは香取くんと私だけです。でも私の……フェロモン?のようなものは割と主観に左右されそうなので香取くんに聞いた方が……」
私がそういうと香取くんが
「あっ、自分ですか?どうでしょう?雷は危ないから誰かの上に雨でも降らしてみますか?因みに自分は綾先輩のフェロモンにはノックアウトされてます!」
「じゃあちょっと庭に出るから僕の上に雨降らしてみてよ」
「雪哉~フェロモンの話はスルーなの?」
香取くんが私のフェロモンについて掘り下げたかったらしいけどみんな無視して庭にでた。
庭に出ると雪哉が真ん中に立って香取くんがその上に小雨を降らした。
「あっ、なるほど!」
何かに気づいた香取くんが「部屋に戻りましょう」とみんなを促した。
部屋に戻ると
「結論から言うと元居た時代の友人である雪哉にも自分の天候の能力は効きました。だけどかなり弱まるみたいです。でも綾先輩の能力は」
「綾の能力はどうでもいいって!」
「雪哉なんで言わせてくれないんだよ!」
「あの……すみません。綾さんの能力って?」
吉原健吾がたまりかねたように質問してきたので嬉しそうに香取くんが説明し始めた。
「すみません、綾さん質問なんですが……」
香取くんに説明をすべてぶん投げて私は八坂さんの方に向いた。
「はい。なんでしょう」
「綾さんは前世では女性で剣道をされていたそうですが、体型が変わられても以前の感覚は残ってますか?」
「はい、たぶん。このまえ庭で木刀を振ってみたんですが、むしろ女性の時より力があるようで鈍ってないように思いました」
「そうですか。私は駆逐艦の艦橋の上に上がって修理したり飛び降りたりしていたのであの時の感覚が残っているのか疑問に思ったんで。今の方が脚力あるからピンポイントに飛び降りれるかもしれねぇです」
「それはすごいですね、危険察知したら高いところからも飛び降りて逃げられるって事ですよね」
八坂さんと話をしていたらいきなり健吾が後ろから抱き着いてきて耳の後ろをくんくんされた。
「はぁ!なにやってるの?まさかの男色?」
「あっすみません。令和の事に比べてフェロモン増えてるのか確認したくなって……いやだなぁ皆さん変な目で見ないでください」
どうやら空気悪くしたらしく驚いた健吾が頭を下げた。
いやいや。みんなに謝るんじゃなくて私にでしょ!
「たしかに前に比べてクラっとするような甘い香りがしますね。実際に匂っているのではなく、甘さが脳内再生されるような……」
言い訳のように話し出した健吾はまたみんなに白い目で見られたらしく途中で話すのを諦めたようだ。
かわいそうな子だ……
「で、どうしますか?作戦立てますか?」
私が気を取り直すように話題を変えると
「作戦立てようにもわからないことが多すぎる。八坂さんと吉原くんは会わない方がいい気がするから今回はここに残ってもらって特攻してみよう。出会い頭に殺されるようなことはないだろう。吉原くん、雪哉くんの刀を触ってみてくれ。この刀の能力も未知数だからどのくらいコピーしていられるのか、新たにコピーして前の能力が残っているのか試してみないといけないなぁ。とりあえず今回は桔梗さんを助け出すだけで戦闘は避けるようしよう。もしも逸れるような場合には自力でここに戻る事!いいな?じゃあ雪哉くん、吉原くん、鳳の居場所がわかるか?」
椙山の質問にふたりは目をつぶって探っているようだ。
「わかりました」雪哉が先に答えた。
「この近くです。靖国神社の近くの民家ですね」
雪哉と健吾が同時に答えた。
「……それはまずいな。もし姫野が現れた場合、近すぎると感知されてしまうんだろう?」
椙山が言うと健吾が青ざめながら頷いた。
顔色をなくして震える健吾を見ていると、いったいどれだけのトラウマなプレイを強いられたのかと心が痛くなる。
「仕方がない。吉原くんは湯島の八坂さんの家に一時避難してもらってもいいですか?今は夜中で人気がないんですぐに連れて行ってください。我々は夜陰に紛れて偵察と救出にいってきます」
もしもという事を考えて、できるだけ迅速に健吾を鳳のいる場所から離そうと八坂さんが健吾をおぶって走り出す。
その速さに驚いた健吾が声にならない悲鳴をあげているのがわかった。……がんばれ!
「じゃあ我々も行くか。バディシステムで2人づつ行動しよう。俺と雪哉くん、綾と香取くんだ」
え……私が彰人さんとじゃないんだ……
「自分が先輩とでいいんですか?」
香取くんも同じ風に考えたらしい。
「綾はそのフェロモンがマーカーになる恐れがあるから攻撃系の香取くんと一緒の方がいいだろう?俺はいざとなったら雪哉くんをつれてタイムリープするから、綾をよろしくたのむ!」
「わかりました!命にかえても!」
雪哉椙山組が前衛で攻め込んで桔梗さんを奪取して逃げ、追いかけられたり攻撃されたりしたときに私と香取くんで補助するということになった。
宵の口とはいえ明治では寝静まっている時間だ。
寝ていることを願って前衛の二人が鳳がしけこんでいる民家に忍び込む。
なぜか自然に手を胸の前でくんでしまう自分に驚く。
ふたりが戻ってきたらすぐに何か車系のものを生成しないといけない。
どうやら鳳は眠っているらしい。
ラッキー!そっと桔梗さんの肩を叩いて起こし忍び足で寝床を後にする。
順調!順調! 私はさっきの黒のワゴン車を生成してスライドドアを開けた。
すかさず椙山が運転席に乗り込み雪哉が助手席に乗り込んだ。
香取くんは何年ぶりかで再会した友達を労わるようにそっと桔梗さんの肩を引いて後ろの席に乗り込んだ。
よかった。
最後に私が乗り込もうとした瞬間、音もなく誰かに衣紋をつかまれた。
「あっ、ううぅ」
私はスライドドアを力いっぱい音を立てて閉めた。
思い切り閉めた音が合図となり、私が生成したワゴン車が私が乗っていないのに走り出した。
たぶん私がまだ乗っていないのを誰も気づいていないのだろう。
大丈夫、隙を見てバイクでも生成すればすぐに逃げられる!
また用心棒に御庭番でも雇ているならば息をふきかけて逃げよう。
そう決心して捕まれている後ろを振り向くと私をつかんでいたのは鳳だった。
「……編集長」
「松戸か?余計な事しやがった奴は椙山だろう?ふん、まぁいい。松戸が男になってしまったのは残念だがなんか充分にそそる匂いがするしなぁ」
衣紋をひっぱられて大きく開いた背中を見て編集長がにやりと笑う。
「怖がらなくていい。たっぷり可愛がってやろう……」
コワイコワイコワイ
ダレカタスエテ……




