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【Side】松戸雪哉 ~消えた吉原健吾 其の弐

 「すっ、椙山さんっどうしたんですか?吉原健吾(ゆめちゃん)刺されたみたいですよ?!もしまだ生きているなら僕たちリスクを覚悟で助けるべきじゃないんですか? なんでまた逆行してるんですか?吉原健吾(ゆめちゃん)助けに行ったのに、ただ見殺しにして帰るんですか?僕、綾に頼まれたんです!どうしても助けたいって!」


 椙山氏はあまり何でもない風を装ってただひたすら逆行している。

 こんなに冷たい人だったのか?


 「雪哉くん……落ち着いて。知っている子が殺されている風景を見て落ち着いてなんて言ったって無駄かもしれないけど、俺の考えが正しければ……いや、確証はないんだが、殺したのは姫野だ。俺も今まで姫野に3回ほど殺されたんだが……」


 「えっ?3回?……あぁそうか……」

 「そう、3回。で 2回目も3回目も1回目と同じ場所、つまり俺の場合は椙山神社で目をさました。姫野か姫野が操っている者に殺された者達がどうなったのかはわかるだろう?」


 「……僕は明治7年に転生しました」

 「そうだな。綾と吉原と俺の3回目は明治10年に転生した。あくまでも確証はないんだが、俺の考えが間違っていなければ……」

 

 「吉原健吾(ゆめちゃん)は吉原神社に戻ってくるって事ですか?」

 「そうじゃないかと思う。俺たちは時空のトンネルからでていないからさっきの場所に戻るわけだけど、時空のトンネルの穴から出てしまった姫野が戻ってくる場所は関東じゃない。たぶんだが、石上神宮という奈良の神宮だ。 もし瞬間移動が使えるわけじゃなかったら俺たちの方が先に吉原神社に着くだろう。いや、なんとしても着きたい!急ごう」


 

 さっきの絶望感と恐怖が急に焦りに変わった時、僕と椙山は元居た紀尾井町の真ん中の部屋に到着した。

 ここを出発したのは15~16時位だったはずだけど、戻ると19時を回っていてすっかり外は真っ暗だ。



 「説明する時間はないが急いで吉原神社に行きたい。俺と雪哉くん、あと綾で向かう。聖太朗くんと八坂さんはここで留守を守ってくれ。場合によっては神田の家に戻るから遅くなっても心配は要らない」


 本当に時間との勝負らしく玄関に向かって歩きながら椙山氏は指示をだす。

 綾が何か問いたげに、でもすぐに椙山氏の真横を歩きながら

 「スピード重視ですか?じゃあ黒いハイブリッドか電気自動車を生成します」

と言う。


 令和ならば宵の口だけど明治の19時過ぎは充分暗い。

 人気のない暗い道を音の静かなハイブリッドで吉原まで突っ走った。


 「なんで吉原神社に?」

 運転している椙山氏に綾が真剣な眼差しを向ける。

 きっと二人は令和でこんな感じで仕事をしていたんだろうな……羨ましい。

 椙山氏はさっきの説明を繰り返した。


 「令和の栄光社に行ったんですか?私たちが死ぬより前ですか?」

 「まだ社屋が爆発した気配がなかったから俺たちが死ぬ前だろうな。でも吉原健吾が姫野の仕事場から逃げた後だろう。もう何人かイケメンのアシスタントそろえてたぞ。どうやらあそこのスタッフはみんな呪いのようなもので縛られているらしい」

 「呪い?」と言って綾が「だから突然声が出なくなるのか」と呟いた。


 僕は急に合点がいったような気がして話に入る。

 「マインドコントロールは明治の人にしか効かないと鳳が言ってましたけど、吉原健吾はマインドコントロールじゃなくて呪いで縛られているんですか?」


 僕の質問に「そうだなぁ」と椙山さんが考え込むような返事をした後

 「綾が、吉原健吾が何かを伝えようとすると声が出なくなると言っている。しかも、あの部屋を見ただろう?あれは呪術とか呪詛の類だとおもう」


 「なぜわざわざ姫野先生は健吾君を令和まで連れて行って殺したんですが?」

 綾の質問に、そうか……なぜ明治(ここ)で殺さなかったのかと改めて疑問に思う。


 椙山さんが「う~ん……」とうなりながら

 「姫野が『女になれば私から逃れられるとでも思ったの?』と吉原に聞いていた。あいつは俺と綾が姫野の担当になって仕事場に挨拶に行ったあの日、打ち合わせブースで『姫野のお手付きじゃなくて、姫野にすごく執着されてる』とも言ってたよな。一回元に戻して男として転生させるつもりなのかと思ったんだが……あと、これは感なんだけど……」

 そのまま続きを話さない椙山氏に綾が「感だけど、なんですか?」と促す。

 

 「あくまでも感なんだが、他の時代で死んでも、ループの能力を持つものがいれば今のこの時間軸に戻ってくる。だけどこの時代で死んだら戻れるところが無いんじゃないだろうか……」


 「同じ時間軸の転生した神社に戻る……という事は?」

 綾の質問に

 「そうかもしれない。でもそんな危ない実験はできないだろう?そんな危険な実験するとしたら鳳くらいか?まぁ、あの人も確証がなければやらないと思うし」


 僕もその椙山氏の意見は、なにかストンと腑に落ちてしまった。

 「そうか。だから吉原健吾(ゆめちゃん)をこの時代では殺せなかったんですね。じゃあ反対に姫野をやっつけるならこの時代じゃなきゃダメって事ですね!」

 僕の返事は二人を考えこませてしまった。




 吉原神社はまっくらだった。

 綾は急いで懐中電灯を生成して境内を捜しに行った。

 少し先には花街の明かりがうっすらと広がっているけど、そのぶん境内の暗さはより一層深かった。


 「彰人さん、境内には誰もいないです」

 綾が絶望的な声を出した時、御神木の根元あたりにうっすらとした光が現れた。

 御神木の桜の木の下に倒れた人間のような影が浮かび上がり、光はそーっと消えていった。


 「健吾くん!」

 綾が叫んで駆け寄るよりも早く椙山氏がまだ意識のない健吾くんらしき人をを抱き上げ

 「綾、ワゴン車だ!早く!」と叫び

 綾の生成した黒いハイブリットのエスティマに乗り込んだ。

 「逃げるぞ!急げ!」

 綾が運転席に座り猛スピードで走り出す。


 車が日光街道をひたすら走る。

 当然アスファルトじゃないのでしがみついていないと頭をうちつけそうになる。

 振動のせいか椙山氏が抱えていた吉原健吾が目を覚ました。


 「ここは?え?ワゴン車?」

 混乱している吉原健吾に椙山氏が、吉原健吾(ゆめちゃん)を助けるためにタイムリープしたところから説明を始めた。


 「というわけで君が姫野の黒い部屋で殺されるところから見ていた。俺たちが神社に着いたときはまだ居なかったな、なかなか死ねなかったのか?苦しかっただろう?」

 ゆめちゃんだった時の顔がそのまま男の子になった様な吉原健吾は、刺されて苦しかったことを思い出したのか涙を浮かべて

 「苦しかったです。死ぬかと思いました」

 と答えた。


 うん、死んだんだけど……


 「なかなかこと切れなかったからかえってよかったのかもしれない。転生するところをすぐに保護できたのだから……姫野が先をこされて悔しがるだろうな」


 「ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいのか……椙山さんは俺の事不快に思ってらっしゃいましたよね?それなのに助けてくださるなんて。俺、言えないことが多いんです。○○いで!」


 たぶん『のろい』と言いたかったんだろうけど、そこだけ声が出ていない。

 「漫画でなら説明できるんです。何か描くことのできるペンか筆、あと紙が欲しいです!」

 「なるほど、漫画に制限かけると仕事にならないからそこだけ呪いを緩めてあるのか。質問には答えられるのか?首を縦か横に振る事は?ダメなら瞬きでもいいぞ?YESなら3回、NOなら2回瞬きをしてくれればいい」


 「はい。大丈夫な限り答えます」

 「じゃあ最初の質問、姫野と一定の距離離れる必要があるか?」

 返事をしようとして声が出なかった健吾くんが頷いた。


 「それはそのくらいの距離だ?」

 健吾くんが必死に人差し指を動かそうとしているのを見て椙山氏が

 「1m?」「1㎞?」

 1㎞のところで必死に瞬きをした。

 「最低1キロってことか?10キロくらい離れれば大丈夫そうか?」

 今度はゆっくり頷いた。


 「わかった。じゃあ予定どおり神田の本部に向かおう。綾、道わかるか?運転変わるか?」

 「大丈夫です。向かいます!」


 元々吉原健吾を匿う予定で借りたばかりの神田の家に着いた。

 一昨日、八坂さんが作戦本部にしようと言ってそのまま借りておいてくれた家だ。

 壁が薄いと話が聞かれてしまうので、家の周りはぐるりと庭に囲まれている。植木も何も植えていない隠れるところのない庭だ。

 僕と椙山氏と健吾くんが降りた後、綾が紀尾井町に香取くん(せーた)と八坂さんを迎えに行った。


 

 椙山氏はまだほとんどなにもない部屋の真ん中にちゃぶ台を置いた。

その上に自分が持っていた紙と御懐中筆と呼ばれている筆ペンのようなものと予め墨を摺って入れてある小瓶を置いた。

 椙山氏さすがすぎる!内務省にはインキのようなものも置いてあるが制約が厳しく使っている人はあまりいない。僕も墨を摺って瓶に入れるのまねしよう。


 

 綾が香取くん(せーた)と八坂さんを連れて戻ってきた時には健吾くんの漫画が完成していた。

 それは思ったよりも壮絶で、姫野先生の呪いの儀式をしたスタッフさんたちは5人まで思い通りに操れるという恐ろしい漫画だった。


 さっき健吾くんが殺された魔法陣だろう。その上で、他の4人のスタッフが見ている中で姫野に凌辱されている男の子が描かれている。

狂っている!

 好みの男性を5人も思い通りに操って凌辱を繰り返すなんて、姫野という人の性欲は一体どうなってるんだ?獣か?獣みが深いのか?

僕は自分が先輩たちに姦された過去を思い出し嘔吐しそうになる。


 「ただ……」

 と呟いて違う紙に描いた漫画を見せてくれた。


 その呪われた5人は半径1キロ以内に姫野が入るとどこにいるのかわかってしまう事、自分が5人目になった時に自由になった鹿島という先輩が健吾くん達5人を逃がしてくれた事、それによってスタッフが足りなくなったらしく、姫野に令和に連れ去られた時、つまり殺された時に自分が知らないスタッフが4人いたのを見たらしい。


 「じゃあもう一人犠牲になる人ができたら健吾くんは自由になるって事?」

 綾の問いかけに健吾くんが静かに頷いた。


 1キロ以内に入ったら居所がバレるのと操られる呪い、しかも精力を吸い取られそうな凌辱付きなんて他に犠牲者がでるのはかわいそうだけど、せめて姫野と戦わなければならない今だけは誰かお願い!って思う僕は悪いやつなんだろうか……

 


 


 

 

 

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