スーパーマンかw
逃げ腰で立ち上がりかけた私の腕を有り得ない力でひっぱったのは椙山だった。
「班長?!」
ピンチのところをいきなり現れて助けてくれるなんてスーパーマンかw いや、草生やしてる場合ではなく本当にヤバかった。だってキスされたし!……耳だけど。
「班長なぜここに?」
「松戸が急用で帰ったと姫野先生が言うから、嫌がらせでもされたんだろうと思い追いかけてきた。初めて作家の現場行って嫌な事でもあればトラウマになるかもしれないだろ」
「はんちょお〜⤴︎」
「そしたら打ち合わせブース勝手に使って口説かれてるヤツがいるんで面白いから覗いてた」
「はんちょお〜⤵︎」
椙山が吉原健吾をじろりと見ながら話しかけた。
「……お前、姫野先生のとこでアシスタントやってたヤツだろ。警備員になったのか?」
「えっ?班長、健吾君の事知ってるんですか?アシスタント?健吾君マンガ描いてたの?」
「健吾……くん?松戸こそコイツの事知ってるのか?」
吉原健吾は何も答えないでじっと私たちの会話を聞いている。さっきまで饒舌に私を口説くフリをしていたくせにダンマリを決め込む事にしたらしい。本当に何を企んでるのか! 姫野先生の現場にいたのかぁ、どうりで詳しいわけだ。
あっ……
「健吾君って姫野先生の……アレな感じ?」
黙ってないで何とか言えよ的にわざと曖昧な問いかけをしてみる。が、ダンマリシールドは破壊できなかった。残念。
「姫野先生はイケメンスタッフしか現場におかないし、その全員がお手つきだと聞いた。
お前は姫野先生の愛人か何かで今は偵察要因なんだろう?
そんなにあの人を好きなのか?かなり歳の差がありそうだけど」
椙山の問いかけに健吾がやっと口を開く。
「違います。反対です。俺が姫野先生を好きだって訳じゃない。あの女が俺に執着していたんですよ。弱味をにぎられ逃げられないようにされて…やっと逃げて…姫野先生の現場の先輩アシがここで警備員やってて、それで助けてくれたんです。
あの女は魔女ですよ!だから自分も先輩みたいに、俺の様な被害者がでたら助けたい。知っていますか?……今狙われているのはあなたですよ。椙山さん」
「・・・あ、ああ。それは知っていた」
班長は知っていたと言いながら目が泳がせている。私でも知ってたのに本人は気づいてなかったようだ。形勢逆転、吉原健吾をめちゃめちゃ見下してた椙山氏、吉原健吾にめっちゃ見下されている。
「椙山さん、姫野先生に何かされないように仕事場にはなるべく行かない方がいいですよ。あの人はアナログ作画だけど仕上げはデジタルになったんで、データで原稿貰えば済むはずです。呼びつけるのには魂胆があるはずなんですから」
うん。正論!
「あれ?じゃあ今日私が一緒に行ったのって?」
「悪い。男が一人で姫野先生の部屋に行くと逆ハーレムとか、黒ミサに参加させられるとかの噂もあったんで、編集長が女性の助手を誰か同行させろと・・・用心のために」
班長は自分狙いだとは気づかなくても、情報収集は一応してたんだね。
「松戸と2人で出かけたかっただけだけどな」
班長がねっとりとした視線を向けてくる。
「あはは〜私ってば、今日凄くモテる娘みたいですね〜 2人とも私をバカにしてるんですか?それともチョロそうに見えるとでも?そろそろキレますよ!」
「なんか誤解させてたらごめんね。仕事終わってからゆっくり話をするチャンスを下さい。そろそろ仕事に戻るよ」
吉原健吾は伏目がちに私に帽子を脱いで一礼すると班長の方は見ないフリしてブースをでて行った。
うっ気まずい。
班長と2人きりになると、さっきのような軽口はたたけない。そしてこっちをじっと見ている。
「俺もアイツと同じ事してみたいんだけど、いいか?」
は?えっ?何て?
どこからどこまで見ていて同じ事と?
まっ、まさか耳にキス……
私がパニくって暴れそうになった瞬間、社内連絡用の電話がなった。
「はい、そうです。……わかりました」
電話をうける班長の顔はあからさまにうんざりしていた。
通話を終えた椙山が「とうとう・・・」と小さい声で呟く。
「班長、何かあったんですか?」
「姫野先生が来社するそうだ。さっき松戸が姫野先生に何か言われていたら申し訳ないんだが、俺は少し考えを整理したいんで会議室にこもる。姫野先生には外出中で携帯繋がらないと言って貰えるか?人目のあるところで意地悪するような浅はかな人ではないと思う」
「承知しました。編集部の方で対応します」
「あと、絶対に守って欲しい頼みがあるんだが」
「はい、何ですか?」
「19時ちょうどまでに自分のデスクにいてくれ。後で話しがある」
「承知しました、それでは19時に。」
……なぜ19時じゃなくて19時ジャストなの?
あと2回で転生します
10/29 誤字脱字、わかりにくい言い回しを改変しました。