【Side】松戸雪哉 ~消えた吉原健吾
あれから綾は椙山氏にべったりで、それを不快に思う自分に嫌悪を感じる。
殺される前、血の繋がった姉に特別な想いはなかった。
大好きな姉で、大好きな家族だっただけだ。
僕がおかしくなったのは綾が明治に来てから……
だっておかしいだろう?
兄になってからこんなにも恋しいなんて!
これは僕が御神木に間違った願いをかけてしまったせい。そう、全て自業自得……
何度この自問自答を繰り返しただろう……
椙山さんは僕からみても好感度の高い人だ。
頭も良さそうだし粋だし綾が好きになるのもわかる。
つまらない嫉妬心から あら探ししたくなる。
そしてまた自己嫌悪……
僕が綾のことを御神木に願って綾がフェロモンを纏ったように、綾も僕に増幅を願ってバフの力を得たらしい。
知らなかった……
しかも僕のこの小脇差にコピーとか!
相変わらずめちゃくちゃな人だ。
今知ったばかりのまだよくわからない力を頼りに、よりによって椙山さんと二人でタイムリープする事になった。
元凶に連れ去られた吉原健吾をさがしに……
時空のトンネルのようなところを通りながら椙山氏が艶っぽい微笑みを浮かべて話しかけてくる。
「雪哉くんはお姉さんっ子だったの?」
「小さい頃から二人だけだったので……」
椙山氏が不思議そうな顔をする。
「二人だけ?ご両親は?」
「両親は日本にいません。小学校低学年の頃は祖母がいたんですが……」
「日本にいない?仕事で?」
「はい。音楽をやっていて……」
「へぇ〜音楽?なのに姉弟は剣士だったんだ?」
「一応楽器も少しはできますよ?国内のジュニアコンクールでギリギリ入賞できる程度は!」
優しく話しかけてくれる人に向かってこんな反抗的な返事をしたのは初めてだ。
自分の返答に自分で落ち込む。
「雪哉くんは僕のことが嫌いなのかな?大事な家族をとられた気分?」
なんて的確な事聞いてくるんだ!
僕が黙っていると
「悪いな、綾は令和にいる時から俺の大事な人なんだ」
またもや的確に聞きたくない事を言ってくる。
「男になってしまって残念でしたね!」
意地悪のつもりで言い返したのに
「男でも女でも俺がアイツを大事に想う気持ちは変わらないよ」と微笑まれた。
なんなんだ、この敗北感は!
「そういえば吉原健吾って綾と仲良かったんですか?」
頭を切り替えようと違う質問をしてみる。
「君を重ねてたみたいだよ。亡くなった弟と同じ歳で少し雰囲気が似てると聞いた気がする。似ているかはわからないけど、君も吉原も可愛い系だな。あ、悪い。可愛いなんて言われたくないか?」
明治に女の子として転生した吉原健吾はたしかに可愛い女の子だった。
そんな事を考えていたら小脇差が微かに震えた。
あ、そうだ、この妖刀が千里眼スキルをコピーしてるんだ。
僕は刀をぐっと握りしめた。
「あっ、あそこです!」
ガラス張りの壁に栄光社と書いてある。
ここが、綾の就職した出版社かぁ。
ビルの前にいた姫野とゆめちゃんの二人は
「おっ、コスプレか?可愛いこだな」と通行人にジロジロ見られていた。
「ここじゃ目立つわね、私の部屋にいくわよ」
機嫌の悪そうな姫野がタクシーをとめて吉原健吾をつっこんだ。
「移動か……同じ時間軸の移動はちょっとコツがいるんだよな」
椙山氏が何日か退行して改めてさっきの日時の姫野の部屋に時空の孔をつくり覗く。
「いいか、雪哉くん。何があっても決して孔からでてはダメだ。もし出てしまうと明治に戻った時にきみは松戸神社、俺は椙山神社に送られてしまうから」
小声で言われたので黙って頷く。
姫野の部屋は気味の悪い祭壇と魔法陣の置かれたへやだった。
「ここが例の黒ミサやってるって部屋か!」
椙山氏が眉を顰めて呟いた。
二人の声も聞こえる。
「健吾!どういうつもりなの?誰のせいで私のスタッフみんな居なくなったの?言ってみなさい!」
姫野の質問にとろんとした眼の吉原健吾が
「鹿島先輩に……」
と答えた。
どう見てもマインドコントロールされている。
あれ?同じ時代の人にはマインドコントロールできないって鳳が言ってたはずでは?
「まぁそんな事だと思ったわ!あんたもね!女になれば私から逃れられると思ったの?ふざけんじゃないわよ!二度とそんな事考えるんじゃないわよっ!」
姫野は魔法陣の上に健吾を突き飛ばして転ばせ顎を掴んで眼を覗きこんだ。
「自決しろ!と、いいたいところだけど私が特別に手を下してあげるわ。山下!ナイフ持ってきて!」
他のアシスタントらしき男の子にナイフを持ってこさせ……
何を見ているのかあまりの壮絶さに理解が追い付かない。
でも……
吉原健吾は殺されてしまった。姫野りかに。
そう理解できる前に椙山氏に目元を手で覆われ、ものすごく強い力で引っ張られた。
「椙山さんっ!ゆめちゃんがっ!」
「雪哉くん!急いでもどるぞ」
僕は椙山氏に抱えられ時空のトンネルをどんどん逆行していった。




