接待と・・・
私は香取くんと健吾と遊女の桔梗さんを連れて千鳥ヶ淵の料亭に向かう前に、靖国神社の靖国神社の側の椙山が借りた安宿に向かった。
ここには椙山の他に雪哉と八坂さんも控えている。
雪哉と香取くんが交代して香取くんが車夫に扮して料亭の前に控える。
健吾と桔梗さんを除くと私と雪哉だけのミニマムな陣営なのでちょっと不安だけど、心配症の椙山がもしもを考えた配置になっている。
私はどちらかというと編集長を警戒しているけど、椙山は健吾をその何倍も警戒していようだ。
そういえば今朝まるで試験の前の休み時間のように、其々が自分のすべき事を予習するようにブツブツ言いながら朝食を食べていた。
「椙山さん」
雪哉が何かを思い出すように椙山に話しかけた。
「柏原、というか鳳編集長って言った方がいいかな……あの人に三ノ丸の東屋で昼食をご馳走様になったんですよ。お膳を運ばせて。御庭番の頭の呪いとかいう蜘蛛の糸みたいなモノを妖刀切ったお礼って理由だったんですが」
「あぁ八坂さんから報告聞いたな。何か懸念か?」
「はい。その時、鳳さんが『俺の能力はマインドコントロールだけど、転生者には効かない』って言ってました。だけど、蜘蛛の巣に見えた御庭番の呪いにはかかってたって事ですよね?って事は御庭番の頭は転生者の確率は低くて、姫野って人のマインドコントロールも転生者には効かない可能性が高いと考えるのは安直過ぎるでしょうか?」
「転生者には効かない?それは始めて聞いたな。俺のタイムリープは転生者にも使えるんだが、じゃあ、香取くんの雷なんかはどうなんだ?転生者に使えないなら姫野にも使えないって事になってしまうな」
「えっ?俺の能力使えないんですか?雷は仲間に使った事ないからわからないけど、大雨や突風が転生者を避けてるようには見えないんですが」
香取くんが思ってもいなかった事を言われてショックをうけている。
私が水鉄砲を生成して香取くんを撃ってみた。
「つめてっ!何するんですか?!先輩っ!」
「あ、撃てちゃったごめん」
「ここには転生者しかいないから違いがわからないな。でもたしかに鳳のマインドコントロールが転生者に効かないなら、姫野のマインドコントロールも効かない若しくは効果が薄い可能性は高いかもしれない。ならば……」
「ならば?」
「もしもマインドコントロールされそうになった場合、かかった振りをするのはどうだ?アイツの事だからかなり油断に繋がると思うぞ?かと言って効かないとは限らないからそこはくれぐれも気をつけてくれ」
という話があった。
もし編集長がマインドコントロールを使おうとしたら、私と雪哉と健吾は効かないけど、桔梗さんはかかってしまうんだよなぁ……
私が桔梗さんの方を見ながら考え事をしていたら健吾が
「綾さん、もしもの事が起こったら桔梗さんを守って下さい」
と小さな声で呟いた。
「ははは……もしもの事、起こらないといいねぇ」
座敷には編集長がいて既に手酌で呑んでいた。
「遅かったな。おぉ、可愛い娘たちじゃないか!松戸くんよくやった!ん?お前は誰だ?」
令和の頃と皆んな見た目が少しづつ変わっているのに、編集長は令和のまんまの見た目と話し方だ。
得意ではない人だけど、旧友に会ったような懐かしささえ感じる。
「編集長!お久しぶりです。私です、松戸綾です」
「まつとぉ〜お前、男の子になっちゃったのか?残念だなぁ……でもまあいい。次はもっとかわいい格好で来い」
次っ?冗談じゃない。恒例化しないでくれ。
健吾と桔梗さんが編集長を挟んで座り、私達兄弟は向かい側に座った。
久しぶりに見た目の綺麗な食事をいただいた。
編集長はご機嫌で饒舌に話し酒もすすんでいるようだ。
警戒はしていたものの、そこは私の上司だ。
顔を見てしまえばそれなりに話しも弾む。
美味しい食事に酒は飲んでいるふりとはいえ少しは舐めているので、楽しくなってきた。
編集長って仕事じゃなければこんなに話しやすい人だったんだね。
それは突然だった。
健吾がビクッとして顔が青ざめ
「逃げて!」
と叫んだ。
私は反射的に庭に転がりでて小銃を生成して空に向けて空砲を2発撃った。
「健吾?やっとみつけたわ。こっちにいらっしゃい」
「他の人は動かないで!freeze!」
編集長の後ろに姫野りかが手を腰に立っていた。
マインドコントロールらしく声が頭に響いてくる。
正確に言えば動ける気がする。
でもマインドコントロールではなく身体が強張って動けない。
「ふふっ叔父様を見張っていればいずれ健吾が現れる気がしたわ。叔父様、健吾をこちらに渡してくれたらこの場では何もしないでいなくなるわ。いいでしょう?」
健吾は明らかに他の人とは違い本当に動けず声も出ないようだ。
これはどうしたらいいのか、まさか姫野がここに来るなんて!
雪哉もどうやら動けるようだけど右手を袖のほうから懐につっこんで動けないふりをしている。
たぶん妖刀を握っているのだろう。
「里佳子か?明治で会うのははじめてだな。お前も呑むか?」
編集長だけ別の次元で生きているようで姫野の本名で呼びかけ一緒に飲めと言っている。
「叔父様。私はすぐに失礼するわ。また今度ゆっくりお会いしましょう。じゃ、この裏切り者を連れて行くわね」
ほんの2~3分の出来事だった。
どうしていいかわからないまま戦闘態勢にも入れないまま健吾だけが連れ去られた。
「なんだか場が白けたな・・・じゃあ私はこの桔梗さんを連れ変えるから明日の朝迎えに来てくれ」
自分だけ何事もなかったかのように編集長が桔梗さんの手を引いて部屋から出て行った。
「大丈夫ですか?!」
玄関にいた香取くんが襖を勢いよく開けて入ってきた時にはマインドコントロールでも呪いでもないのに動けなくなって固まったままの私と雪哉だけだった。
「いったい何が?」
困惑した香取くんがやっぱりどうしていいかわからない様子でその場に立ちすくんだ。




