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【Side】 吉原健吾 秘密を言えない呪い

女性が男性を辱めるシーンがあります。

苦手な方はお控えください。


挿絵(By みてみん)



 小さい頃は身体が弱く外を自由に駆け回れなかった俺は部屋で絵を描いて過ごしていた。

 小学校の高学年になるとノートにコマを割って漫画を描き始め、描いたノートの数は余裕で三桁だ。

 「健吾くん、新しいの描いたらまた読ませてね」

 同級生もみんな俺の漫画を喜んでくれて将来は漫画家になれると信じていた。


 ……まさか漫画の評価以外のところで邪魔が入るなんて。

 

 勧善懲悪が大好きだった。

 悪は懲らしめられるべきだろう?

 

 ある夜、面白い夢を見た。

 白い神々しい狐の神様の力を不当に宿した人間が時代を駆け巡り、その人間の都合の良いように過去を塗り替えていく話だ。

 不当に手に入れたその能力で歴史を壊していくその者に神々が憤り、ある兄弟にその邪悪な者を打ち負かせる力を与える。そしてどちらかが消滅するまで戦う話だ。

 最後は兄弟で力を合わせ敵を屠るが兄の方が力尽きて死んでしまう。

 俺はそれをそのまま漫画に描いた。

 そんな作品が判官贔屓の嗜好にハマったらしく評価は高かった。

 ……あの時なんで夢にみたストーリー通り兄がエネルギー切れで死んでしまうってストーリーにしちゃったんだろう。漫画の方は普通に勝つにしておけばよかったな。

 

 その作品は漫画大賞でちょっとした賞をもらった。

 その授賞式での時、大賞をとった姫野りかという漫画家が俺と俺の漫画を気に入ったらしくスタッフにならないかと誘いをかけてきたんだ。

 是非少年誌へって担当が付きそうだったから姫野さんには断りを入れた。

 なのに気づいたらあの人の仕事場に居て外に出られないようになっていた。

 あの人の瞳を見ていると自分の意志とは別に体が動いてしまう……これは何なんだろう……呪い?


 そこの現場は俺よりちょっと年上で美形だったりワイルド系だったりのかっこいい先輩アシスタントが5人もいて

 そのうちの一人が他のアシスタントに

 「今日は黒ミサです」と告げた。

 「鹿島さん、良かったですね。諸々よろしくおねがいします」

 ここの一番の古株は鹿島圭介という3つ上の先輩だ。彼は剣道と合気道で鍛えた美しい筋肉質な体躯の繊細で優しい人だ。

 鹿島さんによかったですねと他の4人が言う黒ミサっていったい何なんだろう?


 姫野が仕事場にしている渋谷区のマンションにはいつも鍵がかかっている部屋がある。

 そこは姫野の寝室なのだと思っていたが扉が開くと禍々しい暗い部屋だった。

 神棚が大きくなったような祭壇のようなものがあり、黒いカーテンがかかっていて窓はなく部屋の中央部分には魔法陣のような曼荼羅のような模様が描かれたマットが置いてある。

 先輩5人が曼荼羅の周りに座ったから俺はどこに座ればいいのか……と先輩たちを見回すと一人も目を合わせてくれなかった。


 姫野がやってきて

 「さぁ健吾、服をすべて脱ぎなさい」と妖艶な笑みを湛えて俺の眼を覗き込んだ。

 「えっなんでここで服を?嫌ですよ!」

 

 気づくと俺はすべての服を自ら脱いでいて、白い短めの長じゅばんのようなものを羽織っていた。

 その後のことは思い出したくもない。

 俺は先輩たちが見守る中、魔法陣のマットの上で姫野に凌辱されたんだ。

 俺は悔しさとか絶望とか恐怖とか恥辱とかいろんな感情が渦のように押し寄せてきて気づくと気を失っていた。


 次の日は普通にアシスタント業務として背景の素材を描いていた俺は、鹿島先輩がいないことに気づいた。

 「あれ?鹿島先輩がいない……」

 俺の誰に話しかけるでもなく漏れた呟きに

 「卒業したよ。君がミサを受けたからね」

 という返事が返ってきた。

 その返事に昨日の事が悪夢ではなく本当にあった事だと突き付けられ俺の頭は真っ白になった。

 「原稿一枚ワンドラに入れるからチェックしたら削除して」

 別の先輩が俺に話しかけてきた。

 俺はデジタルの原稿を開いて読み始めた。

 そこにはとんでもない事実が漫画で描かれていて、一度黒ミサを受けると姫野に絶対服従になる事、ここにいる先輩はみな順番に姫野の伽をさせられる事、これらの事実を他人にいう事も文字として書くこともできない事が読みとれた。漫画だけは表現に自由がなくなると仕事に差し支えるからなんとかこの事実を伝えられたらしい。

 「言える事には限りがあるんだ……」

 もう一人の先輩が違う原稿を見せてくれた。

 それは悪魔の眼を見ると従わなくてはならない事や悪魔と通じることで絶対服従になり言葉に制限がかかる事、服従させられる人数は最大で5人まで……というような内容が描かれた漫画だった。

 「もうわかったと思うけど、その悪魔は先生(ひめの)だよ」

 「ああ、だから鹿島先輩は……」

 ここで6人目の俺が加わったことで絶対服従から卒業したんですね。

 と言いたかったけど口がはくはく動くだけで言葉が出てこなかった。

 

 これは……呪いとかそういう系?

 「あと、おまけ情報だが姫野先生は安倍晴明の子孫らしい。これ以上は話せないから自分でググってくれ」

 

 漫画の仕事は苦ではなかった。

 たとえ俺の好みの作風じゃなくても漫画描いてご飯食べられれば満足だったからだ。

 でも……5日に1回の夜のご奉仕はとてつもない苦行だった。

 妖艶な顔もあまったるい香りもねちっこい確執も、何から何まで大嫌いだ。

 ……あぁ、作風も含めてかな。

 

 俺の初恋は学校の中学校の時の先生だったし、初めての彼女は委員長してるメガネの子だった。

 俺の好みのタイプはちょっとキリっとしていて他人のために責任感を発揮するような女性なんだな。

 そんな事を正反対の姫野を抱きながら考えていた。


 早くこの地獄から抜け出したい!!!


 ある日姫野が少年漫画の編集長に飲みに誘われて夕方から出かけて行った。

 はぁ、今日は伽はなしか、平和な夜だな……そう思ったのが俺だけではなかったようで先輩たちもそわそわし始めた。

 「吉原くん、数日生活できる程度の最低限の荷物纏めて!急いで!」

 先輩の一人に言われ、ここに来た時に持ってきたスポーツバックに下着とタオルと洗面道具を詰め込んだ。

 「取材旅行か何かですか?」俺がそう聞いた時に玄関のドアが開き数か月前に出て行った鹿島先輩が入ってきた。

 「みんな、いいか?早く出ろ!俺より先に出ないと出られなくなるぞ!」

 どうなっているのか詳細はわからないけど、俺たちは誰かの命令じゃないと玄関から外に出られない。だけど鹿島先輩は卒業しているから外に出ることができるという事らしい。

 鹿島先輩に命じられて俺たちは外に出た。4人の先輩たちは実家に帰って隠れると言い残して去っていった。

 「どうしよう俺、行くとこないです地方出身だし……」

 鹿島先輩に言うと

 「じゃあ俺と一緒に警備員やるか?前に担当してくれていた青年誌の担当さんの口利きで栄光社の警備員やっているんだ。住み込みOKだからとりあえずおいで。あと、絶対服従といっても1キロ以内にいなければ何もできない。そのための準備もしたから心配するな!」

 と頼もしい笑顔で言ってくれた。

 

 俺は真面目に警備員をやった。

 姫野は担当を呼びつけるタイプだったので栄光社で会う事もなかった。

 漫画を描く道具がないので描けなくなったけど、漫画の編集の現場も悪くなかった。

 しかも、少年漫画の編集部にいる松戸さんは俺の初恋の先生にそっくりだ。

 万年筆を買ってきて「落としましたよ」と言って声をかけてみた。

 「私のではないですよ?」

 「じゃあ僕のかな?よかったら使ってください」

 そんなチープな策略に

 「ありがとう、じゃあ使わせていただきますね」

 と言って笑顔で対応してくれた。

 

 どうしよう、嬉しい!

 恋心ではなくても、叶わなかった初恋の人に似ている。そんな彼女に話しかけて笑ってもらえただけで俺のどす黒くなってしまっていた心が少しだけ浄化される気がする。

 彼女も、俺が亡くなった弟さんに似ているところがあると言って、逢うと立ち話をしてくれるようになった。


 俺は情報収集に余念がなかった。

 もし姫野が編集部に来ることがあれば1キロ以内に入ってしまうのでここにいることもバレてしまうし、戻れと言われたら従うしかできないからだ。

 鹿島先輩も積極的に情報を集めてくれた。彼の方が姫野の呪いに精通しているし絶対服従からは脱しているからできることが多い。

 俺たちを迎えに来た時に盗聴器も仕掛けてきたようで、とても気にかけて助けてくれている。

 「次に狙われているのは少年誌の椙山って担当さんらしいぞ。鳳っていう少年誌の編集長がどうやら姫野先生の親戚らしくて魂胆していた」

 椙山って松戸さんの班の班長だよな……松戸さんがあの悪魔に何かされなきゃいいけど……

 


 俺の心配は当たってしまう事になる。

 松戸さんは姫野の担当助手としてあの地獄のような仕事場に向かった。椙山って人とともに……

 大丈夫か?椙山って狙われてる人だよな。

 5人いた姫野の奴隷がみんな逃げてしまって姫野はみたされない欲求で椙山をしつこく狙うだろう。あの能力を使って!

 松戸さんに「姫野の眼を見たらダメだって伝えなきゃ」

 俺が玄関に急いでいくと松戸さんと椙山さんはタクシーに乗って出ていくところだった。

 「くそっ!無事で帰ってくればいいけど……」



 その日、俺が休憩室で休憩をとりながら盗聴器の内容をチェックしていると心臓がドクンと撥ねた。

 姫野が1キロ以内に侵入してきたことが感覚でわかってしまったのだ。

 「向こうにもわかるのかな?」

 小さな呟きをどこでキャッチしたのかわからなけど

 「健吾?ここのビルの中にいたのね。悪い子!そのままここにいなさい。すぐに楽しいことが起こるわ」

 頭の中で姫野の声が聞こえた。

 俺は思わず休憩室の奥の物入に隠れたけど爆音とともに意識が飛び

 気づくと暗い神社の桜の木の下にいた。


 淡く光る木を見上げていると、それが御神木でおれは明治に転生して……色んなことが理解できた。

 「一つだけ特殊能力がもらえるなら姫野がどこにいるかわかる千里眼が欲しいです!できれば少し先の未来がわかるとか危険がせまったらわかるとか、そんな能力が欲しいです」

 元居た時代では鹿島先輩の仕掛けた盗聴器があったけどこの世界ではそんなものはない。

 姫野の操り人形にならないよう逃げきらなければ。

 授かった能力は鍛えればどこででも感じられるのかもしれないけど、神社の境内に居たほうがより鋭くなるようだ。

 それからはできるだけ長い時間を神社の境内で過ごすことになった。


 暫くしてある日、俺は松戸さんがここに来ることがわかった。

 やっぱりあの爆発に巻き込まれて死んだんだ……

 同時に姫野が近づいてきている気配もする。

 どうしよう、どうすればいい……

 松戸さんに会いたい。会って姫野の情報を伝えたいけど、姫野の情報は死んで時代が変わっても口にできないようだ。

 話したくても話せない秘密を抱えながら姫野とバッティングしないように松戸さんに会わなければ!


 今日も俺は空いている時間を神社で過ごす。

 「神様、姫野より先に松戸さんに会うことができますように……」




次から本編に戻ります。

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