表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/54

タイムパラドックス

 「少しいいですか?」

 八坂さんがどうやら紀尾井町から帰ってきたようで、連絡のために部屋の入り口の襖の向こう側から声をかけてきた。

 添い寝をしながら私の髪を撫でていた椙山が、私の額に口付けをして起き上がった。


「今開けます」

 窓の障子を少し開けて風を通すと入り口を少しだけ開けて

「八坂さん、悪いがお茶を3人分お願いします」

私が寝ている部屋の中が見えないように気配りながら椙山が八坂さんにお茶を頼んだ。

 八坂さんが返事をして立ち去る音が聞こえると横になったままの私に

「綾、八坂さんと話をしたいんだけど、起き上がれるか?もし辛いなら寝たままでもいい」

「いつまでもこの格好は恥ずかしいので無理でも起きますよ。手伝って下さい」

 椙山が『恥ずかしい』と言った場所に視線を移すと

「ふっ」と片口で笑いながら要介護老人にするように丁寧に私を起こしてはだけた前を直してくれた。


 なんなの今の笑い方!しかもさりげなく前をなおしてくれた時に触らなくてもいい場所を掠められてドキっとした。

こっ、こいつぅ〜!

「明日は絶対に帰ります!」

 私が興奮して宣言すると、

「そうか?わかった」

 とサラッと返してきた。


 ええ〜暫く帰したくないって言ってたじゃ〜ん!

 不満が顔に出ていたのか、めっちゃ流し目で微笑まれた。

 またおっきしちゃうからやめてぇ……


 

 布団をすぐにのべられるように三つ折りにして横に寄せてちゃぶ台を置いた時、八坂さんがお茶を持って入ってきた。

 明らかにそこに布団があるのに八坂さんはちらっとも見ずに布団の置いてある方を背にして座った。

 この人の気遣いってすごい。


 「雪哉くんからの伝言です。御庭番の見張りがいなくなったので、綾さんが戻る時に椙山さんも一緒に来て欲しいそうです。本格的に作戦会議がしたい。との事です」

 「御庭番を?じゃあ編集長の接待が終わったのか?すごく優秀だな、あの子たち」

 「あ、それはまだみたいです。雪哉くんがうまく話しつけて先に奴等をどうにかさせたらしいですよ。雪哉くんも聖太朗くんもものすごく優秀な子たちです。あの家の構造はちょっと舌を巻くほどです」

 八坂さんが御庭番対策を家の随所に施してあると、彼らは立派な軍師になれると二人をべた褒めしているのを聞いて私もすごく嬉しくなった。

「そうでしょう?!私の弟たち凄いんですよ」

 八坂さんと盛り上がっていたら椙山が不思議そうな顔で


 「殺された時高校生だったよな?剣道部で活躍したって聞いたけど……なんでそんな知識があるんだ?」

 「あの子たちはFPSの世界大会にでてたらしいんです。だから語学も何か国もいけるし、もし武器を生成したら銃とかもいけるんじゃないですか」

 そう、私も知らなかったけど……

 毎晩遅くまでPC使って勉強していたのかと思っていたし……


 「そのFPSって何なんですか?」

 八坂さんの質問に椙山が答えた。

 「ファーストパーソン・シューティングゲームといって、この前説明したコンピューターという機会の中で仮想ゲームをするんだ。戦略とか打ち合いとか。だから彼らは実戦とは違うかもしれないけれどすでに立派な軍師ってことらしい。しかも世界規模の」

 「はぁ。何回聞いてもわからないですが……」

 八坂さんがこんな感じに椙山から説明受けて伝言ゲームしてたらそりゃぁ効率悪いよね。


 「お見せしましょうか?」

 私がノートPCを生成してみせた。私が使っていた17インチのやつだ。ネットもプロバイダーもない時代なので動くか不安だったけど、私の知識とオフラインという概念で、それっぽいものが生成できた。

 ネットにつながってないので対戦はできないけど、PVP(対人ゲーム)の一人版のようなものをやってみせた。

 私の覚えている範囲でPVE(対コンピューター)の擬人化ゲームなども見せた。


 八坂さんは自分が亡くなって70と数年後には戦艦の擬人化などのゲームができることに唖然として

 「なぜ日本の駆逐艦とアメリカの駆逐艦が共闘するんだ?」と叫んだ。


 謎だろうね。わかる!


 「ところで八坂さんは何年生まれなんですか?」

 「俺は昭和元年の12月生まれだ。珍しいんだ、元年はひと月もなかったから」

 「あれ?このゲームによるとレイテは昭和19年になっていますよ?19歳で亡くなったんですか?」

 「満だと18だ、もう少しで19歳になれたんだが。数えで21歳だった」

 「ええっ?!八坂さんって19歳なんですか?」

 角刈りで日焼けしてしわっぽいから30代後半から40代前半だと思ってたよ! ケアのない時代は恐ろしいね……あっ私も今それに直面しているわけか……

 「いや、こっちに転生して10年だから、満年齢だと30位だろう?綾さんは成人しているのか?10代にみえるが……」

 「私は23歳ですよ。満年齢で!」

 「23歳なのに一回も結婚しなかったのかい?」

 

 ……だめだ。説明というより言い訳をしている気分になってきた。

 四年制大学でて新入社員、若手!って思っているのは私だけなの?

 あぁ、そうか『15でねえやは嫁にゆき~♪』という童謡があったね。


 私ががっくりうなだれていると椙山が私の髪を優しくなでながら

 「この子も優秀な大学を22歳で卒業して、競争率の高い出版社に入社してきたんですよ。頑張り屋なんです」

 と言ってくれた。

 「あぁ、すまねぇ。なんかわかってなくて失礼な事言ってしまったな、俺。……今でも充分可愛いおにぃちゃんなんだから、女の子の時はさぞ可愛かっただろうと思って……」

 八坂さんは頭をさげて謝ってくれたけど

 「かわいかったですよ。そりゃあもう!」

 と言いながらニヤっと笑う椙山の顔をみて、フォローなのかハラスメントなのかわからなくなってきた。

 ダメージ大きすぎ。もう今日帰ろうかな……


 「あ、あれっ」

 私は急に気になることができてPCを見ながらキーボードをたたく。

 「ちょっと待って。今年は西暦で1877年、昭和元年は……1926年、ってことは今から49年後に八坂さんが産まれるんじゃ?」

 「49年後じゃ80歳近くなるから、自分の赤ん坊姿を見る事はできないな。この時代は薬も医学もそれほど整ってねぇし、生きてられねぇだろうな」

 八坂さんが80なんて長生きできねぇよと笑う。

 でも待って。私が薬は生成できるんだから大病さえしなければいい。令和においては80はそんなに長生きとは言われなかったように思うし。


 「いや、同じ人間が同時に存在するという事はないんじゃないか?」

 腕を組んで考え事をしていた椙山が徐に告げた。

 「どういうことですか?班長……じゃなくて彰人さん」

 「タイムパラドックスだよ。そもそも今いるここが自分たちがいた世界線の過去かどうかもわからないわけだけど、もし同じ世界線だと仮定して自分の先祖を誤って殺してしまった場合、俺たちはそこで消えるように消滅すると思うか?」

 「それは、消えるかもしれないですよね?だって生まれてこられなくなるわけですから」

 「実はそれを検証してみたんだよ、鳳さんが」

 「編集長が?どういうことですか?」


 「俺がここに来たのは3回目なんだ。俺の能力は時渡りだから。最初に死んだとき、俺は編集長と接待で銀座にいたんだが、何か薬を飲まされて死んだんだ。鳳さん曰く、目が覚めたら鷲神社(おおとりじんじゃ)に居たけど、毎年酉の市で鷲神社(おおとりじんじゃ)に行っているんで自分が知っている時代の鷲神社(おおとりじんじゃ)ではないとすぐに気づいたらしい。そして光っていた樹に向かって、どういうことか釈明しろ!と怒鳴ったらしい」


 「うわぁ編集長っぽい……」

 「で、釈明するのは能力を得るのとは違うけど、光が強くなったのと同時にその時の状況がある程度理解できて、『他人を思い通りにできる能力』を得ると同時に俺が『椙山神社』に居ると思い台東区から町田まで走ってきたらしい」

 「自力で走ったんですか?」

 「実際に走ったのか表現なのかはわからないけどな。で、何が起こっているのかわからない様子の俺に『すぐにその光っている樹に、時をかける能力、他に一人くらい連れて時代を渡れる能力を請え』って言われて俺は言うとおりにしたんだ。先に向こうが『洗脳の能力』を得ているんだから……」


 「うわぁ、編集長っぽい……というかえげつないですね。自分は『洗脳』を得て、令和に帰るための能力は班長に……え?じゃあそれで令和に戻ったんですか?殺されたのに?」

 「帰ったよ。俺たちが殺される前の日にね。だから次の日に銀座には行かなかった」

 「なるほど~!それが一回目って事は二回目もどこかで殺されたんですね?」

 「それから半年後に今度は新宿で編集長に付き合わされて行った接待でまた何か盛られたらしい。気づいたら1回目と同じ神社に居たんだが、二回目は樹は光っていなかった。ここで待っていれば鳳さんがくるだろうと思っていたら、今度は次の日にやってきた。実をいうと殺された接待の両方に姫野先生が同席していたんだ。何か探らなければならないと思って二人で色々話し合って、まぁここから先は長くなるから君の家に行ってから雪哉くんたちもいる時に話そう。で、さっきの話だけれど、編集長が奈良に行って自分の先祖を殺すから、自分が消えたら前の日に時を戻してくれと言って寺の住職をしていた先祖の夫婦を二人とも殺してしまったんだ。でも編集長は消えなかった。すぐに俺たちは前の日に戻って住職のご先祖様たちの無事を確認したけど」


 「すごい話ですね。SFみたい!自分の身にも降りかかっているとは思えないです。じゃあ同じ世界線じゃないって事ですね」

 「そうだ。パラレルワールドってやつだ。だがまだまだ分からないことはたくさんある。俺の能力が回数制限があるのか無限なのかもわからないから、次使うときは慎重にならざるを得ないし、誰かに俺の能力を話して簡単に帰れるって思ってもらっても困るんだ。俺は鳳さんの洗脳のせいで、時を渡る時は一人しか連れていけないから……」

 

 ずっと無表情で聞いていた八坂さんが

 「俺は帰らなくていいです。あの時代には二度と帰りたくない。仮に長生きしたとしても昭和元年までに死にますんで」

 と呟いた。

 そりゃあ世界大戦なんて私の時代はゲームのような言葉だったけど、本物の世界大戦は地獄すぎただろう。

 「何とかしないといけませんね」

 「そうだな。雪哉くんに呼ばれたし本格的に作戦会議に入ろう。頼れる軍師ばかりで嬉しい限りだ!あ、あとあの姫野のアシだった吉原健吾とも話をしたいんだが、それは別日に別な場所にしよう。あいつに紀尾井町の家の場所は言わない方がいい。どこで姫野とつながりがあるかわからないからな」


 頼れる軍師かぁ。

 イイネ!それ。

 でも八坂さんにも天寿を全うしてほしいな。長生きの方向で!


 明日の夜に紀尾井町に戻ると決めて八坂さんは


 「おやすみなさい。いい夜を」

 と言って部屋を出て行った。

 今日話した内容を反芻しながら物思いに耽っていると椙山に後ろからそっと抱き寄せられた。

 

 「綾、俺たち八坂さんが言う通り『いい夜』を過ごさないとな」

 

 

タイムパラドックス:過去(歴史)を変えることによって未来が変わってしまう現象

パラレルワールド:並行世界、同じ世界がある軸によって分岐され複数存在するとされる概念のひとつ

FPS:英First-person shooter日ファーストパーソンシューティングゲーム 

PvP:プレイヤーVSプレイヤー 対戦相手が人間(他のプレイヤー)

PvE:プレイヤーVSエンビロンメント(エネミーともいう)対戦相手が対人ではなくプレイヤーに合わせて設定された環境



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ