【Side】松戸雪哉 ~眠れない夜
女性にトラウマがある僕のために綾と香取くんが吉原に行ってくれた。
不甲斐ない!
綾は僕が守ろうと思っていたのに……
とにかく、1日も早く御庭番たちの監視や襲来を無くさないと平和は訪れない。
僕と香取くんがこの時代に来た時も、週一位で屋根裏に侵入されていた。
早く理想を構築するために捨て身で立場と収入を得ることに腐心した結果だ。
当然後悔はしていない。
綾が来るまでに賊に侵入されても気づいて処理できるようになったのだから。
最初は月一位だった偵察の忍びが香取くんの雷で処分されて戻って来ないんだから、偵察任務を依頼したヤツだって警戒するだろう。
編集長だった柏原……本名鳳に頼めば御庭番が僕たちに関わらないようにしてもらえるから尋ねろと椙山さんに助言されたから、僕の登庁の時に会いに行った。
綾が、元凶かもしれないと言っていたヤツだ。
結果、女性接待をしろとか前世紀のような事言われたわけで……
怖いけど何でもやってやろうと息巻いて会いに行ったのに、一番苦手なとこつかれて、挙げ句の果 留守番って!
こんなに日和っているヤツ他にいる?
いねーよな!
あぁもうホント自己嫌悪で身悶えする。
綾と香取くんが吉原から帰って来た。
なんと綾たちと同じ事故で転生した知り合いが吉原にいて協力してくれるらしい。やった!
……やった!じゃなかった。
そいつは元男性で、綾に気があって椙山さんと張り合ったから、椙山さんは良く思っていないと八坂さんが言う。
なんでこうライバルが多いんだ?
綾は、不本意だけど可愛い系と言われていた僕と顔は似ている。童顔でかわいいと思う。でも美人といえるのかはわからないし、何よりもボーイッシュでかっこよくて小さい頃から僕の劣等感を刺激する存在だった。
少女漫画で例えるなら、お姫様でも王妃様でもなければ悪役令嬢系でもなく、騎士団長の娘として自分も小隊を任されている女騎士……って感じだ。
そこモテポイント高いところなの?
そして、とうとう椙山さんに会いに行くとか言い出した。
香取くんと2人で必死に反対したら逆ギレされたし、もう諦めるしかないだろうと思った。
綾が椙山さんのところに行ってしまった。
眠れない……
哀しいと淋しいと悔しいと恋しいとぐちゃぐちゃした感情がMIXされて自己嫌悪で吐きそうだ。
……吐いた。
厠で本当に吐いた自分にショックを受けていると、香取くんも起きてきた。
「眠れないのか?まぁ、俺もだけどな……」
「なんだよ!せーたは綾の事好きって言ってたけど、予備校にもクラスにも好きな子いたじゃないか!」
意味のわからない怒りが湧いてきて知らないうちに涙を溢していた。
「怒るなよ。ゆっきーの気持ちは痛いほどわかるんだ」
「じゃあどうすればいいんだよ!やっと会えたのにもう帰って来なかったら僕はどうしたらいいんだよ!」
気持ちの発露とともに涙が止まらなくなってしゃくり上げる。
香取くんが肩を抱いて背中を摩ってくれた。
「俺だってゆっきーと一緒に3人で暮らすため頑張ってきたんだ。家族だって言ってもらえた。先輩がいなくなったら目標も何もかもなくなるんだよ。ハブにすんなよ」
香取くんも涙声だった。
わかっている。
椙山さんに会わせたくなかったのは綾の想いの邪魔がしたかった訳じゃない。僕たちのところから居なくなってしまうのが怖かっただけだ。
香取くんが秘密の通路を通って蔵まで行って大使館で貰ったワインを持ってきてくれたので2人で呑むことにした。
「そういえば17歳で死んでこっちで3年……もし令和に生きていたら、せーたと成人式とか行って居酒屋で酒呑んだりしたんだろうな」
「綾先輩が、成人は20歳じゃなくなったって言ってたぜ?」
「マジか……じゃあ酒はいくつから呑めるんだ?」
アルコールに慣れていない僕たちは気づいたら寝ていて昼過ぎにやってきた八坂さんに起こされた。
「綾さんはもう2〜3日椙山さんの所にいるから、柏原……本名は鳳さんだったか?の件は任せたとの事だ」
「えっ?綾帰ってくるって?本当に?」
「はいはい。綾さんはすぐに帰ろうとしたんだけど、椙山さんがもう少し一緒にいたいからって伝言をたのまれた」
「八坂さん、綾先輩は椙山さんの部屋で?……その……ラブラブしてるんですか?」
「せーた!何聞いてんだよ?下世話だろう?!
そんな事まで聞きたくない!
僕がびっくりして叫ぶと、八坂さんが笑い出した。
「ラブラブ?はちとわからねぇけど聖太朗さんは下世話な事が聞きてぇのか?綾さんと椙山さんが懇ろになったかって?そりゃあお二人は相思相愛なんですから。でも雪哉くんも聖太朗くんもまだ若いねぇ。綾さんが帰ってきてもそっちから聞いちゃダメだ。綾さんから言ってきたなら聞いてやんな」
八坂さんから大人の余裕を感じて恥ずかしくなった。
……昭和の男だ!
綾が帰って来る前にできるだけ、駒を進める事にした。
翌日香取くんは吉原に、向かい接待要員の確保と日程のすりあわせと吉原健吾が足抜けしたいのか聞いてくる事に。
僕は柏原(鳳)に会うため大蔵省に向かった。
「松戸くん。例の件はどうなった?」
会うなりニヤニヤと女性の要求ですか!本当にギラギラしていて羨ましい限りだ。この人もたしか昭和生まれなんだよな。じゃあ八坂さんも精力的なのかな……
「女性の手配は順調です。1週間以内にはお連れできそうなんですが……」
「ですが何だ?」
「問題があるんです。うちの周りを御庭番に取り囲まれているせいで、呼ぶのが難しいんです。確実にご期待にお応えしますので、先に御庭番をどうにかして貰えないでしょうか?」
そんな事は全くないんだけど先にどうにかしてもらえればラッキーだ。ダメ元で交渉してみる。
「なるほど、そういう事もあるだろう。わかった!庭番の頭を洗脳しておいてやるよ。本当に用意出来なかったらお前の姉をいただくからな」
あれ?今生では綾は男だって言わなかったっけ?まぁいいや。
「わかりました。よろしくお願いします」
なんて気分爽快なんだ!
多分だけど見張られている感が突然なくなった。
やっぱり人の視線ってエネルギーあるんだって気づいた。しかも1人や2人じゃなかったようだし。
香取くんもご機嫌で帰ってきた。
こいつ……何かシてきたんじゃ?
まぁいい。
女性の手配も終わった。監視も……たぶん居なくなった。
その日も来てくれた八坂さんに情報を報告して、綾が帰ってくる時に椙山さんも来てくれないか交渉してもらう事にした。
いつまでも悋気おこして落ち込んでいられない。
椙山さんと直に会ってこれからの戦略をたてなければ何も進まないから。
綾さえここに居てくれるならそれでいい!
僕は無理矢理自分を納得させてもやもやを振り払った。




