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本当のラスボス

 目が覚めた時に大好きな人が隣に寝ているのが憧れだった。

 彼の腕の中で目覚め……

 

 あれ?いない……

 

「起きたのか?」

 入り口の襖が開き椙山がお茶と水の張られた小さな桶に厚地の手拭いを持ってきてくれた。

「起き上がれるか?」

「お、おはようございます椙……うっ痛っ」

 喉が渇いていた私はお茶につられて起き上がろうとし、お尻に激痛が走って再び布団の上に転がった。

「あっイタタタ……」

 お尻が捻挫や肉離れのように痛み、私は身体をのけ反らせた。

「班長ぉ〜痛いですっ」

「班長呼びはやめてくれって言ったよな。悪かった。俺も慣れているわけじゃないから解しが足りなかったようだ」

 椙山は手早く寝巻きをたくし上げ、かたく絞った手拭いでお尻を冷やした。まるで熱がある子供を宥めておでこをタオルで冷やすような仕草だ。

 私はいきなり捲られて丸出しになった下半身にかなりドキドキしている。

 あれ?寝巻?班長が自分のを着せてくれたのかな?

 冷やされているのは(しも)なのに顔が熱ってきた。

「あの……班長?」

「彰人!」

「彰人さん、下が丸出しで恥ずかしいです」

 椙山は面白ろそうに意地悪そうに

「何だ?女みたいな事言うんだな。まだ慣れないのか?貴重な経験だぞ?」

 明治(こっち)来てまで班長と呼ぶなと言いながら、上司だった時の言い方をする。

「彰人さんは私が男の方が嬉しいんですか?」

 必殺意地悪返し!

 下半身丸出しのくせにちょっと睨んでみた。

 椙山は少し困った顔で固まり、そして微笑んだ。


 ああっ、その癖懐かしい!

 私が痛みで潤んだ眼で見上げて嬉しそうに微笑むと、椙山は私の頭を撫でながら視線を外し

「煽るな……」と呟いた。

 

 何なの?このシチュエーション。甘いムードになりかけているのに、私はおケツ丸出しの防御力ゼロだよ。しかも痛くて動けないってHP僅かぢゃん!

「あっ、そうた。私にはアレがあった」

 私は急いで痛み止めを生成して口に放り込んだ。

 もう3回目。効果の程はわかっている。

「何だそれ、何をした?」

「痛み止めを生成しました。以前にこれで熱を下げたので効果はわかってます。弟にも効きました。あ、しまった!水気がなくて飲み込めない……」

「起き上がれないだろう?」椙山がお茶を自分の口に含み口移しで飲ませてくれた。

 

 椙山の唇が触れた瞬間へんなスイッチが入ってしまった。入社、配属以来ずっと憧れていた人との関係をかみしめて

「お尻そのままでいいんで抱きしめてください」

 と懇願した。

「はぁ……煽るなって言っているのに……」

 椙山はうつ伏せに寝てお尻に手拭いを乗せたままの私に、手拭いか落ちないように配慮しながら添い寝をして片腕で抱き寄せてくれた。

「これ以上は無理だ。俺がもたない……」


 


 自分で生成した薬なのでとても良く効いた。

 お昼に老婆姿の八坂さんがおにぎりを握って持ってきてくれた。

「お邪魔して申し訳ないけど、この後の事もあるから話し合いにに来ましたよ。握り飯どうぞ」

 八坂さんは本物のおばぁちゃんのように微笑みかけてくれた。

 私がいつでも横になれるように無造作に部屋の隅に寄せて畳んだ布団も視界に入れないように気遣ってくれている。


 椙山に、編集長と女性接待を求められた事と吉原健吾の話を細かく報告した。

「やっぱり警備員のアイツ巻き込まれて死んだのか」

「班長のせいですよ、何とかしてあげて下さい」

「心が男のまま女の姿で客をとるのは精神的に辛いだろうな……かといって綾と同じ屋根の下には置きたくないし、一旦うちで預かって身の振り方を考えるか……」 

「見受けとかしたほうがいいんですか?お金用意したほうが?」

「まだ禿(かむろ)で、しかも外をうろうろできる立場なら黙って連れてきたらいいんじゃないか?置き屋に世話になったなら本人が金ためて後でお礼の手紙とともに届けさせればいい」

 

「椙山さん、綾さんが今日吉原に向かうことになっているんですがどうしやしょう?」八坂さんが椙山に尋ねた。

「綾は肉離れで薬で痛みが引いている状態なので綾無しで予定通り行動してくれる様に紀尾井町の二人に伝言頼めるか?」

「了解!肉離れって事で!」

 八坂さんは口に手を当てているけど、たぶんにやけ顔のまま出て行った。

 

「綾はどうする?俺と住むか?」

 唐突な質問に妄想がさく裂して赤面してしまったけれど、少しほてりが収まった時に浮かんだのは愛しい弟の悲しそうな顔だった。

 もし椙山と会ったら自分の側から離れていくのかと泣きながら聞いてきたことがある。

「彰人さんとずっと一緒に居たいけど、弟と離れることはできなそうです」 

「大丈夫だ、それでいい。庭番の制限がなくなったらいつでも行き来できるしな」

「それはそうと、彰人さん、編集長に御庭番の駆除を頼んで大丈夫なんですか?あの人が元凶(ラスボス)ですよね?」

「え?鳳さんがラスボス?何を言ってるんだ?」

「違うんですか?彰人さんが私たちの知る人物だって伝言くれたじゃないですか」 

「はぁ……松戸(まつと)、プロットからやり直しだ!全ボツ!」

「えっ?じゃ誰なんですか?」

 

 

元凶(ラスボス)は姫野りかだよ。だから吉原健吾も紀尾井町の家の場所は絶対に教えるな充分に警戒しろと弟たちに話してくれ」


 姫野先生がラスボス……

 どうしよう……編集長だと思ってた時も勝てる気がしなかったけど、その100倍勝てる気がしない!

 

 

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