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椙山との逢瀬


「ねぇ、八坂さん。私どうしても椙山さんと会って話したいんだけど、どう思う?」

 側から見聞きした情報だけで判断すると、なんとなく私と健吾くんの間に何かあったように聞こえる。

 でも実際には何もない。

私が亡くなった弟の雪哉に少し雰囲気が似ているとか、生きていれば同じ歳とか思っていたのて、偶に少しの立ち話が癒しになっていただけだ。

 まぁ少なからず慕ってくれていたのかもしれないけど、熱量も本気も伝わってこない程度だ。香取くんの軽口と大差ない。だから知らない世界に来て心細いところに再会した私に縋りたくなるのは仕方ない事だ。私が逆の立場でも拠り所にしただろう。


 それにこの件は私のせいだ。健吾くんは巻き込まれただけの被害者。


 っていうか、元々は椙山のせいじゃない。なんで手を差し伸べてあげないの?

 文字や言伝ではニュアンスが伝わらないだろうから、直に会って話さなくちゃ。



「八坂さん、行きましょう!」

「行きましょう?どちらに?」

 八坂さんが答えると共に雪哉と香取くんがブーブー言い出した。


「ダメだよ姉さん!まだ早いよ!」

「先輩ダメです!御庭番が片付いてからって言ったじゃないですか!それに吉原健吾の相談はどうするんです?」

「雪哉!いい加減『姉さん』はやめなさい!綾がダメなら『兄さん』って呼べば?椙山さんも雪哉も香取くんも、健吾くんの事を誤解し過ぎ!仲のいい知り合い程度なんだよ。友達と呼べる程でもないけど、時々会社で会って話をするのは私の癒しだったの。なのに私のせいで突然知らない世界、知り合いのいない場所に飛ばされて衣食住にも困っていたんだよ?かわいそうと言うより申し訳ないよ!私のせいと言うよりは椙山さんのせいなんだから、なんとかしてもらわなきゃ!とにかく誰が何と言おうと私は行くよ!」


 雪哉と香取くんがまだ何か言いたそうだったけれど無視して立ち上がり

「行こう!八坂さん。上野広小路まで私がスクーターだして運転するから八坂さん後ろに乗って!広小路からはすぐだから八坂さんが私をおぶってくれる?」

「スクーターっていうのは?」

「ガソリンで走る自転車みたいなヤツだよ」

「なるほど面白そうだ。それで行こう」



 「明日の昼までには帰るから」と言い残して八坂と家をでた。

 スマホとか生成しても電波無けりゃ使えないよね。ネット繋がってないPCと同じだもんね……

 何か能力で使える通信手段作れないかな……



 私はスクーターで夜の街を走った。

 100キロ以上出さなければ御庭番に追いつかれるけど、舗装していない道路の100キロは意外と厳しい。

 上野広小路でスクーターを消して八坂さんにおぶってもらった。

 夜の道は人気(ひとけ)がなくてスクーターでも大丈夫そうだったけれど帰りは昼間だ。どうしよう。

 また私は勢いだけで行動してしまったようだ。



 やっと椙山とあえる喜びと、怒られる予感でハラハラしながら八坂さんに椙山の部屋まで案内してもらった。


「綾さん、余計な事は考えずに先ずは久しぶりの逢瀬を楽しんでくれよ。明日また会おう」

 八坂さんは老婆の姿のまま人の良さそうな笑顔をくれて去って行った。

 さて……私は一人で椙山の部屋の扉の前でどうしたらいいか考えながら激しくドキドキしている。

 何と言ってこの襖を開ければいいのか……


 健吾の事で腹が立って乗り込んできたなんてコロっと忘れてしまっていた。


 


 襖が開いた。

 いや、私は開けていない。

 彼が襖を開けた……ということだ。

 ドキドキで心臓が痛い。


「ようこそ……綾。いつ入って来るかと待っていたのに何の音もしないから根負けしたよ。おいで」

 椙山が私の手首を引いて部屋の中に招き入れ素早く襖を閉めて私を抱きしめた。

「私が居るのがわかったんですか?」

 椙山の腕の中で彼の顔を見上げると彼は腰に手を回して少しだけ身体を離し、私の顔を覗きこんだ。

「綾の気配が広小路の方から現れて段々強くなって俺の部屋の前で止まったからな」

「私の気配って?」

「一言でいえばフェロモンかな。香りだけじゃないけど……この襖のあたりで止まって、止まっているのにさらにどんどん強くなった」

「私、もしかして獣臭いんですか?」

「いや、匂いって言う概念が、一番近いだけで実際に匂っているわけじゃない」

 椙山が再び強く抱きしめて来た。

「会いたかったよ。綾……」


 これは私の(雪哉の能力の)フェロモンに彼が反応しているだけなんだろうか?

 でも私はどちらかと言うと椙山のフェロモンで頭の奥が痺れるように酔っているように全身が疼く。

 

 ダメだ。

 一回冷静にならないと。

 前世でも今生(こんじょう)でも椙山は私に『好き』とは一言も言っていない。

 明治(こっち)に転生してから私は男性になった。

 そのせいか、他人を見て性的な事は全く思わなかったのだ。突然性別が変わった私が恋心を抱くのは、どちらなんだろうと思っていた。抱きたい、抱かれたいと思うのは男性なのか女性なのか……

 今わかった。私が欲しかったのは身体の結合ではなく、魂の結合だ。男とか女とかどうでもいい。


「班長、私のこと好きなんですか?もし恋愛感情がないのならこの腕を解いてください」

 私が決死の思いで吐き出した言葉を椙山は一笑に付した。

「おいおい……」

 椙山は笑う。

「無粋なヤツだな。好きでもないヤツこんなことしないだろう?」

 椙山が私の前髪の辺りに口付けをした。

「あと、明治(こっち)にきてまで班長はやめてくれ」

「彰人……さん?」

「名前呼んだだけで照れるのもやめてくれ。こっちまで恥ずかしくなるだろう?」

「綾、俺に好きとか愛してるって言って欲しいのなら言わせてみろ。案外簡単に聞けるかもしれないぞ?」

 椙山はさらに力を込めて抱きしめて……

 ……そして深い深い口付けを交わした。

 

 もういい。

 彼が私が男になって残念に思おうが、好きだと口にしなかろうがどうでもいい。



 私はその夜、彼に抱かれた。


 椙山は月明かりの中、私の瞳を覗きこみ

「愛している。今までも、これからも」

 と呟いた。



挿絵(By みてみん)



 


つい出来心で新しい作品を書き始めてしまったので、更新が定期(金曜~土曜更新)じゃなくなるかもしれません。できるだけ頑張ります!

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