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椙山からの恋文

 寒空に江戸川の支流で落ちてびしょびしょになった私と雪哉は高熱をだしたけれど、体温計がないのでどの位の発熱だったかわからない。1日ほど寝込んだ後に

 あー解熱剤が恋しい……あれ生成できないのかな?

 と思って試しに作ってみた。私がイメージした通りの色と形の錠剤が出来上がった。


 うーん……なんか飲むのが躊躇われる……

 作ったのが自分だと思うとなんとなく怖い。もしかして世の中で1番信用できないのは自分かも……と思っていたらそのまま眠ってしまい、目が覚めたら形が小さいカケラになっていた。


 ?……縮んだのかな、欠けたのかな?

 さらにそのまま放置していたら消えて無くなった。


 夜、お粥を作って持ってきてくれた香取くんにその話しをすると


「生成の材料は心力って感じたんですよね?ちょっとニュアンス違うけど、RPGでいうところのマナとかオドみたいなものだと思った方が理解しやすいかもしれないです。害はないと思いますよ。むしろ飲んでみて下さい。無くなったのはたぶん生成した物のエネルギーが切れたら消滅すると言う事でしょう?それに他人にも効果があるのか知りたいから、雪哉の分も作って下さい。飲ませてきます!」


 結果、私と雪哉はたぶん高熱だったのが微熱くらいまで下がった。

「綾より僕の方が効いた気がする。」

 雪哉がとても喜んでいる。

「先輩もしかして睡眠薬とか毒薬とかも作れるんじゃないですか?」

 香取くんはもっと喜んでいる。

 2人が喜んでいると私も嬉しい。


「でも、先輩の心力が保つ範囲じゃないとダメですね。なんか通信系のもの作って貰ってウチと八坂さんや椙山さんのとこに置けたらいいのにと思ったんですが」

「うん。椙山さんと話しできるなら私は凄く頑張りたいけど、1日位で消えちゃうね……たぶん。一昨日のモーターボートは消したわけだけど、もし消してなくても消えていたね」


 通信手段かぁ……それ、めちゃくちゃ欲しい!

 


 

 次の日の午前中にに真っ白な髪の老婆が門から入ってきた。

 雪哉が仕事に出ようとして3人とも玄関にいたので緊張が走った。3人の警戒をよそに老婆はお構いなしに入ってくる。

 

 なんだろう?女性って20代後半から30代前半の一部の美女以外では、お年寄りの方が怪しい感じがするんだよね……寧ろ戦闘力がありそうで怖い。


「ひっひっひっ。ワタシじゃよ。昭和19年没。ここで名前は言わんでくれるか?」


 芝居がかった変な人なのに

「どうぞお入り下さい」と雪哉が『真ん中の部屋』に案内した。



「凄い変装と芝居ですね!八坂さん!」

 雪哉は『真ん中の部屋』に入るなり笑い出した。


 八坂さんだった。……私、洞察力、行方不明か!

 

「用心はした方がいいだろう?俺は黙って仕事辞めちまったしな」

 八坂さんが女装のまま普段のように喋り出した。


「椙山さんに言われて来た。この格好も椙山さんが芝居小屋で調達してきてくれて、普段からこの格好なんだぜ。笑うだろ?」

 

「いいなぁ、私も椙山さんに会いたい……」

 私が心の底から呟いた。

「俺が背負って連れてってやろうか?」

 八坂さんが老婆の格好で私をおんぶして100キロ位で走って連れて行こうかと言ってくれてるけど、シュール過ぎる。シュール過ぎるけど……

 

「……行きたい……」

「ダメー!」

 私が連れて行ってと言う前に雪哉と香取くんに合唱で反対された。意味がわからない。

 

「……なんで行ったらダメなの?私だってちょっとだけ戦闘力があがったんだよ?好きな人に会いたいって普通の感情じゃないの?そんなに反対されるような事なの?」

 私が泣きながらキレたら雪哉と香取くんは気まずそう

 に顔をそむけたけど、老婆に扮した八坂さんはまるで本物のおばあちゃんのように微笑みながら近づいてきて頭をなでてくれた。

 

「綾さん、大丈夫だ。椙山さんも会いたがってる。毎晩、綾を想って震えている。と伝えて欲しいと言っていた」 


「……それは嘘。椙山さんはそういう漫画みたいなセリフをわざと言ってみる人!」

 会いたすぎて盛り上がっていた気持ちが急に萎えた。


「おお!さすが椙山さんだ。綾さんが会いたいと騒いだらそう言えばいいと言ったんだ。あははは。まぁそんなにむっとするな。手紙を預かっているから帰る時に渡すから」

「なんで帰りになんですか?!」

「作戦を伝えに来たのに話す前に手紙をわたしたら、うわの空になるからだそうだ」

「うっ……」

 

 悔しい……把握されている……

 香取くんは口を押さえて震えていて、雪哉は苦笑いしている。

 

「さて、作戦の話しをしてもいいか?まず、椙山さんと君たちが普通に会って打ち合わせをするためには内務卿の御庭番を排除する必要がある。それで、松戸くん、大蔵省にいた柏原という男を知っているか?」

「柏原ですか?ちょっと上背があって、がっしりしていて、眼光が鋭い感じの人ですよね?」

 雪哉が宙を睨みながら返事をする。

「……僕、話しをした事もないですよ。苦手なタイプなので……」

 

「そうだ。その人で合っているが、そうか、苦手か。まぁあの人を得意だと言う人はいないだろうな。でも、その人に会いに行ってくれ。椙山さん曰くその人が内務卿か内務卿の御庭番を管理しているんじゃないかって話しだ。まずは何もしなくていい。そいつに会って『おはよう』とか『こんにちは』とか挨拶してみて欲しいそうだ。他に人がいる時に仕掛けてくるような馬鹿じゃないから、反対に誰も側にいない時には近くに行かない方がいいかもしれないと……いけそうか?」

 

「わかりました。僕にしかできない事ですね。明日大蔵省に顔を出してみます」

「充分に気を付けてな。それと妖刀を見せてくれるか?」


 雪哉は懐に手を入れて、着物の内側から帯に差している小脇差を取り出して八坂さんに渡した。

 

「これです。香取くんがいないと僕にはあまり使いこなせないんですが、守り刀のようなもんですね」

「なるほど。相変わらず何か靄のような 透明の湯気なみてぇなエネルギーを発してるな……なるほど、誰にでも抜けるのか……刀身は……刃こぼれも無く綺麗だな。切れ味も良さそうだ。よし、じゃあ柏原の件は頼んだ!」

 

 八坂さんは雪哉に小脇差を返すと

「何かいい連絡手段があれば良いんだけどなこの時代にはないし、何か思いついたら提案してくれ。それまでは週に2回くらい俺がくるからな」

 と言って帰るために立ち上がった。


「ほら、お待ちかねの恋文だ」と言って椙山からの手紙を私にくれた。


 八坂さんが帰った後、雪哉と香取くんかこっちを見てソワソワしているのを感じて、自分の部屋に戻り手紙を開いた。




 綾へ

 意図的に大変な事に巻き込んでしまって申し訳ない。

 ここに君を連れてきたかったけれど危ない目にもあわせたくない。

 だから最初は連れてくるつもりはなかった。

 私は以前にここに来た時に雪哉くんを見かけて、

 それが君の3年前に亡くなった弟さんだと後で知った。

 だから君を連れてくる決心をしたんだ。

 君も弟さんに会いたいだろうし、

 何よりこの局面で君と一緒にいたかったから。

 次に君と会えた時には話したい事がたくさんある。

 あの時みたいに君を抱きしめたいと切に願う。




 なにが切に願う。だ……

 私たちに協力して欲しい。

 力を貸して欲しいって言ったじゃん!

 班長の嘘つき!


 毒付きながらも会いたさと恋しさが

 さっきとは比じゃない強さで襲ってきて

 

 手紙を抱きしめながら私は泣いた。

 

 

 

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