表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/54

忍ぶ不忍

 


……という経緯で出逢えるはずのなかった推しとのおでけけが決まった。

 正直言って嬉しいより困惑の方が強い。

 それよりも椙山(すぎやま)と再会ができるかもしれないって方がワクワクしている自分がいる。

 遠くにある憧れを推すのとリアでは全然違うって事なんだね。推しの熱量がリアを上回る人もいるだろうけど……




 おでかけの朝、雪哉と香取くんがやたらそわそわしている。あの二人のことだ、絶対にこっそりついて来るに違いない。

 斎藤一が人力車で迎えに来てくれたのでいそいそと乗り込む。困惑とかいいつつ浮かれいるのも確かで……

 少し深呼吸して浮かれた気持ちを抑えこみ『平常心』と唱えながら挨拶をして乗り込んだ。屋根がないとはいえ全力でフェロモンを撒き散らすわけにはいかない。


 「綾乃介殿と出掛けられてとても嬉しいです」


 斎藤一は歴史的に、旗本と口論のすえ斬ってしまったりしているので、私的には喧嘩っ早い印象もあったけれど、実際に見ると穏やかそうなイメージで、これが強者の余裕なのかと感じる。


 

「綾乃介ではなく、綾と呼んで頂けないでしょうか?前世ではそう呼ばれていたので」

「前世は女性だったと雪哉殿から聞きました。綾さんとお呼びしても?」


 斎藤が車夫に聞こえない様に小声で囁く。なんか二人で秘密を共有しているようで急に心臓が騒がしくなった。


 ……ダメダメ!平常心っ!


 「……さん要りません。綾で大丈夫です」


 私が照れると斎藤が少し赤面したような気がする。


 ……ヤバい!平常心っっ!




 


 靖国神社が見えてきた。

 じゃあ、こちら側には87年後位に武道館ができるんだね。87年後位……私は生きてないだろうな。

 このまま令和に戻ることは出来ないのだろうかと考えていたら急に寂しくなってしまった。


 雪哉がいてくれて本当に良かった。1人では色んな意味でヤバかったと思う。




「上野の帰りに不忍に寄ってもらってもいいですか?」


「聞いてます。綾の伴侶を捜したいんですね」


 綾と呼ばれて嬉しくてドキっとしたあと、え?伴侶って!となってパニくりそうになる。


「えっ?あっ?いえ、伴侶とかそういうのではなく、単に上司といいますか、好きだった人といいますか……。彼はなんとなくですが、この現象について何か知ってそうな気がするんです」


 斎藤はふと寂しそうに


「かけがえのない人なんですね」と微笑みながら呟いた。


「かけがえがないという次元までいっているか疑問なんです。私はずっと好きでしたが、彼は私に好きだとは言ってなくて……」

 あれ?椙山班長って私の事本当に好きなのかな?

 なんかモヤモヤしてきた。


 

「私にもかけがえのない人がいました」

 斎藤が遠い目になって話すのをやめた。


 なんでそこで話すのやめるの?前に言っていた沖田総司とかいう?最初に会った時に沖田総司は山南敬助が好きだったとか言ってたもんね。沖田は山南の死後も色々面倒みていたと聞くし……これは聞いちゃいけない雰囲気なんだろうな。新撰組って人間関係複雑だよね。



「ところで、上野公園って桜で有名な所ですよね?この時期には何があるんですか?」

 西郷さんの銅像と言いそうになって急いでやめる。


 今年西南戦争で西郷と戦ったんじゃない!アブナイアブナイ。


 「桜の名所……なんですか?去年開園したので詳しくわかりません。今、内国勧業博覧会というのをやっているんですよ。西洋では万国博覧会というのをやっているらしく、10年前のパリ万博や4年前のウィーン万博に刺激をうけて大久保卿の意向で今年の夏に始まったのです」


 「えっ?内務卿が?それって……」


 「黙っていてすみません。その通りです。絶対に内務卿の手の者がいるはずなんで、私が綾と個人的に仲がいい……という牽制をしておこうかと思いまして」


 「それでは斎藤さまにご迷惑をおかけするかもしれませんし」

 「私は大丈夫ですよ。血の気が多い印象で有名なようですから」


 これは笑うべきとこなのかな?

 笑ったらいけないとこなのかな?

 ……わからないからとりあえず微笑んでおこう。




 明治(ここ)に来て初めて人がたくさんいるところに来た。 という印象の場所だった。


 博覧会かぁ……そうかぁ……転生前は、○○博というイベントに参加したことがなかったのでむしろ新鮮な感じがする。というか『明治博』とか、博物館の『明治展』に来たようで楽しい。そういえば愛知に明治村というところがあったね。行ったことないけど、行ってみたかった。


 「今年は伝染病の流行があったので来場者が少ないようです」

 「こんなに人が多いのにですか?」


 まぁこういうイベントは祭り以外にはなかった時代なのだからそりゃあ混むよね、ふむふむと思っていたら斎藤が手をつないでひきよせ私の肩を抱いた。


 「誰かがついてきています」

 斎藤が耳元でそっと囁く。


 「うちの弟たちではないですか?」


 「違いそうですね。殺気をわざと押し殺したような気配があるんです。実は雪哉殿と香取殿にはギリギリ見えるところで見てもらってます」


 「あ、やっぱり……」絶対に来る準備していると思っていたよ。


 もし誰かに侵入されたらわかるようなトラップがいっぱい仕込まれているらしいけど、自宅を無人にする方が危ないんじゃないの?、まぁ、それでも来るだろうな、あの子たちは……




 数日前、雪哉と寝る前に椙山の話をした。


 彼はあの日社屋が爆発して私たちが死ぬのを知っていただろうという話から始まって、以前 雪哉が「町田に転生しただろう」と言ったのは町田に「椙山神社」という神社があるからだという事とか、最期に「陰間の宿」と言ったことの意味とか、もし私が今 彼と再会して一緒に住もうと言われたらどうするのかなどを 眠くなるまで話し合った。


 私が明治(ここ)にきて椙山の最期の言葉の話をした後、雪哉も「陰間の宿」については調べてくれたらしい。陰間とはそもそも歌舞伎用語なので芝居小屋のようなものがあってそこにでている気に入った役者の男の子を買うような想像をしていたけれど、そもそも地域によって違うらしい。池之端は寛永寺や湯島天満宮のほかにも神社仏閣が多くある場所だ。女人と通じることのできない僧侶神官たちが、少女に見紛う美少年を買うためにできた発展場で、紹介所と連れ込み宿が湯島神社の「男坂」の坂下あたりから不忍池の方面に扇状にまぁまぁ広範囲に点在するらしい。


 そんな中をどうやって探せばいいのかなと思った時、はっと気づいたことがある。


 上野の動物園に資料用の動物の写真を撮りに椙山を含む椙山班の数人と行った時のことを思い出した。その時 椙山班の数人で帰りに行ったとんかつ屋さんがまさに雪哉が示している範囲に含まれている。


 小上がりに畳があって低い位置に窓があり、格子がついていた。

 「昔、このあたりは赤線だったんだろうな」と誰かが呟いた。


 あの時、誰があの老舗のとんかつ屋に行こうって言ったんだったかな?椙山班長かな? 


 




 物思いに耽っていると何かが飛んできて斎藤が胸元に仕込んでいた短刀で叩き落した。


 「まずい、このような人の多いところで飛び道具など、他の人たちを巻き込んでしまう。にげましょう」

 「あの……斎藤さま。弟たちは?」

 「綾と雪哉殿が話したという辺りで一度待ち合わせしてみるが、会えない場合は紀尾井町に先に戻るという手はずになっています。合流出来たほうが良いが、会えない場合うろうろしていると余計に危険になるかもしれないので」


 「私が雪哉と話した……と言うと後にとんかつ屋さんができる辺りですね!りょーかいです!」




 飛び道具ということはまたお庭番なのだろうか。前回の拉致では目的がわからなかった。

 なんとなく、なんとなくだけど……雪哉や香取くんじゃなく私のことを殺そうとしてない?これ……


 いやいや、私はまだ明治ここで知り合いは殆どいないし、外に出してもらえないんだから恨みもかってないと思うんだけど……


 上野の山を寛永時とは反対方向に走り降りていく。まだ高い建物がないので湯島の方向はわかりやすかった。不忍池沿いに長身の斎藤が私を抱えるようにして走っている。


 追手は、さすが隠密!足が速い。誰かがついてきている感覚が私にもわかるようになった。かなり距離を縮められているようだ。


 不忍池に沿って短辺を湯島天満宮の方へは行かずにまっすぐ行くとなにやら美少年と美丈夫が色気を漂わせる一角にたどり着いた。


 その中にどんどん入っていくと不思議なことに追手の気配がかき消えた。

 「追手……いなくないですか?」


  斎藤も振り返りながら

 「殺気が感じられなくなりましたね。いなくなったという事はないと思うが、まさか……」

 「まさか何ですか?」

 「綾のその、フェロモンといったか?その気配を頼りに追ってきていたかもしれないな」

 「ああ、なるほどここはフェロモンの宝庫だから紛れたと……」

 って!私は麝香鹿(じゃこうじか)かなにかですか!


 自分に少しだけ余裕ができると雪哉たちが心配になってきた。


 「どうしましょう?本来なら見晴らしのいいところで警戒する方が得策かもしれませんが、相手が飛び道具使う系なら路地に潜んだ方がいいでしょうか?」


 「そうだな、そうしよう。綾、大丈夫か?」






 その時、雪哉でも香取くんでもない声が私を呼んだ。


 


 「綾?」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ