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暗転前 

 私はモテた事がない。


 だから自信がないけど、椙山すぎやま班長は私に気があるかもしれない。今も薄笑みでこちらをチラッと見てから私の横を通り過ぎる。長身で、少し薄めの色の瞳も髪もふわっとしているのに、クールな感じのいでたちがめちゃくちゃ似合っている。


 気があって欲しい 切実に!


 ここは週刊少年漫画の編集部。椙山彰人すぎやま あきと(推定20代後半)は班長で、わたし松戸まつと あや(23歳)は  椙山班の新人、 つまり雑用係。 同じ班で同期の二ノにのみや かおるは、椙山班長が自分をお気に入りだとか底根だとか聞いてもいないのに言っている。曰く椙山班長だけではなく男は皆自分に気があるのだとか・・・


 うん、まぁ、どこにでもいるよね?自分の器量と女子力に自信がありすぎる専断偏頗な人間って!


 私は所謂6大学といわれている優秀な大学の文学部を卒業して一年前に大手出版社に就職した。頑張った! 世の不況の波をザバンとかぶった私の同期は、例年の半分以下らしい。特に少年誌配属の女性同期は2人だけ。なのに何故か 聞いた事ない短大出身の二ノ宮がいる。不思議すぎる……


 いや、むしろわかりやすい?


 お偉いさんの縁故入社かなんかだろうね。そのせいか、彼女には誰も不用意に近づかないし意見もしない。みんな賢いよね… 確かに綺麗な人だとは思うけど、見当違いな発言と意味不明な自信に辟易としてしまう。軽挙妄動に巻き込まれれないためには近づかないのが一番!君子危うきに近寄らず精神 大事!

 二ノ宮サンとは正反対で椙山班長は、仕事の正確さも飛び抜けた発想力も、さりげなさという名のオブラートに包んで目立たないように生きている。中間管理職としては賢いやり方だと思う。


素晴らしい!大好き!(あっ、本音が溢れちゃった♡)




「編集長が呼んでるわよ!フフッ 松戸さんを呼ぶためにわざわざ私に先に声かけるなんて編集長ったら本当に私の事大好きね。」


 思っても言わなきゃいい一言が多い二ノ宮サンの伝言で、急いで編集長のところに急ぐ。


「お呼びですか?編集長」


 編集長のスペースにむかうと椙山班長もデスクの前に立っているのか見える。まさか大好きな班長の前で編集長自らのお叱りとかじゃないよね……ドキドキ……


「あぁ松戸、実は月刊の方の編集部から少女漫画の作家先生を預かったんだ。椙山に担当してもらう。ゆくゆくは松戸に担当してもらう事も念頭において椙山の助手をして欲しい」


 うそっ!やったー!ついに雑用から編集助手にレベルアップ!しかも椙山班長に色々教えて貰えるなんて今日はなんて良き日!


「承知致しました 頑張ります!」

「よし、じゃあ早速行こうか。」

 編集長のデスクを離れながら椙山班長が微笑む。

「班長、どちらに?」

「少女漫画からきた作家先生のとこだ。今時 仕事場におじゃますることは殆どないが、その先生は仕事場に、差し入れ付きの担当を呼ぶのがお好きだそうだ。打ち合わせは道々でいいだろう?」

 編集部では所謂 漫画家と呼ばれる方々を作家先生と呼ぶ。


 私の、椙山班は1番入口から遠い島なので鞄をとりに戻るか考える。

(カード類は入れてないけど財布が鞄の中なんだよねぇ)

 椙山班長はまっすぐに出口に向かっているので待って貰ってデスクに戻り荷物を取ってくるのに5〜10分はロスする。チラリとデスクの方を見ると二ノ宮と目があった。物凄い憤怒の表情でこちらを睨んでいる。話しかけたら爆発しそうだ。

 うん。鞄と財布は諦めよう。スマホと万年筆と小さいメモ帳はジャケットのポケットに入れてある。スマホあればメモ帳も要らないんだけどね。全てをスマホやタブレットで済ますと、アナログな作家さんには嫌な顔されるらしい。初編集の仕事を記念して革の財布付きのメモ帳買おう!システム手帳っぽいバインダーもいいな仕事できそうな感じで!本当はバリバリのタブレット派なんだけどね。


 私達が勤めている栄光社の本社ビルの正面玄関を通り過ぎて外に出る。全面ガラス張りの15階の建物が太陽を反射して強い光を放っている。逆光の班長がタクシーをとめた。


「今日訪ねる作家だけど、好き嫌いが激しいらしいから、綾ちゃんは挨拶が終わったら様子がわかるまで黙ってニコニコしていればいいから」

 予定通りタクシーの中で打ち合わせをはじめる。


「初めての編集で作家に嫌われたら激しく落ちると思うので班長の言う通りにします」

「そうだなぁ 難しく考える必要はないけどクセの強い人が多いから合う合わないがはっきりするしなぁ。まぁ俺に任せておけ」

「手土産はどうするんですか?」

「編集長が取り寄せたらしい、さっき渡された。編集長が気に入って呼んだってウワサだ」

「すご!めちゃくちゃ期待の作家先生なんですね。どんな作品描かれてるんですか?」

「まぁ一言で言うなら精神世界的な感じかな」

「スピリチュアルとかですか?」

「ん〜そうとも言えるし違うとも言えるのか・・・」


 珍しい!いつもきっちりぱっきりの班長がブツブツ言いながら考え込んでしまった。

 高校の友人で少女漫画描いてた子がいたな…どこかに遊びに行く時は普通にカジュアルだったけど、家に遊びに行ったら ごりごりのロリータ着て百面相しながらトランス状態で原稿を描いていた。女の子の派手な下着は男のためだと思ってるヤツ(男)が多いけど、実は自分の気分をあげるためのアイテム要素が強いのと同じかもしれないね…ロリータファッションが彼女達の戦いのための鎧だったり武器だったりサプリメントだったりする事を私は知っている。 

 だから私はきっこれから会う先生ともうまくやれるんじゃないかとその時は漠然と考えていた…

 

 








 

10/29 誤字脱字、わかりにくい言い回しを改変しました。

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