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英会話のすゝめ

 次の日から見張りのランクがだいたい3くらい上がった。

 どうやら悪人面の下郎は首になったらしい。


 物質的にクビが飛んでなければいいけど。


 別にマズい話をしているわけではないけれど、

 香取くんとは英語で会話している。

 こんな事なら手話とかモールス信号とか唇を読むとか学んでおけば良かった。

 まぁ手は自由にならないから手話は役に立たないんだけど、

 雪哉と香取くんはその辺の対策はしてあったらしい。

 無事に帰ったら私も教えてもらわなきゃね。

 別に私がおバカなんじゃないよ?

 明治(こっち)きて半年も経っていれば私だって……

 


 ごめんなさい……考えなしに走って捕まったのは私です(猛省) 



 見張りランクアップのコイツが英語を理解しているかどうか確かめないと無駄話以外の会話が出来ないんだよね。

 

 「The house next door was fenced off wasn't it?」

 (隣んちに囲いができたよね?)

 と香取君に言ってみた。

 

 「What talking about?」(何の話し?)

 香取くんには伝わらなかった。しょうがない……

 「‘cose…………Hey!」(だから……ヘィ!)


 香取くんには通じなかったけど、見張りの男が反応した。

 どうやらジワってるらしく口を真一文字にして耐えている。

 ウケたというより意表をつかれたらしい。


 I wonder if he understands English?

 (彼は英語がわかるのかなぁ?)


 香取くんがはっとした顔をした。

 やっと気付いてくれたらしい。

 

「おにぃさん何者ですか?英語わかるんですね?」

 隠したって無駄だよ〜の序でに誰何した。


「私は御庭番だ。主に英国大使局要員の。だからお前の事はよく知っているぞ、香取。」

 

 うわー、こんなに簡単にゲロってくれるなら、寒いギャグ言わないで最初から聞けばよかったじゃーん?

 

「簡単に明かしたなって顔だな?だから何を画策しても無駄だという牽制だ!」

「番人のエリートだから偉そうなんですね?私のつまらない話で笑ったくせに!」

「わ、笑ってなどいない!エリート?エリートとは何だ?」

「えっ?本当に英語わかるの?」

「あっ、いや、嗜む程度だ。お前らが本当に英語が堪能かどうか調べろという内務卿の指示だ!」

「へぇ、やっぱり大久保利通の手下なんだぁ?」

「あっ……」


 エリートどころかダメダメだったよ。

 もう、香取くんなんか声出して笑ってるし。


「大丈夫だよお兄さん、俺達は誰の指示であろうと英国大使局に潜入捜査する気は満々だから。あぁでも、できれば大久保卿と話がしたい。あんたたちがわざと内務卿の名前出して俺達を騙してる可能性だってあるだろ?」

 見張りの自称番人のダメさ加減を確認した香取くんが強気にでた。

 こういうエリート擬きは矜持がすべてだからね。


「そうだよねー。御庭番っていうのも本当かどうか。情報扱う仕事の割に迂闊すぎるし、本当は何も知らないんじゃないの?」

 香取くんに乗っかって煽ってみた。

「わっ,私は本当に御庭番だ!それに内務卿はまだ京都だ!」

 あっその話しは聞いたね。


「それは嘘です。もう戻っているはずですよ。」

 香取君の挑発にダメダメ番人が観念してペラペラと喋りだした。


 話はこうだ。

 明治天皇が皇室の行事のため今年の始めに内務省のお役人と共に京都に向かった。

 その時に西南戦争が始まったためそのまま京都に留まった。

 そのため内務卿が京都に駆け付けた。

 内務省のお役人たちは西南戦争の対応のため東京を離れていた。

 そして主要人物が留守の間に『太政官指令』が決定された。


 たったそれだけのことである。

 胡散臭い!

 すでに昨日聞いた話とは若干違いがあるし、香取君の話によると

 もう大久保卿は帰ってきているというではないか。

 

「香取くん『太政官指令』ってなに?」

「すみません 自分は政府の人間じゃないので違うかもしれませんが、たしか竹島問題じゃなかったかと・・・」

  

 つまり最初から矛先が外国に向いてるならバレないと思って誰かが事を大げさにして、それを理由に何か企んでいるだけなのではないだろうか?

 

 なるほど理解した。

 倒幕からの明治維新はイギリスが後ろから糸を引いていたって、明治(こっち)にきてから雪哉に聞いたけど

 内密にそんな細かい所まで食い込んでいるわけがない。むしろするならそんなやり方はしないだろう。


 大久保利通には会ってみたい。

 まぁ、単に歴史的興味もあるし、今 監禁されているここがどこだか知らないけど、今の日本のトップといえる人物がこんな所まで足を運ぶとは思えない。

 だとすると私達が何処かに運ばれる事になるだろうし、外に出られたら香取くんの能力も使える。

 

 ただ、下手に私達だけ逃げても、雪哉が無事なのか逃げているのか拉致されているのかもわからない。

 もし拉致されているのだとしたら香取くんの能力は隠しておいた方が得策かもしれないしね。

 対策を講じなければいけない事が多い割に、判断材料が少な過ぎる。

 この先 大久保卿だけ居なくなってもこの組織が残る場合だってあるのだから、こちらの手の内はなるべく隠した作戦を考えないとだ!

 

 香取くんも考えこんでいる。

 私もフランス語かロシア語話せればなぁ。

 まさか150年近く昔の日本に来てこんなに語学か必要になるなんて。

 とにかくこの先を考えるためには、この見張りランク3は邪魔だ。

 こいつがいると香取くんと話しあえない。


「すみません番人のお兄さん」

「翠龍だ!」

 うっ!本名じゃないよね?名前負けパネェ~!厨二か!

 吹き出しそうになるのを堪えながらにっこり笑う。

 こらこら、香取くん!思いっきり咽せてるんじゃありませんよ!

 

「翠龍殿、このまま私達がここに押し留められていても建設的ではないですよね?私はまだ何もしていない地方から出てきたばかりの者ですし、香取も大使局の仕事を受けているだけで、所属もしていない者です。ただある程度の信用はされているでしょう。もし内務卿が我々に密偵を希望されるならばお受け致します。その場合は内務卿ご本人か、若しくは内務卿の御意志を解される方ときちんと話しを詰めるべきだと考えるのですが、翠龍殿はどのようにお考えでしょうか?もうすでに私共がある程度の英語を話せる事は御理解頂いていますよね?」

「あぁ、そうだな……」

 この人は割と素直で、正攻法で話した方がいいみたい?

 厨二病の人って自分に素直な人多いもんね。

「翠龍殿から内務卿かそれに準じる方に連絡とっていただけないのでしょうか?」

「まぁ、そうだな。ではそう提案してみよう。少し離れるが……」

「大丈夫ですよ。我々が明治政府と対立する意味がないですから。逃げません。我々が敵に思えますか?」

 香取くんが昨日より腫れのひいた顔でにっこりと笑うのを見て安心でもしたのか、見張り番の番人は奥へ戻って行った。

 

 香取くんにこんな酷い事した時点でお前らは敵なんじゃボケー!私だって手首を縄で絞められて血がでて……

 

 ん?暴れた割には締まってないね。縄……

「香取くん、この縄の結び方bowlineだ!日本語で言うところのもやい結び!」

「モアイ……?すみません、わかりません。」

「船乗りとか登山家が結ぶやつ!引っ張っても輪の内側は狭くならないけど結び目は強くしまって解けにくくなるんだよ」

「あっ、聞いたことはあります。船のマストとかもそう結ぶんですよね。」

「そうそう。この結び目のこの部分を少しずつ緩めておいて。いざという時のために!」

「わかりました! ところで先輩、雪哉は今どうしているんでしょうか?」

「やっぱり同じ事考えてたんだね。そうなんだよ、それによって対策が,変わってくるんだよね。」

 

「先輩が拐われた時、あいつ追いかけて来ましたか?」

「私は目隠しされていたから……あ、いや……」

 そうだ。忘れていた。

 雪哉は最初から何かに気づいたふうだったし、追いかけようともしてなかった気がする。

 

「追いかけようとしてなかった気がする。人力車の馬車みたいな屋根付きのやつって、内務省で使っているもの……とか見てわかると思う?」

「あいつだったらわかったと思います。だって結局この拉致監禁は、明治政府関連だったわけですから」

「じゃあ雪哉は……」

「たぶん何か気づいてすぐに対策をとっていると思います」

「私達は雪哉の事は関係なしに作戦を考えても大丈夫って事?」

 

「たぶんですが、大丈夫ではないでしょうか……綾先輩、雪哉(ユッキー)の事もあるし今後の事もあるので、ギリギリまでこいつらの言う通りにしてみませんか?」

「私も同じ事考えてた。真意が何処にあるのか、何に利用されているのかもわからないしね。香取くんをそんな痛々しいめにあわせた奴らに仕返しもしたいし、私だってこのまま安全とは限らないじゃない?」

 

 香取くんは少し考え込んだ後自信たっぷりに

「先輩は大丈夫ですよ!自分もたぶん先輩といる限りは大丈夫だと思います。覚えてますか?雪哉(ユッキー)の能力です。先輩が恙なく過ごせるってやつ。この状況が恙なくかどうかわかりませんが、少なくても先輩は暴力を振るわれてないし、1日2回ですが、握り飯もだしてくれてる。袴脱がされたのも厠を見張られながらするのも屈辱でしょうが、女じゃないんだし気にしなければ……」

「気になるよ!そこは!」

 香取くんが「気になるんだ……」と言いながら笑う。

「自分は先輩が目の前でウンコしてても愛おしいだけです。」

「ちょっとっ!今そういう冗談言っても和まないからねっ!」

 目の前ではないけど、柱に縛られた縄が届く範囲に簡単な衝立と雪隠がある。

 音も匂いも丸わかりで辛い。

 男だって嫌だろうが、前世女の意識がちょっとだけ残っているので余計に辛い。

 香取くんが(私が気にしないように)という意味で言ってくれている冗談なのはわかるし、丸見えよりは人道的だっていうのもわかる。

 昨日、越後屋っぽいどが帰った後には寝るために簀子2枚用意されたので、この時代の基本的人権はギリセーフかもしれない、でも先月の私はふかふかのお布団で寝てたんだよっ?!

恙なくなくない?

 

 香取くんがじっと私を見ながら身を寄せてきた。

 変な冗談の後なのでつい身構えてしまう。

 

「先輩……」

 耳元で囁かれて首が竦む。

「自分が、例の技発動するときは『ウラー!』逃げては『ベギ!』イエスは『ダー』ノーは『ニェート』って言います。これだけは覚えて下さい。簡単な単語だから声に出さなくても口の形でわかって下さいね。」

 

 ううっ、耳がっ……耳がくすぐったいっ!

「わ、わかった……」

「あれぇ?先輩、なんで顔、真っ赤なんですか? もしかして耳、感じちゃいました?」

 香取くんがニヤニヤしながら最後にフッと息を吹きかけて離れていく。

 

 涙目で首を竦めて

「後で覚えてなさいよ!」と睨む。

 

「先輩、耳が敏感なんですね。覚えておきますので是非 後でお願いします!」

 

 なんでそんなに嬉しそうなの?

 今は作戦会議中じゃなかった?


 

 絶対に許さん!覚えておけ小僧!

 

その頃雪哉は?!

明日side雪哉更新予定です(#^.^#)

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