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4.リーエンの目的

(わりと食が細いんだな……)


 たんにマナーがいいだけかもしれないが、リーエンの食べる速さを観察してユーティリスはそう思った。


 体は小さくともそれなりに自分はしっかり食べるから、あまり武芸とかはやらないのかもしれない。


 食事を続ける彼に前から聞きたかったことをたずねた。


「どうしてわざわざエクグラシアで魔術を学ぼうとしたの。サルジアのほうが大国だし歴史も古いだろう?」


「……ユーティリスはせっかちだなぁ」


 リーエンは食事をする手をとめず、パンをつまみながらクスッと笑った。


「せっかち……」


「そういうのは、もっと親しくなってから話すもんだよ。そうだなぁ……きみが学生寮で僕の部屋に遊びにくるぐらいになったら聞かせてあげる」


「なんだい、それ」


 はぐらかされたような気がして、思わず不機嫌な声がでた。


 うまく感情を隠すことができないユーティリスに、リーエンはようやく食事をする手をとめ、ナイフとフォークを置くと黒曜石のような瞳を彼にむけた。


「僕には目的があるからここにきた。それはいくつもあるけど全部達成できるかはわからない。きみが協力してくれたらうれしいけれど、そうでなくとも僕はきみと友人になりたい」


 その目に宿る強い光にユーティリスは言葉をのみ、少ししてから返事をした。


「僕たちは友人になれるよ。だって学園では同じ学年だし、卒業まで五年間いっしょだ……そうだろう?」


 レクサとはわからないけど……ちょっとそう思いつつ返事をすると、リーエンはパアッと顔を輝かせた。


「そうだね、よかった……これを機に留学生たちが、たがいの国を行き来して学びあえるようになったら最高だ。いつかきみにもサルジアにきてほしいな……とても美しい国だよ」


 そういってリーエンは食堂の窓から遠い空を見つめた。涼やかな横顔はとても美しかった。





 ユーティリスはリーエンと過ごす時間を作るようにした。話をすれば親しくなるのに、それほど時間はかからなかった。


 体術や身のこなしはユーティリスのほうが得意だが、魔術の扱いや芸術的なセンスはリーエンのほうが優れている。


 競いあい、ときには助けあう。週に三日は放課後もいっしょに過ごして、たがいの弱点を補うように勉強を教えあった。


 ほかにも生徒たちはいたけれど、ふたりで過ごすことのほうが多かった。ユーティリスが彼といるときは、なぜかレクサは姿を消した。


 母国語でないのに必死に文献を読もうとするリーエンにつきあい、ユーティリスも遅くまで図書室にこもった。


 一冊の本を三日かかってようやく読み終え、リーエンは満足そうにため息をつく。


「シャングリラで学んだ知識をはやく持って帰りたいよ。僕がエクグラシアに学ぶべきだっていっても耳を貸さなかった、サルジアの頭が固い連中だってきっとひっくり返る」


「きみの役に立てるのならうれしいけれど、きみが帰ってしまうのはさびしいな」


 立ちあがったユーティリスが本を片づけながら返事をすると、リーエンはちょっと目をみひらいた。


「ほんとにそう思ってくれる?」


「思うよ……僕もきみと友達になれてよかったと思っているから」


 照れくさくなりながらそう答えると、リーエンは「ありがとう」と小さな声でつぶやいた。





「レクサ、どうだった?」


 ユーティリスと別れて寮の自室にもどったリーエンはさっそく、別行動をしていた従者に声をかける。


 だがレクサの報告は彼が期待していたものではなかった。


「錬金術師団長グレン・ディアレスには面会を断られました。彼の息子はレオポルド・アルバーンといい、筆頭公爵家の人間です。昨年までは魔術学園に通っていましたが、いまは卒業し王都魔術師団に所属、近々最年少で師団長に就任します」


 リーエンは眉をよせて、考えこむように唇をかみしめる。


「グレンがムリなら彼の息子でもいいと思ったが、エクグラシアの筆頭公爵家で塔の魔術師団か……僕には近づくチャンスがないな。銀の錬金術師か魔術師……せめてどちらかと話ができればいいのに」


「来年になればアルバーン公爵家から、令嬢がひとり学園に入学してくるようです」


「それじゃ遅いかもしれない、ユーティリスの線から近づくしかないか。彼は何といってもこの国の第一王子だ」


 だがレクサは顔をくもらせてリーエンに忠告した。


「あまり彼に近づかれるのは……どうかご自分のお立場をお考えください」


 顔をあげたリーエンはまっすぐにレクサを見返した。


「わかっているよレクサ……だがお前の指図は受けない。僕は命がけでここにいるのだから。何としてもグレン・ディアレス、またはレオポルド・アルバーンと話がしたい」





 王城の奥宮にもどったユーティリスは、補佐官のテルジオと打ち合わせをしていて、彼に相談を持ちかけた。


「〝王族の赤〟となる契約の儀式に、リーエン皇太子を招くのですか?」


「うん。彼ならきっと興味を持つと思うんだ。見せてあげることは可能だろうか?」


 エクグラシアを守護する竜王と、統治者であるエクグラシア王族との契約は精霊契約に近い。


 竜王の魔力にふれた者は髪と瞳の色が赤く染まる。それは生まれつきの色がどのようなものであっても変わらなかった。


 テルジオは儀式の詳細が書かれた書類をめくり、目を通してから返事する。


「そうですねぇ、非公開の儀式ではありますが、特に問題があるとも思えません。師団長会議で許可をとればだいじょうぶでしょう」


「そうか、よかった……レクサのぶんもいるかな?」


「あ、そうですね。そちらも伺いをだしておきます」


「たのむ」


(リーエンは僕の赤く染まった髪と瞳を見たら、どんな反応をするだろう。許可がでたら彼への招待状を用意しよう)


 このときユーティリスは、無邪気にそう思った。





「これ……」


 学園にやってきたリーエンはユーティリスから、きれいに箔押しされた王家の紋章入りの封筒を受けとり、慎重な手つきで封を開けて中の文面に目を通すと、黒曜石のような目をみひらいた。


「うん、できたらきみにも参列してもらえないかと思って。だいじな儀式なんだ」


「竜王との契約の儀式……僕が参加してもいいの、レクサもいっしょに?」


 顔をあげたリーエンに、ユーティリスはうなずいた。


「ちゃんと師団長会議で、国王と師団長たちからの許可もとってある。きっときみも興味があるんじゃないかって」


 リーエンは真剣な表情でもういちど手にした招待状に目を落とす。彼の唇がかすかにふるえていた。


「もちろんだ。こんなの見るチャンスがあるなんて……この儀式には師団長たちも参加するの?」


「うん。王族たちに三人の師団長が参加するよ。竜騎士団からはデニス・エンブレム、錬金術師団からはグレン・ディアレス、そして魔術師団からはローラ・ラーラとレオポルド・アルバーン」


 それを聞いたリーエンは目をぎゅっとつぶり、招待状を自分の胸に押しあてると大きく息を吐いて天を仰いだ。


「ああ、何てことだろう。そうしたら僕にも彼らと話すチャンスがあるかな。少しでいいんだ、言葉を交わしてもだいじょうぶだろうか」


「え……だいじょうぶだと思うけど、テルジオに確認しておくよ」


「ありがとう、ありがとう……ユーティリス、本当に感謝するよ!」


 まるで泣きだしそうな表情で感謝するリーエンにユーティリスがとまどっていると、そのようすを離れたところで見ていたレクサが難しい顔でぎゅっと眉を寄せた。

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