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2.皇国からの留学生

「精霊の血をひくといわれるサルジアの民には美男美女が多い」と聞いたことがある。


 そういわれているとおり、〝彼〟の第一印象は「きれいな子だな」というものだった。


 背はユーティリスよりもすこし高く、キリリとした目元は涼しげで、瞳も髪とおなじくまるで黒曜石のようだ。


 サラサラとした黒髪は艶があり、前髪は眉にかかる程度までのばしていて、頭の後ろは短く刈ってあった。


 ユーティリスは父に「お前が女の子だったらリメラそっくりの美少女だったのに」と嘆かれるほどの、優しげで繊細な顔立ちをしているから、相手のキリッとした顔立ちがうらやましく思えた。


 まだ体の線も細いが、こちらに伸ばした手の指も節くれだったところなどまるでなく、長くて優美な印象を与える。


 握手をすれば体はおなじように小さくとも、剣ダコもある自分の手とはまるでちがっていた。


「僕はリーエン、サルジアからきた留学生だ。従者のレクサともどもお世話になる。よろしく頼む」


 いっしょにいるしっかりした体格でやはり黒髪の少年はレクサといって、年の頃は十四、五か……リーエンよりも年上のようだが、同じ初等科に入るらしい。


「レクサと申します。私はいないものと思っていただいて結構ですので……」


 感情の読めない冷めた目つきで、ユーティリスに観察するような視線をよこしたあと、おざなりに頭をさげた。


「レクサってば、きみも授業に参加して課題とかもいっしょに取り組むんだよ。従者だからといって、壁際で控えているとかなしだからね」


 リーエンが首をかしげて苦笑すると、レクサはため息をついてうなずく。


「承知しております」


 紺色のローブを着ていても、レクサにはどこか武人のような雰囲気がある。顔に思いっきり『不本意』と書いてあるような気がした。


 ユーティリスは気をとりなおして、ふたりに当たり障りのない笑顔を見せた。


「エクグラシアへようこそリーエン、そしてレクサ。同じ学年だし、卒業までいっしょなんだ。協力しあえたらうれしい……どうぞよろしく」


 最初に交わしたあいさつはそれだけだった。見守っていたダルビス学園長が、芝居がかった仕草で大きく腕を広げる。


「すばらしい、ここシャングリラ魔術学園でエクグラシアの若獅子と、未来のサルジア皇帝がともに学ぶとは。両国の将来にとってこれほど喜ばしいことはない。何かあればいつでも相談に乗ろう、この学園長室にも気楽にきなさい」


「ありがとうございます、ダルビス学園長」


 学園長の言葉にリーエンはにっこりし、レクサの目にはバカにしたような冷めた光が宿った。もっとも彼は無言だったから、一瞬そう見えただけかもしれないが。





 入学式では本来なら新入生あいさつはユーティリスひとりが行うはずが、その年はふたりが壇上にならんだ。


 講堂でダルビス学園長がまずユーティリスを、つぎにサルジア皇太子リーエンを紹介すると生徒たちだけでなく、参加していた父兄の間にもざわめきが走る。


「あれが……」


「まさしく〝精霊の化身〟ではないか」


 すらりとした体にキリッとした切れ長の瞳、つややかな黒髪は魔導ランプの明かりを受けて輪のような光を放つ。


 学園長室で話をしたときは、顔のきれいな人なつこい少年といった風情だったのに、壇上に立ったとたんにリーエンの雰囲気は一変した。


 壇上からひとりひとりの顔を見るように視線を動かし、しっかりとしたよく通る声であいさつをする。


「ここではただのリーエンと思って接してほしい。学園ではともに助け合っていきたい、よろしく頼む」


 その場にいるすべての者の注目を集め、彼はにっこりとほほえんだ。横に並んだユーティリスは、自分の存在が霞むのを感じた。


(ここに父上や母上がいなくてよかったな……)


 まず思ったのはそれだった。


 父のアーネストが見たら後でユーティリスの気に障る無神経なひとことを言いそうだし、母のリメラが見たら何かしら心配するだろう。


 心配されるのはうれしいけれど、度が過ぎればうっとうしい。


 こんなときは何にも考えてなさそうな顔で会場を見回している、テルジオの存在がありがたかった。


 彼が気にするのは一日の予定が滞りなく進むかどうかで、必要以上にユーティリスの気持ちに寄り添うこともない。


(僕が竜王との契約を済ませたら、彼の隣に立つのにふさわしいといえるだろうか)


 ふとそんな思いが頭をもたげる。


(どう見ても僕はちっぽけな子どもで、彼のほうが王者の風格がある)


 エクグラシア以上の大国サルジア。卑屈になったわけではないが、リーエンは彼が知る同い年のどんな子どもたちともちがっていた。





「いやぁ、カッコよかったですねぇ、リーエン皇太子!」


 入学式を終えて王城に戻ってくると、テルジオは手放しでリーエンをほめた。


「私、学園には殿下目当ての子女がけっこういるだろうと思ってましたが、あれなら皇太子が帰国するときは、『いっしょにサルジアへいく』とか言いだす者もいそうですよ!」


「テルジオ……さりげに僕をディスるのはやめてくれないか。まぁ同感だけど」


 ユーリがため息をついて紺色のローブを脱ぐと、テルジオは意外そうに目を見開いた。


「あれ、めずらしく素直ですねぇ。だいじょうぶ、殿下の成長はこれからですよ!」


「僕はこれでもがんばってるんだよ!」


 ローブを受けとってさっと浄化の魔法をかけたテルジオは、ユーティリスの抗議も気にせず受け流した。


「いいじゃないですか、殿下は子どもっぽくても。むしろあの子すっかり大人の顔してましたよ、かわいそうに。まだ十ニで何背負わされてるんだか」


「子どもっぽって……え?」


 文句を言おうとしたユーティリスが顔をあげて聞き返せば、テルジオはお茶の用意を始めながら言葉を続ける。


「皇国ならではでしょうがあのレクサという従者、『いつでも主のために命を捨てる』って顔してたじゃないですか。そんな人間がそばに張りついてるのって、当人にとっては重荷でしかないですよ」


「重荷でしかない……」


「リーエンて子はだいぶ従者にも気を使ってましたが、レクサってほうが態度をあらためない限り、あのふたりは平行線のままでしょうねぇ」


 何も考えてないようすでふんふんとうなずきながら、流れるような手つきでお茶を淹れる自分の補佐官に、ユーティリスは素直に感心した。


「テルジオ、お前ときどきすごいな」


「えっ、やだなぁ殿下。そんな今さらなこと」


 そしてやっぱりちょっとムカついた。

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