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14.グレンとの契約

『魔術師の杖短編集①』本日発売!

マッグガーデン様より『魔術師の杖』コミカライズ決定!

皆様の応援に本当に感謝です!!!

「リーエン、なぜだ、リーエン!」


 半狂乱になって泣き叫ぶユーティリスを、どこからともなく現れたテルジオが抱きとめた。竜騎士や魔術師、白いローブの錬金術師までやってきて大騒ぎになった。


 意識はしっかりして目は開いていても、脱力した王子は動けなかった。傀儡の毒が体に回ったのだ。


 彼を灰色の瞳が心配そうに見つめる……白い錬金術師のローブを着た女性が何か指示して、テルジオが動いた。


 ヌーメリアという名の錬金術師が、精神を破壊する傀儡の毒を特定して、解毒の処置を済ませても、それからしばらくユーティリスは昏睡状態が続いた。





「毒の影響が抜けるまでに時間がかかります。皇太子が何か手を加えたかもしれません。傀儡の毒はまず四肢の動きを封じ、その際に絶望を与えることで精神を破壊します。〝呪いの赤〟でなかったのは不幸中の幸いでした」


 奥宮のベッドに横たわるユーティリスのそばで、グレン・ディアレスの低い声が響いた。


「サルジアの傀儡毒は肉体に損傷を与えず、心だけを刈りとるよう設計されている。〝竜の血〟に守られたな」


「……リーエンが力づけてくれたんだ。『きみは生きて』……そう言われた」


 目を覚ましたユーティリスのつぶやきに、ヌーメリアが灰色の瞳で彼を見た。


「ユーティリス殿下、気づかれたのですか」


 無機質な仮面をかぶった男は、すばやくユーティリスの瞳孔を観察して立ちあがった。


「まだ油断するな。精神の傷は目には見えぬ。後遺症がある可能性もある。慎重に観察しろ」


「はい……」


 ヌーメリアに命じて、部屋をでていった錬金術師のうしろ姿を、ユーティリスは黙って見送った。





 目覚めたといっても気力が湧くわけもなく、テルジオからの報告は寝たままで受けた。


「魔石はサルジア皇国に送らねばなりません。マグナゼという男はサルジアに戻り、保身を図ったようです。返さねば我々にあらぬ疑いがかけられます。死体がありませんから、毒の詳細も調べられませんでした」


 納得いかない想いと認めたくない想いが、まだ自分の中で行き場を探してかけめぐっていた。


「あの国がリーエンを殺したんだ。あの子を追いつめて……ちがう、あの子は僕の身代わりになったんだ!」


「殿下!」


 ありったけの想いを吐きだしても、彼女はもう戻らない。ここで叫べば叫ぶほどまわりが困るだけだ。ユーティリスはギリ……と歯を食いしばると、ぎゅっとシーツを握りしめて静かに言った。


「リーエンの魔石をここに。少しだけお別れをさせてくれ」


「……かしこまりました」


 テルジオがトレイに載せて持ってきた、艶やかな光を放つ黒い魔石に、ユーティリスはそっとふれた。


 目の前で肉体が(ほど)けていくところを見て、手の内に転がってきた魔石を受けとめた。


 持ち主の強い意志をそのまま映したような、美しくて重い石に語りかける。


「リーエン……きみは全力で抗ったんだな。でも僕にひと言ぐらい相談してくれたって、よかったじゃないか」


 もしもユーティリスが同い年の少年ではなくて、グレン・ディアレスやレオポルド・アルバーンだったなら、彼女は自分の境遇や苦しい想いを、素直に打ち明けてくれたろうか。珍しくテルジオは優しく声をかけてきた。


「サルジア皇国でも皇太子の帰りを待ち望んでいる者がいます。彼らにも弔いの機会を与えましょう」


 ことりとふたたび魔石をトレイに載せ、ユーティリスはそれに向かって話しかけた。


「きみはエクグラシアに逃げてきたんじゃない……今ならわかる。きみは石になってでも、愛するサルジアに帰ろうとした。だからこの国に〝消失の魔法陣〟を覚えにきた。それしか帰る方法がなかったから……」


 食堂の窓から遠い空を見つめる、リーエンの涼やかな横顔が目に浮かぶ。大人になることを望めなかった少女は、それでも故国を深く愛していたのだろう。


『いつかきみにもサルジアにきてほしいな……とても大きくて美しい国だよ』


「ああ、かならずサルジアに行くよ。リーエン」


 運びだされる黒い魔石は、濡れたような艶を静かに放っていた。ただの石でしかない……そうわかっていても、手にあった重さがなくなった瞬間、ユーティリスの心はずくずくと痛んだ。


 ――あの時、きみを渡さなければよかった。





 リーエンの魔石を手放したときのことを思いだし、ユーティリスは唇をかみしめた。


 あれから二年たち十四歳の彼は、魔導学園の三年生になっていた。奥宮をそっと抜けだして研究棟までくると、入り口にエヴェリグレテリエがあらわれた。


 白い髪に赤い瞳の美しい姿をしたオートマタで、背はユーティリスより低い。レオポルド・アルバーンの少年時代を模しているらしいが、魔術師団長となった彼にその面影はない。


「僕はユーティリス・エクグラシア。師団長に取り次いでもらいたい」


「かしこまりました」


 政務をとりしきる国王とちがい、それぞれの組織で仕事をする師団長たちは、王城で暮らすユーティリスでも見かけることは少ない。白い仮面の錬金術師はとくに人嫌いで、めったに声すら聴けない。


「錬金術師団長グレン・ディアレス、お願いがあってきました」


 グレンは工房にいた。間近で見れば猫背でも長身の体からは圧を感じる。


 ざわりと総毛立つような感覚に逃げだしたくなりながら、勇気をふるって話しかけても、男は実験の手を止めず背中を向けて声だけで問う。


「何の用だ」


「この魔道具に見覚えがあるはずです。僕はこれを使いたい」


 ユーティリスが取りだした鈍色のチョーカーに、グレンの雰囲気が一変した。こちらをふり向いた無機質な仮面から、ミストグレーの射抜くような鋭い視線が放たれる。


「どこでそれを……皇太子が遺したのか。そのチョーカーはろくなモノではない。通常の成長は望めず増大する魔力に小さな体で耐え、契約が完了したら即〝大人〟だ。急激な変化がもたらす激痛もある」


「力がほしいんです。リーエンだって、レオポルド・アルバーンだってこれに耐えた。そうでしょう?」


「どのような苦痛か知らぬから、そんなことが言えるのだ。きっと後悔するぞ」


 食い下がるユーティリスにそう答えつつも、グレンはチョーカーから視線を外さなかった。


「僕には竜王の加護もある。それにじゅうぶんな力があれば、僕だってリーエンを助けられたかもしれない。あなただってリーエンを助けようと思えば、助けられたはずなのに」


「……仮定の話はするな。どいつもこいつも『力がほしい』とかんたんに言いおる。その結果を全部、自分で引き受ける覚悟があるのか」


「もちろん覚悟はできています。どうか僕にこれを使わせてください!」


 引きさがる気はなかった。ユーティリスは燃えるような赤い瞳で、錬金術師をまっすぐに見つめる。


「ユーティリス・エクグラシア。そのチョーカーの持ち主に免じて、お前の願いをかなえてやろう」


 仮面の奥で錬金術師は盛大なため息をつくと、チョーカーの要石に刻まれた魔法陣を発動させた。

バッドエンドなので中々書けず、諸事情により更新に間が空いたことをお詫び致します。

『短編集①』にこの話も『黒の皇太子』として加筆収載しています。

キリッとしたリーエンと、ちびっ子ユーリをよろづ先生が可愛く描いて下さってます。

挿絵(By みてみん)

コミカライズ情報は時期が来たらお知らせします!

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↓この作品が収録されています。 【魔術師の杖短編集①錬金術師グレンの育てし者】 短編集①公式サイト
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