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1.シャングリラ魔術学園への入学

『魔術師の杖短編集①』に収載。本編の6年前のエピソードです。

学園に入学したばかりのユーティリスと、隣国サルジア皇太子リーエンの話です。

過去話のためバッドエンドです。

 大陸の西にある魔導大国エクグラシアでは今年、第一王子ユーティリス・エクグラシアがシャングリラ魔術学園に入学した。


 榛色の髪に琥珀の瞳……優しげな顔だちはリメラ王妃によく似ていて、繊細な印象をあたえる十二歳の少年だ。


 ……というのは彼の外面しか知らない人間の見解だ。


 ちなみに時系列でいうと、三人組はとっくに学園を卒業してそれぞれの道に進み、一年の見習い期間を終えて成人したころにあたる。


「ユーティリス殿下、おはようございますっ!」


 三人組の一年先輩にあたるテルジオ・アルチニが元気いっぱいに入室し、一応起きてはいたものの、ユーティリスはうるさそうに顔をしかめた。


「テルジオ……お前はどうしてそう、朝からハイテンションなんだ」


 一年の試用期間をへて、成人後正式に王城で文官として採用されたテルジオは、この一年でメキメキ頭角をあらわした。


 将来は王太子となる第一王子の補佐官として選ばれ、彼は朝から張りきっていた。


 テルジオはビシッとととのえた自分の身だしなみを、さりげに部屋の鏡でチェックしてから、キリッとさわやかに返事する。


「私、これが仕事ですから。殿下こそ何で張りきらないんですか、きょうは学園初日でしょう」


「ああ、まあね……」


 ふわぁ、とあくびをするユーティリスにテルジオが眉をあげた。このガキンチョまたやりやがったな……と顔には書いたものの口にはださない。


「さては昨晩も遅くまで魔道具をいじってましたね?」


「だいじょうぶ、ちゃんとやるよ。どうせ初日は顔合わせと学園内の見学だけだろう?」


 王妃似の優しげなほほえみは影も形もなく、ぶすっと投げやりな返事をしてユーティリスは髪をかきあげた。


「その顔合わせが重要なんですよ、今回はサルジアからリーエン皇太子を、留学生として迎えているんですから」


「ああ、それね」


 正直、めんどうだな……と思った。学園の中でぐらい、王子だってことを忘れてのんびり過ごしたい。


 王子の仮面を貼りつけたまま、国賓級の相手に気を使わないといけないなんて。


「ついてないなあ……」


「何いってんですか、両国の関係を深めるチャンスですよ。サルジアのリーエン皇太子とは、いい関係を築いてください」


「……向こうもそう言われているだろうな」


「何かいいました?」


「いいや、べつに」


 用意された真新しい紺色のローブ、エクグラシアの魔力持ちが集うシャングリラ魔術学園、正直ときめかないわけじゃない。


 新しい魔術理論に術式、魔獣学や薬草学、魔道具大全にのっている歴史的な魔道具がおさめられた資料館もある。


 けれど魔力持ちが多く働く王城で育ったユーティリスは、〝第一王子〟という肩書きがひとびとにどんな影響をもたらすかもよく知っていた。


(王子って立場を意識しないといけないとか、いろいろとめんどくさいよな)


 背伸びして腕をぐるぐる回すと、ユーティリスはもういちどあくびをしてから、紺色のローブに手を伸ばした。


 このとき彼は将来錬金術師になるつもりはなく、紺色のつぎは白いローブを着ることになるとは思ってもいなかった。





 シャングリラ魔術学園は王都八番街にある、〝魔力持ち〟のために作られた伝統ある学校だ。


 魔力は十二~十六歳の成長期に増大する。多すぎる魔力は周囲に影響を及ぼし、本人も制御に苦しむ。学園ではまずその制御を覚え、使いかたを学びながら将来の進路を決めていく。


 全国から〝魔力持ち〟の子が集まるから、学生寮も完備している。


(将来の進路といっても、僕には『エクグラシア国王』一択しかない……)


 ぜいたくな悩みといってしまえばそれまでだけど、彼にとってはそれが一番の不満だった。できたら貴重な学園時代は羽を伸ばしたい。


 サルジアから来たというリーエン皇太子も、同じような考えかもしれない。ふと彼はそう思った。


 エクグラシアよりも広大な領土を持ち、〝大地の精霊〟から加護を受けたサルジア皇国は、いまでも大陸の覇者というべき大国だ。


 ここ数十年でメキメキと力を伸ばし、魔導大国と呼ばれるようになったとはいえ、辺境のエクグラシアで学ぶ必要なんかないだろう。


(どんな子だろう)


 そしてサルジア皇太子リーエンは、ユーティリスが想像したどんなタイプでもなかった。





 学園の門をくぐれば新入生らしい背格好の子がチラホラいた。両親ときている子や地方出身なのか、学生寮から上級生らしい生徒に連れられて歩いてくる子もいる。


 ユーティリスに同行しているのは補佐官ただひとりだ。彼の両親はこういった場にそろって現れることはない。


 だれかに話しかけたかったが、テルジオに止められた。


「殿下、まずはダルビス学園長にごあいさつを。リーエン皇太子ともそこでひき合わされることになっています」


「……わかった」


 まだ生地が重たい着なれぬ紺色のローブ、すそさばきを気にしながらユーティリスは階段をのぼり、校舎に入ると一階にある学園長室にむかった。


 重厚な扉の前にたち、息を吸ってからノックすれば、扉を開けた学園長は彼の顔をみてにっこりと笑った。


「おお、ユーティリス・エクグラシア……入りなさい、きみにぜひとも紹介したい人物がいる」


「失礼します」


 すこし緊張して部屋に入れば、学園長室の大きな机の前に紺色のローブを着た、エクグラシアではめずらしい黒髪を持つ人物がふたり立っていた。そのうちのひとりが、ユーティリスを見てパッと顔を輝かせる。


「きみがユーティリス・エクグラシア?」


 しっかりとしたよく響く声がユーティリスの名を呼んだ。

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