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クリエイティブタワー

作者: 柿の種

ゲームに大事なものとは?

とあるゲー厶制作会社の話です。

半分夢の中で思い付いたのでふわふわしてます。

ここはとある中小企業「株式会社スリランカー」。

携帯向けアプリゲーム等を制作している会社だ。

その会社の1室、第5制作係で係長の僕は、部下である3人の社員をなんとなく眺めていた。


イケメンでチャラい系の団野君。


体育会系でサッパリした性格の菅原さん。


おっとりしてて見てるだけで癒やされる武藤さん。


何て言うか…今時の若者だなぁって思う。

『ちょっとした段差でも落ちたらゲームオーバーになるよ?』という謎の社訓に従い、無難な発想しか出来ないと言うか、安心安全と言うか…冒険心が感じられないのだ。

もちろん仕事はちゃんとこなしてくれている。

社内では場末と呼ばれる第5制作係で、僕みたいな上司の下で腐らずに働いてくれているだけでたいしたものだと思う。

思うんだけど…もう少し冒険した発想があっても良いとも思うのだ。

昨今のアプリゲーム業界は多数のメーカーが参入していて、多数が故の飽和状態と言うかマンネリ化が見られる気がする。

だが、無闇に新しいことをやれば良いと言うわけでもなく…アプリ発表直後は人気が出るものの、プレイヤーの気分次第ですぐに廃れてしまう。

結局、似たようなゲームが巷に溢れ、生き残るのはわずかになってしまうのだ。

新しい発想なんて、そうそう出るものじゃない。

わかってるのだけど…僕は一休さんみたいにポクポクと頭の中で考え…そして、チーン!と閃いた。

ここはやはりゲーム屋らしく、ゲームをすることで部下に冒険心を起こさせようと思いたったのだ。

それにはまず…


「みんな、ちょっと良いかな?」


ハイ、と口々に言って3人が僕を見る。


「急で悪いんだけど今夜、会議を兼ねてカニ鍋パーティやるから僕の家に集まってほしいんだけど、どうかな?」


本来ならカニ鍋と言えど上司の家に来るのは嫌だろうから、会議を付けてみた。

すると、3人は渋々ながら受けてくれた。

とりあえず受けてくれて良かった。

今日は定時だから、僕は急いでカニ鍋と本題のゲームに向けての準備を行いに自宅に帰った。


そして夜。

3人が我が家へとやってきた。

ちなみに僕は独身貴族で一人暮らしだ。

家は持ち家で、一人暮らしだけどわりと広い方だと思う。

さて、ここからは誰が話したかわかりやすいように昔のゲームブック形式を取りたいと思う。


団野「って、誰に向かって話してるんですか?」


僕「まぁまぁ、気にしないで。じゃあ、カニ鍋の前に会議をして良いかな?」


3人は揃って頷く。


僕「今夜の会議は特殊だから…みんなはこんなご時世だから、距離をある程度とって横1列になってね」


3人は僕の意図が分からず、戸惑いの表情を浮かべながらも僕の言うことに従う。


僕「そうしたら目を閉じてね。部屋の電気も消すけどね」


団野「え?闇鍋ですか?今時?」


僕「違うよ、大事な会議だよ」


会議と言われたら団野君も言うことを聞かざる負えない。

女性2人も渋々と指示に従った。


僕「さて、会議を始めようか…今夜の会議は題して『クリエイティブタワー』です!」


ちなみにクリエイティブタワーはタワーそのものを表していて、塔の名前は『スペッッッランカー』と言う。

例によって多少の段差でも落ちたらゲームオーバー仕様だが、完全に趣味なだけの裏設定なので伏せておく。


団野「いや、です!って言われても」


僕「まぁ、聞きなさい。説明の前にキャラ登録をするよ」


菅原「キャラ登録…?」


僕「そう、キャラ登録だ。まずは菅原さん」


菅原「は、はい…」


僕「君のキャラ名を決めよう」


菅原「へ?いや、別になんでも…菅原だからスガとか?」


僕「…」


こう言うところだ。

こんなところでも無難に済ませようとする。

僕はこの状況を想定していたので、


僕「それじゃ、ダメだね。『スガシカミ』か『スガシッペ』のどっちかから選んで」


菅原「え、だったら『スガシカミ』で」


さすがに放屁扱いは嫌なのか即答する菅原さん。

僕は暗闇の中、ちょっと笑いそうになりながら続ける。


僕「じゃあ、次は簡単な質問するね。君の好きな言葉と…好きな怪我を教えて」


スガシカミ「好きな怪我って…ある訳ないじゃないですか!」


僕「まぁ、そりゃそうなんだけど。じゃあ、もし怪我してもこれなら許せるみたいなやつで」


暗闇の中、スガシカミの悩む気配が感じられる。


僕「大丈夫、デスゲームじゃないんだから。気楽に考えて」


スガシカミ「…じゃあ、軽い捻挫?で。ちょっと捻ったなーみたいな。あと、好きな言葉は『悪・即・斬』ですかね」


僕「わかった、これで登録OK。好きな言葉、菅原さんらしいね。じゃあ、次は武藤さん」


武藤「は、はい」


僕「キャラ名を決めようか。そうだなぁ、君は『シュガーレス』が良いかな」


武藤「私は選択肢が無いんですね…じゃあ、それで」


武藤→無糖→シュガーレス…しょうもないダジャレだが、なんか受けてくれたから良しとしよう。

いや、待てよ…彼女には回復系をやってもらいたいから、やっぱり名前は…


僕「ごめん、やっぱり『ホイミ』で。シュガーレスは長いし。じゃあ次は好きな怪我を」


ホイミ「結局選べないんですね。それにその質問って…怪我は全部嫌ですけど、タンスに小指ぶつける…ぐらいでも大丈夫ですか?」


僕「大丈夫だよ、そんなに意味は無いから」


ホイミ「あと、好きな言葉は?」


僕「君はもう決めてあるから大丈夫」


僕はそう言って暗闇の中でスマホにメモを打ち込む。

このメモはゲーム内でのキャラ設定をするもので、今の状況では…


スガシカミ 戦士ポジション 好戦的な性格 関節弱い


ホイミ 僧侶ポジション 足の小指


とメモり、甘くない性格と追記する。無糖だけに。

この2つの質問は、キャラの長所と弱点を決めるものなのだ。


僕「じゃあ、最後は団野君だね」


団野「はい。俺はダンとかでいいですけど…」


僕「いや、イケメンの君にはもっと良いやつを…『断末魔』と『団地妻』のどちらかで」


団野「いやいや、俺だけおかしいでしょ!」


はて?何がおかしいのか…決してイケメンが憎いとかで考えた名前ではないのだけど。…たぶん。


僕「で、どっち?」


団野「くっ…『断末魔』でお願い…します」


不承不承決める団野君。まぁ、そうなるわな。


僕「じゃあ、次は好きな言葉と好きな怪我だね」


断末魔「好きな言葉は『一撃必殺』、怪我は『突き指』でお願いします」


もう諦めたのか団野君は澱みなく答える。

みんなわりと平然としてるなぁ、このへんがゲーム脳ってやつなんだろうか。

まぁ、こちらとしては理解が早くて助かるけど。


僕「準備は整ったね…じゃあ、始めるか。あ、ちなみに僕はゲームマスター(GM)なんでよろしく」


僕はそう言って、スマホにあらかじめメモで入れておいた基本ストーリーを開く。

ちなみに僕の名字は増田で、ゲーム増田…ゲームマスターなのはナイショだ。


GM「進めるね。まずは状況からだ」


暗闇の中で頷く気配を感じる。


GM「君達はトレジャーハンターだ。宝物を求めて、このクリエイティブタワーに侵入した」


僕はここで一呼吸おいて…


GM「さて、どうする?」


え?と一斉に聞こえる。

それはそうだろう。

いきなりどうすると言われても…しかし、ここからが大事なのだ。

この先の発想と閃きが重要な問題になる。


断末魔「え、えっと…タワーってことは塔ですよね?」


GM「そうだね、とても高い塔だ。宝物はもちろん最上階にある」


断末魔「面倒なんで爆弾で吹き飛ばして後から回収なんてのは…?」


まだ入り込めないのか…僕は断末魔に静かに告げる。


GM「もう君達は塔の中だ。外には出られない。爆弾なんか使ったら君達ごと吹き飛ばされるね」


断末魔「…なるほど」


まさに断末魔の叫びが起こるだろうな。

まぁ、それはともかく。


スガシカミ「でも塔って…係長の家、平屋なのに」


なんて軽くディスってくるスガシカミは無視して、僕は話を進める。


GM「さて、迷ってるみたいだから勝手に進めるね。君達は塔の中、1階にいる。さっそく敵が出てきたよ!」


僕は煽る様に声を上げる。…さすがにちょっと恥ずかしいな。


GM「敵は巨大な木とタマゴ2個の化け物『タマキー』だ!どうする?」


断末魔「タ…タマキ○?」


GM「違うっ、タマキー!ド○クエで言う序盤の敵、ド○キーみたいな敵だよ!」


ああ…と暗闇からなんか安心した様な気配がする。

ちなみに部屋を暗くしたのと目をつぶらせたのは、集中させて想像力を上げるためだ。


スガシカミ「わたし、攻撃します!いきますよ!」


GM「お、いいねぇ!で、武器は何?」


スガシカミ「え、え?えっと…木だから斧で!いきますよ!」


意外とノッてくるスガシカミ。

普段知れない面が見れて面白いかも。


GM「斧の名前は何?!5秒で答えて!」


スガシカミ「え?ごっ…あ、き、木こりの斧で!」


…あ〜あ、想像なんだからもっと強そうなの言えばいいのに。

敵が木だからってベタな発想しちゃって。

まぁ、これからの巻き返しに期待だな。

とりあえずまだ1階だし、ここは流すか…。


GM「お見事、木の敵は斧で真っ二つだ。さて、タマゴは?」


断末魔「俺がやります!」


やっとノッてきた断末魔が声を上げる。


断末魔「2連弓でタマゴを同時に貫きます!」


GM「おー、いいね!タマゴを同時に貫いて倒したよ!」


断末魔「よっし!」


暗いからわからないが、ガッツポーズでもしてるな。

彼もまたけっこうなゲーム脳だなぁ。

なんて思っていたら…


「きゃああっ!」


暗闇から短い悲鳴が起きる。

あれ?意図しない展開が…今の声はスガシカミか?


スガシカミ「割れたタマゴから液体が飛んできて…身体が痺れる!」


おー、良い展開!勝手に設定作ってくるとはやるな!

僕が感心していると今度は、


断末魔「僧侶が必要だな!マヒ消しの呪文を頼む!」


断末魔が声を上げる。

いいね、いいね〜さて、僧侶の出番だ!


ホイミ「わ、わたしの出番ですね!」


今まで出遅れていたホイミがようやく言葉を発した。


ホイミ「GMさん、マヒ消しの呪文を唱えます!」


GM「わかった、呪文名は?何?5秒で答えて」


ちょっと意地悪な質問かなぁと思いつつ、これも大事なことと心を鬼にする。


ホイミ「な、名前…えっと、えっとマヒナオール!」


マヒナオールって…ベタな名前にちょっと笑いそうになる。

なんか面白くなってきたんで、もう少しふっかけてみよう。


GM「その呪文じゃ治らなかった!次の呪文を5秒で答えて!」


ホイミ「え?は?ダメなんてあるんですかっ?!えっと、えっと…マ、マヒナンテ!!」


マヒナンテ…これは秀逸だ!面白い!採用!

他の2人も暗闇の中で笑うのを我慢している気配がする。

普段おっとりしている彼女が慌ててるのもちょっと面白い…申し訳ないけど。


GM「OK、マヒは治ったよ。さて、言ってなかったけどこの塔は敵を倒したら次の階段が現れるシステムだ」


僕はマヒナンテの威力に負けそうになりつつも、進行を続ける。


GM「君達は無事に2階に辿り着くことが出来た。冒険はこれからだ!」


なんて無駄に煽ってみる。

そしてふと、手元のスマホを見て思い出したことがあった。


GM「あ、そう言えばさ。忘れてたんたけど、君達の斧と弓の必殺技は2階から自分にもダメージ来るから」


スガシカミ&断末魔「え?何でですか?」


GM「関節と指に弱点があるからねぇ」


僕の言葉に2人は少し考えこみ…あっ!と声を上げる。

そう、キャラ設定の時に決まった弱点だ。


断末魔「そうか、あれって…ん?そう言えば体力とかどうなってるんですか?」


GM「いや、特に決めてないよ。自由に決めたらいい」


これには僕なりの考えがあった。

思い通りになるかな…?


断末魔「だったらさ、最初から無限にしちゃえば余裕じゃん!」


スガシカミ「だよね、弱点気にしなくていいし!」


断末魔とスガシカミが言い出す。

だよね、最初から無敵なんて楽過ぎるよねー。

なんだけど…


ホイミ「…そうだけど、それって楽しいかな…?」


ホイミの呟きにえ?と、2人は声を揃える。

そうなのだ。ゲームで最初の街からスタートした時点で最強だったら…やる意味があるだろうか?

ゲームオーバーにならないとわかっているゲームは、果たして楽しいのだろうか?

そんなゲームをやったところで得られる物があるだろうか?

余程のドS以外は恐らく楽しくはないだろう。

剣だの魔法だの異世界だの。ゲームをやる人々はある意味現実離れした世界に憧れてプレイするのではないか。

しかし、楽過ぎてもやはり現実味が無くなり、すぐ飽きてしまうと思う。

現実離れしたいのに、非現実的過ぎるのは受け入れられない。難しいのだ、人間と言うものは。

難しくて面倒くさい生き物である。

ゲームを作る側は気の遠くなるような年月をかけて制作する。しかし、プレイヤーは触りだけプレイして面白くなければすぐアンインストールする。盛り上がりも何も、始まってすらいないようなところでやめとしまう。

そういう世界なのだ、ゲーム業界は。

…なんて、僕が妙な感傷に浸っていると…


断末魔「そうだな、やっぱり決めないと面白くないよな!」


スガシカミ「だよね、だったらさ…」


ホイミ「ねぇ、わたしの弱点はどうなるのかな?」


等と話し合う声が聞こえた。

良い展開だ…僕は密かに感動した。

彼らはこれから先、色々なことを話し合っていくだろう。

無難な考えじゃ、マンネリ化は避けられない。

暗闇の中なのに、やいのやいの話し合う彼らには期待しかないな。僕は今夜の会議に満足した。


僕「よし、今夜の会議はこれで終わりだ!」


3人「え?」


僕は暗闇の中立ち上がり、部屋の電気を点けた。

数時間ぶりに部屋が明るくなり、少しクラクラした。


団野「係長、終わりって…?」


僕「そのままの意味だよ。非常に良い会議だった」


狐に化かされたみたいに呆然とする3人。

僕は満足感に浸りながら言った。


僕「さぁ、鍋にしよう!」


えー?!だの、鍋は嬉しいけどだの、カニ鍋じゃなくて豚肉と白菜のミルフィーユ鍋じゃないか!だのの声を上げ、さっきのゲームの続きを話し合い始めた3人を見ながら僕は微笑みながら思った。

こんなに熱心になれる若者達がいるかぎり、ゲーム業界もまだまだ捨てたものじゃないな、と。


ちなみに…ホイミの弱点の足の小指は、タンスのモンスターを出して普通に小指をぶつける。ってしょうもない案だったのはナイショだ。

あと、甘くない性格ってのも忘れてたな…まぁ、いっか!

時には無駄な設定も必要ってことで!

























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