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『呪われた聖女』と言われている、私の結婚相手は【ゴブリン伯爵】です

作者: 青空あかな

「アイカル・カラベッタ。私はお前との婚約を破棄する。“呪われた聖女”と結婚なんて、まっぴらごめんだからな。あぁ、安心してくれ。私はもう、別の愛する女性と婚約しているから」


社交パーティーのさなか、いきなり婚約破棄を告げられた。

告げた主は、私の婚約者、ケイハーク・チャーライ様。

まさか本人の口から言われるなんて、思いもよらなかった。


「あの、ケイハーク様……それはいったい、どういう意味でございますか?」


私は頭が混乱した。


「だから、私はお前と婚約破棄すると言っているんだ。はぁ……言葉の意味も理解できないのか?こんなにバカな女と婚約していたなんて、私は恥ずかしくて仕方がないよ」


ケイハーク様は私の出したお茶など見向きもせず、隣の女性が渡したお茶を飲んでいる。

ニコニコ嬉しそうな私の妹、クヨジアだ。


「うまいっ!クヨジアはお茶を淹れるのも上手だね。彼女はこんなにも素晴らしいのに、お前ときたらなんだ。聖女の家系に生まれながら、動物の病気すら治せない。それどころか、ケガや病気を悪化させるだけではないか。この厄女め」


「お姉さまったら、まだケイハーク様に未練があるの?いい加減に諦めてくださいな。さすが、100年ぶりの“忌み子”は違うわね」


「そ、それは……」


カラベッタ家は、代々『浄化』のスキルを持つ血筋だった。

優秀な聖女、聖人の家系として知られている。

しかしたまに、『不浄』のスキルを持つ子どもが生まれた。

病気を治すどころか、悪くしてしまうのだ。

そういう子は忌み子と呼ばれ、嫌われていた。

この100年ほどは、生まれてこなかったのだが……。


あろうことか、私が100年ぶりの“忌み子”だったのだ。


「アイカル、また二人の邪魔をしているの?」


「ケイハーク様も迷惑しているじゃないか」


ちょうど、父と母がやってきた。


「お父様!お母様!これはどういうことですか!どうしてクヨジアが……!」


「どうしてって、お前のスキルが『不浄』だからに決まってるでしょうよ」


生まれたとき行われる儀式で、私のスキルは『不浄』だと判明した。

その後、両親は大慌てで子作りに励んだらしい。

そうして生まれたのが、クヨジアだ。

しかも、超優秀な『浄化』のスキルを持って。


「まさかあの事件のことを、忘れたわけじゃないだろうな」


ある日、私は自分の体を傷つけて、治せないか試してみた。

どんどん傷が広がり、危うく腕を切り落とすほどだった。


「で、ですが、婚約破棄だなんて……」


カラベッタ家の長女ということで、私はケイハーク様と婚約してもらっている。

“忌み子”と言われても、認められようと必死に頑張ってきた。


「アイカル。全て、お前が悪いんだぞ!クヨジアはカラベッタ家と、チャーライ家を結んでくれたんだ!」


「危うく関係が悪くなりそうだったのを、クヨジアが守ってくれたのですよ!どうしてわからないんですか!」


(そんな……)


お父様とお母様は、名門貴族のチャーライ家と親戚になれればそれでいいのだ。


「それはそうと、アイカル。お前を国外追放することにしたからな」


「はい?」


「ケイハーク様からのご希望もあったのよ。だって、自分の元婚約者がウロウロしていたら不愉快じゃない。そうでしょ?」


私は開いた口が塞がらなかった。


「あぁ、そうそう。お前の次の婚約相手も、決めといたからな」


「いや、何が何だか……」


「王国から出た先の、“辺境の森”に住んでいるゴブリン伯爵だ」


(ゴブリン伯爵……)


どうやら、モンスターも人間と同じように、貴族とか庶民とかに分かれているようだった。

人間と触れ合うこと自体少ないので、よくわからないけど。

しかし伯爵だろうが何だろうが、相手は立派なモンスターだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!ゴブリンって、モンスターですよね?私はモンスターと、結婚させられるのですか?」


ゴブリンは、そのひどい見た目で有名だった。

たまに森の中で出会うけど、とにかく醜い。

尖った鼻、ギョロリと大きい目、ガサガサにかぶれた肌。

そして、背丈は人間と同じくらいはある。

それがより、不気味さを増していた。

いくら“忌み子”だからといって、この扱いはあんまりだ。


「だから、お義父様はそうおっしゃっているではないか。お前は本当に耳が悪いな。いや、頭が悪いのか」


「お姉さま、みじめですわよ」


いつの間にか、ケイハーク様がそばに来ていた。

もちろん、クヨジアを添えて。


「ゴブリンって、気持ち悪いことで評判じゃない。むしろ、お姉さまにピッタリな相手なんじゃない?」


「すでに先方は了承しているし、諸々の手続きは済ませておいたからな。馬車も用意してあるから、明日さっさと出て行ってくれ」


「何ですか、アイカル、その顔は。みっともないですよ。口をあんぐりと開けちゃって」


「お姉さま。そんなんじゃ、ゴブリンにも婚約破棄されちゃうわよ」


「さぁ、今すぐ帰ってくれ。早く僕たちの婚約を、皆さんに報告しないといけないからね」


「あっ……が……」


私はもう、何も言えなかった。






******

(これからどうなるんだろう……?)


ゴトゴト馬車に揺られながら、私はずっとふさぎ込んでいる。

外の景色を眺めていると、昔の記憶を思い出した。


(そういえば、スライムの病気は治せたことがあったな)


幼いころ屋敷の庭に、小さなスライムが迷い込んだ。

触ると体が熱かったので、何かの病気だと思った。

まだ『不浄』スキルがどんな物かわからなかった私は、スライムに力を使ってしまったのだ。

しかし、スライムの熱はみるみる下がり、元気に帰っていった。


(そのあとね。自分の体に、『不浄』の力を使っちゃったのは)


モンスターの病気がいくら治せようが、そんなものは何の意味もない。

人間の病気やケガが治せないと、存在価値などないのだ。


「アイカル様、着きましたよ」


御者に言われ、私はハッとした。

いつの間にか、目的地に着いていたらしい。


「ここが、ゴブリン屋敷……」


うっそうとした森の奥に、これまた不気味な館が見えた。


(あそこで一生暮らすのか……)


自分の行く末を思うと、とても暗い気持ちになる。


「それでは、私はこれで失礼します」


「あっ、ちょっと……」


御者は、さっさと帰ってしまった。

ポツンと立っていると、館からオンボロの馬車が来た。


(なになになに!)


執事服の男が、さっそうと降り立つ。


『アイカル様、大変お待たせいたしました。申し訳ございません、準備に手こずりまして。私は執事のラトーバと申します。お迎えにあがりました』


ゴブリンだ。

ゴブリンの執事だ。

片手を胸、もう片手を背中にあてる、お決まりのポーズをしている。


「は、はい……どうも……アイカル・カラベッタ……です」


びっくりして、私はたどたどしい挨拶をしてしまった。


『では、どうぞ、こちらの馬車に。みな、あなた様がいらっしゃるのを、それはそれは心待ちにしておりました』


私は馬車に乗った。

見た目はボロボロだけど、中のイスはとても柔らかい。

良い匂いがして、心地よかった。

だんだん、私の心は落ち着いてくる。

こっそり、ラトーバさんを見た。

ゴブリンの年はわからないけど、たぶん初老だ。

そして服の隙間から見える肌は、やっぱりかぶれていた。

そのせいか、どことなく汚らしく見える。


(本当に、ここはゴブリンの屋敷なんだわ)


すぐに、館へ着いた。

近くで見ると、とても大きい。

だけど、薄汚れていて、陰気な建物だった。


『アイカル様、どうぞ』


ラトーバさんが、優しく扉を開けてくれる。


『『『アイカル様!ようこそ、おいでくださいました!』』』


「うわっ!」


これ以上ないほど、大きな声で挨拶された。

それだけじゃない、屋敷の中には、ゴブリンがズラッと並んでいる。

右を見ると、メイドのゴブリン。

左を見ると、執事のゴブリン。

そして、みんな笑顔だった。

盛大な拍手をしてくれている。


「こ、こんにちは……」


今まで私は、こんな嬉しそうに出迎えられたことはなかった。

予想外の歓待ぶりに、思わず恐縮してしまう。


『アイカル様、お疲れでございましょう。まずはお食事をどうぞ。すでにご用意しております。荷物は私どもが、お運びします』


そのまま、ラトーバさんに食堂へ案内された。


『それでは、こちらで少々お待ちくださいませ。旦那様を呼んで参ります』


とんでもなく大きなテーブルだ。

もしかして、私の家より大きいんじゃないだろうか。

私の前と向こう側の席だけに、食器が用意されていた。

ゴブリン伯爵と……いよいよご対面だ。


(どんな人、いや、ゴブリンなんだろう?ゴブリン伯爵って言うくらいだから、怖いのかな)


私は覚悟を決めた。

容姿など、もはやどうでもいい。

最低限の衣食住の保証と、私に優しくしてくれれば、もうそれで良かった。


ドタドタドタ!


どこかの部屋で、誰かが走り回る音がする。


(どうしたんだろう?それに、一瞬ラトーバさんの声が、聞こえたような気がしたけど)


キィ、と扉が開いた。

私は緊張して、背筋を伸ばす。


(ここまで来たら、もうしょうがないわ!)


ゴブリン伯爵が、姿を現した。

その見た目は……お世辞にもハンサムとは言えなかった。

魔女みたいに尖った鼻、痛み切った白い髪、大きくて怖い目、身体はスラリとしているけど、それがまたうす気味悪かった。

そしてやはり肌は、かぶれにかぶれている。


『この屋敷の主の、シンシ・リゴンブだ』


ゴブリン伯爵は、伏し目がちに名乗った。


「アイカル・カラベッタ……です」


シーン……。


あっという間に、会話が途切れてしまった。

気まずい空気が流れる。


(ど、どうしよう。ゴブリンと何を話せばいいの?)


『ウウン!旦那様、ちょっと……』


ラトーバさんがシンシさんを、部屋の隅に連れていった。

二人は小声で話しているが、どうしても会話が聞こえてしまう。


『……旦那様!予習したとおりにしてください!自己紹介した後は、天気の話!その後はさりげなく、婚約の件をお話しするのです!アイカル様は、傷ついていらっしゃるのですよ!フォローして差し上げないと!』


『い、いや、しかし……あんな美しい女性と……僕なんかが……』


『ヒューマンのご令嬢を妻にするなど、リゴンブ家史上最大級に名誉なことですぞ!しっかりして頂かないと!そのようでは、亡くなられた先代に顔向けできません!』


『ラ、ラトーバが話してくれよ……』


『何をバカなことを、おっしゃってるんですか!』


ところどころ聞こえなかったけど、とりあえずは歓迎してくれているみたいだった。

シンシさんが席に戻る。


『し、食事にしよう』


その言葉を合図に、次々と料理が運ばれてきた。

どれも、ほかほかと湯気が立っている。

とそこで、私はあることに気が付いた。


(ん?ちょっと待って。ゴブリンって何食べるの?もしかして……モンスターの内臓とか、虫!?)


デン!とクローシュが被ったお皿が出てきた。

私は目を閉じて、必死に念じる。


(お願いだから、見たことある食べ物きてー!)


メイドゴブリンが、ゆっくりとクローシュを取る。

私は恐る恐る目を開けた。


(!)


それは…………美味しそうなお野菜のバーニャカウダだった。

他の料理も、全部食べたことある物だ。


(よ、よかった)


私はここに来て、一番安心したかもしれない。


『今日は……良い天気だな』


「え?て、天気?あ……そ、そうですね」


唐突に天気の話を振られ、私はそっけない返事をしてしまった。


シーン……。


しばらく、無言の食事が続く。

食事も終盤というとき、シンシさんが口を開いた。


『私からそなたに……頼みがある』


「は、はい、なんでしょう!」


(頼み……)


私は色んな悪い妄想をしてしまう。


『その……』


(他のモンスターと戦うとか!?)


『なんだ……』


(あり得ないほど膨大な家事、雑用!?)


『……』


(それとも、地獄のような労働!?)


『………………私のそばに………………ずっといてほしいのだ』


(……もしかしたらゴブリンって、それほど悪い人じゃないかもしれない)






******

ゴブリン屋敷に来てから、数週間経った。

今ではここでの暮らしにも、すっかり慣れている。

身の回りの世話も全てやってくれるし、お食事も美味しかった。


『アイカル、ふ、不自由はないか?』


「は、はい、とても快適でございます」


シンシさんは、相変わらず無愛想だ。

だけど、私を大切に想っていることは伝わる。

お食事中の会話でも楽しませようとしているし、屋敷だって私が過ごしやすいように整えてくれていた。

それでも、一つだけ気になることがある。


(なぜか、わざと私に近寄らないようにしてるみたい。もしかして、私にダメなところがあるのかしら?)


その日も夕食が終わり、いつものように部屋へ案内される。

ラトーバさんがさりげなく、体を搔いているのに気が付いた。


「あの、ラトーバさん」


『はい、いかがなさいましたでしょうか。アイカル様』


「体が痒いんですか?」


(お肌の病気なのかしらね)


ラトーバさんは、ハッとした。

そして、申し訳なさそうな顔で言ってきた。


『これは、大変失礼いたしました。お見苦しいところを、見せてしまいました。実は我々ゴブリンは、先祖代々皮膚病がありまして。と言っても、どうかご心配なさらないでください!他の種族にはうつりませんから!』


(それで、あんなに肌がかぶれているんだ)


そういえば屋敷のゴブリンたちは、みな体が痒そうにしている。


「治らないんですか?」


『それがどうにもならないのです。ありとあらゆる塗り薬、飲み薬、秘薬を試したのですが、さっぱり効果がありませんでした。私どもは、もう諦めております』


(ひょっとすると、私の『不浄』スキルが使えるかもしれないわ)


スライムの病気を治した記憶が蘇る。

もし仮に、モンスターに効くものであれば、ゴブリンたちにも効果があるはずだ。


『それでは、私は失礼いたします。おやすみなさいませ、アイカル様』


「あ!ちょっと待って!」


出て行こうとするラトーバさんを引きとめた。


『どうされましたか?』


「私、スライムの病気を治せたことがあるんです。もしかすると、ラトーバさんの病気も治せるかもしれません」


ラトーバさんは、ポカンとしている。


『いや、しかし……先ほど申し上げたように、どれほどの薬を試しても……』


「人間のスキルを試されたことはありますか?」


『い、いえ、それはまだ……私たちは嫌われてますから』


「それでしたら、そこに座ってください」


『は、はぁ……』


私はラトーバさんを座らせ、服をめくった。


(……なんて、ひどいの)


服に隠れた肌は、見るも無残な姿だった。

おそらく、色んな薬を使ったせいだろう。

シワシワのガサガサで、皮膚が薄く剝がれているところもある。


『汚い物をお見せして、申し訳ありません』


ラトーバさんは、悲しい表情をしている。

私は何とかしてあげたいと、強く思った。


(確かあの時は、手の平に魔力を……)


記憶をたどりながら、意識を集中していく。

やがて私の手が、白っぽく光った。


『おおっ!』


そのまま、ラトーバさんの腕を撫でていく。


(少しでも治ってくれると、ありがたいんだけど)


撫でたそばから、ラトーバさんの腕はとてもキレイになった。


『す、すごい!まさか、こんなことが……!』


(良かった、やっぱりモンスターには効き目があるみたい)


「さ、他のところも見せてください」


私はラトーバさんの体を撫でていく。

あっという間に、全身の肌がキレイになった。

肌だけじゃない、髪はツヤを取り戻しキラキラしている。


(え?)


ラトーバさんは…………ダンディーなオジサマになっていた。


「ラトーバさん!鏡を見てください!」


私は急いで鏡を渡す。


『こ、これが、私……!?し、信じられません……どんな薬でも治らなかったのに!』


(そうか!ゴブリンの見た目が悪かったのは、病気のせいだったんだ!)


『アイカル様!これは奇跡です!あなた様は、神が遣わしてくださった、天使様です!』


ラトーバさんは床に跪いて、しきりに感謝している。


「そ、そんな、大げさですよ」


『さっそく、旦那様にお知らせしましょう!』


ラトーバさんは、いきなり私を引っ張っていく。


「ちょっと、ラトーバさん……シンシさんはもう寝てるんじゃ……!」


『いいえ!旦那様は絶対に、まだ起きておいでです!』


さらわれるように、シンシさんの部屋まで来た。

ラトーバさんは、ノックもせずに入ってしまう。


ガチャッ!


シンシさんは、何かの肖像画を眺めていた。

私たちが部屋に入ると、慌てて隠す。


『う、うわぁ!だ、誰!?ア、アイカル!』


ドサッ。


バランスを崩し、肖像画が床に落ちた。

私の絵だ。

たぶん、父が送ったものだろう。


(まさか、食後ずっと見ていたのだろうか)


微妙な空気が流れる。


『き、君は誰だ!?アイカルから、す、すぐ離れろ!でないと……!』


『旦那様、私はラトーバでございます』


『ラ、ラトーバだって!?』


『アイカル様が治してくださったのです』


ラトーバさんは私が皮膚病を治したことを、簡単に説明した。


『まさか、そんなことが……』


「シンシさんの病気も治せると思います」


『い、いや、しかし……』


「イスに座って、上着を脱いでください」


『旦那様、ぜひ』


『そ、そこまで言うなら……』


シンシさんは、ノロノロと服を脱いだ。


「触るだけですからね」


『な、なんて心地よい気分なんだ……』


あっという間に、シンシさんの体もキレイになった。


(う、うそ……!?)


目の前には…………これ以上ないほどに容姿端麗な男性がいた。

高い鼻、銀で出来ているかのような眩い白髪、つぶらな瞳、そしてスタイル抜群の体型。

エルフが最もルックスが良いって言われているけど、それは絶対に間違いだ。

この世で一番美しい種族は、ゴブリンだ。

シンシさんを見れば、誰だってそう思う。


『旦那様、鏡を』


『こ、これが……私……』


シンシさんは、鏡をしきりに見ている。

思い切って、私はずっと疑問に感じていたことを聞いた。


「あ、あの、シンシさん、一つ聞いても良いですか?」


『う、うん』


「どうして……私を避けているのでしょうか?」


シンシさんは、俯いてしまった。

私は、慌てて補足する。


「あ、あの!私に至らない点があるのかと思いまして!人間が妻になるなんて、色々大変でしょうし!」


『ア、アイカル。すまなかった。私は……いや、僕は……自分に自信がなかったんだ』


シンシさんは、絞り出すように話してくれた。


『ゴブリンは……その……醜いだろう?僕なんかじゃ、君と釣り合わないと思っていたんだ。本当に情けないよ。せっかく、こんなに美しくて優しい人が来てくれたというのに』


(それで、私を避けてるような気がしたんだ)


『見損なったろう?』


「いいえ」


私はシンシさんを、正面から見た。


「シンシさんは私のことを、とても大事にしてくださっているじゃないですか。さっき、ラトーバさんと来た時だって、真っ先に私の身を心配してくださいました。私は、シンシさんが大好きです」


シンシさんは、キョトンとしている。

しかし次の瞬間には、意を決したように言ってきた。


『こんな僕で良ければ、死ぬまで一緒にいてほしい。だから……僕の妻に……なってくれるか?』


あまりにも深刻な顔なので、私は思わず笑いそうになってしまった。


「もうとっくに、妻になっておりますよ」






******

その後、屋敷にいるゴブリンたちも、皆病気が完治した。

右を見ても左を見ても、とんでもない美男美女が揃っている。

そして、私たちはと言うと……。


『待てよぉ~、アイカルゥ~』


「捕まえてごらんなさぁ~い」


毎日、キャッキャウフフしている。

そんなある日、一通の手紙が届いた。


『アイカル様、お手紙でございます』


「ありがとう、ラトーバさん。誰からだろう?……ゲッ!」


『どうしたの、アイカル』


「妹とケイハーク様、いや、ケイハーク氏からですわ」


『そ、そうか……』


あの性悪な妹のことだ。

どこまでも、私をバカにしたいのだろう。


「とりあえず、中身を見てみますわ……え!?」


『どうしたんだい?』


私は手紙を見せた。



姉上様、数々のご無礼をお許しください。

私を助けてください。

エルフの国から国賓が、ルドウィッチ王国に来ました。

宴の最中、エルフ姫の持病が再発し、私が『浄化』スキルで治そうとしました。

ところが、どうしたわけか酷く悪化してしまったのです。

責任を取れと、私とケイハーク様は死刑を宣告されました。

姉上様が昔お話くださった、スライムの病気を治したことを思い出し、もしかしたらと筆を執った次第です。

どうか、どうか私どもをお助けください。


至急連絡乞う

クヨジア・カラベッタ

ケイハーク・チャーライ




『こ、これは……』


手紙は殴り書きだったので、本当に切羽詰まっているのだろう。

私は正直、複雑な気持ちだった。

しかし、クヨジアは実の妹だ。

見殺しにすることはできない。


「シンシさん、力を貸していただけますか?」


私たちは、大至急ルドウィッチ王国に向かった。




わずか一日足らずで王国に着いた。

ラトーバさんが、馬車を飛ばしてくれたおかげだ。


「ねえ、あの人すごくカッコよくない?」


「どこの国の王子様かしら?」


「エルフよりハンサムね」


周りの女性たちが、シンシさんに色目を使っているのが気になるけど、私たちは急いで王宮に向かった。

事情を話し、中に入れてもらう。


「クヨジア!」


今まさに、クヨジアとケイハーク氏が、首を斬られようとしているところだった。


「お、お姉さま!?来てくださったんですね!」


「アイカル!」


二人はボロボロで、かなり衰弱していた。


「貴様たちは何者だ!?」


王様だ。

私たちは跪いた。


「これは失礼いたしました。私はアイカル・リゴンブと申します。そこにおりますクヨジアの姉でございます」


『私はシンシ・リゴンブと申します。“辺境の森”にて、屋敷を構えている者です』


「おい!今すぐ、こやつらを追い出せ!」


衛兵たちが近寄ってくる。

私は必死に叫んだ。


「王様!クヨジアより、お話は聞いております!私の『不浄』スキルなら、エルフ姫のご病気を治せる可能性があります!」


衛兵たちの動きが止まった。

王様の方を伺っている。


「……貴様、ふざけているのか?国中の医術師を集めても、回復しないのだぞ!」


『王様、恐れ多くも申し上げさせていただきます。私は……ゴブリンでございます』


ゴブリンと聞いて、その場がざわついた。


「ゴブリンが、そんな見た目なわけないだろう!いや、そんなことはどうでもいい!さっさと出て行け!」


『アイカルはモンスターの病気を、確実に治せる力があるのです!私たちは皮膚病のため、醜悪な外見だったのです!』


「お願いします、王様!私にやらせてください!きっと姫様の病気を治してみせます!」


私たちは、必死にお願いした。


「……いいだろう。ただし、上手くいかなかった時はどうなるか、わかっているだろうな?」




私たちは、姫が寝ている部屋に行った。

エルフがたくさんいる。

一番偉そうなエルフが言った。


『ルドウィッチ王、戦争は回避できませんな』


「この度はなんとお詫びしたら良いのか……。モンスターの病気が治せるという、医術師を連れて参りました」


『ふん、どうだか。ぜひ、やって頂きましょうか』


エルフ姫は息が辛そうで、とても熱が高い。

私は姫の胸に手をあてた。

意識を集中していく。

さすがに緊張する。

ふと隣に、シンシさんが来てくれた。


『アイカルなら大丈夫。今までどおりやればいいのさ』


(ありがとう、シンシさん…………)


私の手が光だした。

すぐに、エルフ姫の呼吸が整っていく。

やがて熱が冷め、体温も元に戻った。


『あれ……?ここはどこですの?』


エルフ姫の目が覚めた。

もう大丈夫だ。


『『『やったああああああああああああ!』』』


お付きのエルフたちが、バンザイをして喜んでいる。


「な、なんということだ……アイカル嬢……どれほどお礼を申し上げたら良いか……」


「ああ!お姉さま!お姉さま!ありがとうございます!」


「アイカル!君は命の恩人だよ!」


クヨジアとケイハーク氏は、私にしがみついて涙していた。


「……離してください」


私は二人を、やんわりと引き剥がす。

クヨジアはすぐ、エルフ姫に謝りにいった。


「アイカル、とても美しくなったね。どうだろう?また私の元に戻って来ないか?」


ケイハーク氏はこんな時にも関わらず、相変わらずの調子だった。


「……戻るわけないでしょう。私には、こんな素晴らしい旦那様がいるのに」





やがてゴブリン屋敷には、色んなモンスターが訪れるようになった。

どんな病気もケガも治すと評判で、アイカルとシンシは、モンスター界で有名な夫婦になっていく。

新婚旅行先では、太古の竜の病気を治したりと大活躍。


さてさて、アイカルの評判が魔王様にまで届くのは、また別のお話……。

評判が良ければ、連載していきます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろい! [気になる点] ぜひ連載を!(あと、もうちょいざまぁ強めにしてほしいです)
[良い点] は [一言] 是非、連載を!!
[一言] スキルに神様?がつけた不浄って名前が良くなかったよね。 モンスター?にとっては病を癒してくれる聖女に成るわけだしね。
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