一瞬の戸惑い
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「ナツ、蒼兄はいる?」
結城は桐生の門を潜り、廊下ですれ違ったナツにそう尋ねる。
書類を持って廊下を歩いていたナツは、一礼すると少し考えるかのように間を置き、悲しそうに首を横に振った。
その態度にある種そんな予感のしていた結城は返答をせず蒼のところへ向かった。
一応ノックはするが、返答はない。勝手に扉を開けてると、部屋では蒼はデスクでに向かいパソコンを触っていた。一言も発しない蒼に対して、結城は苦笑する。
「相変わらず殺気立ってるオーラだな」
無視されている事などお構いなしに、皮肉交じりで結城が話しかける。
蒼はそれにも応じなかった。目を向けることもない。
そんな蒼を観察するかのように結城は、部屋の出入り口で柱にもたれ掛かり、腕を組むと蒼を見ていた。
「お前何しに来たんだ?」
普段絡まない結城がいる事実を不快に思い、パソコン画面から目を逸らすと不機嫌そうに蒼が口を開いた。
「べっつにぃ~腐ったミカンのようなー煮え切らない蒼兄を嘲笑いに来ただけぇ」
と結城は戯けてみせる。
静に蒼は立ち上がり、無言で結城の方へ歩み寄った。脇のホルスターから自動拳銃を抜き、結城の頭に突きつけると、「言いたい事があるんだろ?」とほくそ笑む。
「本気で腐ったのかよ」
結城は動じることもなく笑い飛ばした。
蒼はそれに対して無言だった。今の蒼にとって躊躇などない。引き金に掛けた指が動くその時――。
「沙良ちゃんに会ってきた」
一言、結城が呟いた。
蒼の指が止まる。
それは蒼にとって想像していない言葉だった。一瞬、蒼の動きに戸惑いが見られたことに対して、結城の口角は微かに上がった。




