沙良の決断
沙良は只々見惚れるしかなかった。
「沙良ちゃんは月島の若頭から聞いたのかい?」
「んーどこを話していいのかわかんないけど、兄の素性と身の上は聞いたわ」
沙良は吹っ切れるかのようにそう話す。
「なるほどねぇ」と結城は考え込んだ。
「それで、沙良ちゃんはココで何しているの?」
結城は『確かめる』ように沙良へ質問を投げる。
「待っているの、蒼くんを」
沙良は空を見上げながら、そう答える。その瞳に迷いは見られない。
結城はその姿にしばし見とれていた。ここまでスッキリと覚悟を決めた表情は清々しかったからである。
「羨ましい限り」
結城は微笑むと、心の底からそう思う。
沙良のその表情を見て結城の心は決まった。
「蒼はさぁ……」
結城はため息交じりに話し始める。
その概要はこうだった。
沙良が転院してから、蒼は誰も信じなくなったかのような、そんな昔の冷徹無比な蒼に戻ってしまった。
淡々と業務等をこなすが、誰とも必要以上に話さなくなったし、容赦もなくなった。あれから問題が起きるたびに蒼は無慈悲に粛清を行い、今や恐れて誰も近づかないと。
もう相手ができるのがナツを含めて数名しかいないと。
結城の話も聞き入れなくなってしまったこと。
「それでも昔はまだ人間味はあったし、人間的に関われていたんだ」
結城は懐かしそうなどこか寂しそうな目で空を見上げ語っていた。
「私はここで蒼くんを待ってる」
沙良は再度、結城にそう言った。それは沙良の決断でもあった。
その言葉に結城の緊張が解ける。「沙良ちゃんも奇特な人間だねぇ」と言うと、立ち上がりにっこり微笑む。そしてその場を去っていった。
「蒼くん……待っているから」
沙良は空に向かい祈るように呟いた。




