転院
ナツは手術室から車椅子で出てきた。
沙良の手術は長引いているようである。廊下に彬人を見つけると、会釈した。
「お前でもそんなことがあるんだな」
彬人は皮肉が籠っている。
「私如き、この程度で済んだことに感謝です」
ナツは無表情で答えた。
そして蒼の方を見る。蒼は俯き無言だった。
「何かありましたらご報告いたします。大変心苦しいのですが、本日のところはお引き取り頂けたらと存じます」
背後に控えていた者が一斉に各自隠し持っている拳銃に手を伸ばす。
一触即発の緊張感が走った。
彬人は制止するように手を挙げると「今日はその風穴に免じて帰りましょう」と言い、踵を返し元来た廊下を歩き出した。
手術室のランプが消えて沙良がストレッチャーで出てくる。
蒼は立ち上がるとフラフラとそのストレッチャーに歩み寄った。
「まだ麻酔下ですが、手術自体は特に問題もなく終わっています」
それを聞くと安心したように沙良の頬を撫でる。
「ごめん……沙良」
それは小さなとても小さな懺悔と後悔の叫びだった。
そしてストレッチャーは病室へと運ばれていった。
❖ ❖ ❖ ❖
「今回のことはどう落とし前をつけるおつもりですか?」
彬人は静かに問う。
その返答に宗一郎は詰まっていた。
「別に何かしてもらいたいとかありません。ただ……」
そういうと、声のトーンが1段階下がる。
「沙良はウチが引き取りますよ、いいですね」
それは有無を言わせない『絶対』だと、無言で彬人は告げていた。
そして――沙良は移された病室から転院した。




