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運命の重なった時  作者: MEGko
イタズラ好きの従弟様
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③偶然なのか必然なのか

「あ、すみません! 大丈夫ですか」


 沙良の持っていたコーヒーが衝撃でこぼれ、服にシミが広がっていく。

 すれ違いざまにぶつかってしまったため、手に持っていたコーヒーがかかってしまった。


「沙良~大丈夫!?」

「うん、特に問題は無いよ」

 というと、沙良はカバンからハンドタオルを取り出し拭く。


「ほんとにごめん! クリーニング代を!」

 そう言うと男性は財布からお金を出そうとしたのを沙良は慌てて止めた。

「いえ、私の不注意もありますから大丈夫です」

 そう笑顔で答えると、梨絵をなだめて席に着いた。


「なにそのシミ、最悪じゃん! でもぉーかなりイケメンだったよね、さっきの人」

 怒っているのか笑っているのか分からない表情である。沙良にとってはどうでもいいことだった。イケメンと言われればそう認識している。だからといって興味はなかった。


「私もっとイケメン知ってるかも……」

 何気につい口が滑る。

「え! それ初耳なんですけど!」

「え、えっと……あー言わなかったっけ?」

「それってさぁ、まさか『黒崎』とか言わないでしょうねぇ」

「蒼くんもかなりイケメンよ?」


 アハハハハッと大爆笑される沙良。

「あの……黒崎が……! いや、マジウケる!」


(そうか梨絵は黒崎くんしか知らなかったっけ)


 それに気づいたが、修正するのが億劫だったので、そういうことにしておいた。沙良にとっては黒崎の方が馴染みはあるが、最近屋敷では〝桐生蒼〟に戻るので、どちらでも認識はできていた。「かっこいいなぁ」と思うが、思うだけである。美術品の鑑賞と同じ程度の認識だった。


 今日沙良が梨絵に呼ばれた内容は、受験勉強が上手くいかない愚痴と、彼氏ができたというノロケだった。素直に梨絵に彼氏ができたことは喜ばしいことだと思っていた。

 その惚気を聞いて数時間……梨絵は彼氏と夕食を食べに行くというので、やっと沙良は解放された。


 たまの女子会トークは楽しかった。そして、沙良もこの数か月に自分にいつもボディーガードとして一人付いていることには慣れていた。梨絵と別れてから少し遅れてカフェを出る。その他タイミングで自動車が沙良の前に停車する。傍にいたのであろう若い男性が車のドアを開けてくれた。そして、沙良は何もなかったかのように乗り込んだ。


「それは、どうかなされましたか」

 運転手がルームミラーから沙良の服のシミを見つけ声を掛けた。

「ううん、こぼしてしまっただけ。大丈夫です」

 慌てて理由を説明する。沙良はまだこの人たちに慣れていなかった。

 この境遇には不満があった。普通に生活したい思いもあった。でも……母親の死から、自分はもう周りに合わせないとダメだということを自覚していたのだ。


「沙良、大丈夫か!」

 バタバタを廊下を歩く音がして、扉が開く。焦っていたのか突然の来訪だった。

「大げさよ、コーヒーこぼしただけ」


 蒼が入ってきたので、世話係の女性は退室した。沙良は過保護な蒼の言葉にちょっと笑ってしまった。

「不注意って、相手は誰なんだ」

「知らないわよ。あ、でも『イケメン』だったわ。梨絵が騒いていたし」

「イケメン!?」


 そのワードを聞いて面白くない蒼だった。イケメンなら目の前にいるだろう! といいたいところであろう。普段は前髪はまとめてはいないにしろ、予備校時のように鬱陶しく下ろしているわけでもない。帰ってから着替えるカジュアルな服装もマッチしていい具合にイケメンに戻っている。


「……何か言いたそう?」

「いや……別に」

 気づいていないところは天然だと、と蒼は実感したと同時に無性に不安になってきた。


「そういえば、桐生様から今日は食事会みたいなことを聞いたけど」

 何気に沙良が聞いてきた。

「あー、そんなかしこまったものでもねーよ。俺の従弟が来るんだ」

「従弟……さん?」

「あぁ、今年中3なんだけど、進学決まったから報告へ来るんだとさ」

「それに……なんで私も参加しないといけないの?」


 その言葉でしばし考える蒼。確かに顔合わせをする必要はないことに気づく。いつも祖父の言うことは絶対だったため、何の疑問も湧いていなかった。

「あー、嫌なら別に不参加でもいいぞ」

「いいの? 勝手に決めても」

「別にあいつの報告聞いても面白くも何もないだろ」

「んー、確かに。別に興味も無いかな。それならお断りを私が自分で言いに行くから、案内してくれる?」


 沙良は蒼に祖父のところへ通してもらうことをお願いした。宗一郎には気軽にとは言われているが、流石にアポイントメントなしで伺うことについては、沙良であっても躊躇いがあった。蒼は一言「おっけー」と言うと、沙良を連れて祖父の部屋へ向かった。


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