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困惑する訳
最初、蒼は黙って唇をかみしめていた。
自分が下手を打っていたのか……失態どころの騒ぎではない。
しかし、それに対して宗一郎は何も言わなかった。
いや、もう触ることができなかったのだ。
「向こうさんが何を考えているのか、わしには分からん。今は何も話は入っておらん。ただ……沙良さんはウチが『お預かり』しているのだ。もし月島彬人自身から『引き取りたい』と申し出があったら……引き留めることはできん」
蒼はそれ以上何も言わなかった。
ただ……整理する時間が欲しかった。
蒼は沙良との生活がずっと続くとは思っていない。
しかし、このような展開で終止符を打つ未来は想定していなかった。
沙良が兄の元へ行ってしまったら……。
別に今生の別れというものでもないが……。
飲み込めない自分がいた。
この事実は沙良に伝えるつもりはなかった。
そして、兄と妹……二人の関係を裂くこともできなかった。
(沙良を諦めるのか)
それを拒絶する自分がいる。
そこに良好な関係という選択肢は入っていなかった。




