過去の彼女
「あ……そういえば」
ふっと昔のことを思い出した。
確か中学の時だったであろうか、同じことがあった。廊下で倒れ仕方なく保健室まで運んだ記憶。それがきっかけで付き合いだしたのがその時の元カノだった。
彼女は変わっていた。他の女のように蒼に媚を売ることは無かった。
静かに教室で読書しているのが好きなインドア派だった。唯一のプラトニックな関係だったかもしれない。その存在が当時の蒼の癒しだった記憶がある。何でそれを思い出したのか……微かに見た目や雰囲気が似ていたのは、旅館の玄関で目に入ってきたときに気づいた。まさかデジャヴとか……
特に思うことは無かった。今は沙良が居る。沙良が自分の方を向いてくれる。笑ってくれる。寄り添ってくれる。それは今までにない蒼の一部だというぐらい愛しいものだった。
人の声に我に返る。扉が開いて一瞬びっくりした表情の仲居達。しかし、横になっている彩羽を見つけ全てを察したのか「すみません! ありがとうございます!」と一人が感謝を述べる。もう一人がパタパタと出て行くと、蒼は役目は終わったかのように一礼しその場を離れた。
沙良は浴衣を借りてご機嫌で大浴場の方へ向かって歩き出した時、ふっと横の通路に蒼を発見した。女の人を抱えて部屋に入って行く瞬間だった。
時が止まり、超加速で思考回路が走る。
「ありゃ? あれ蒼兄じゃん」
と後ろから声がしてビクッとして振り返る。結城が後ろから沙良の肩を抱き寄せ蒼を見送っていた。
「ちょっ! 結城くん!」
沙良は慌てて三歩離れて落ち着こうとする。二重のドキドキでほぼパニックだった。
「あれはさっきの可愛らしい仲居ちゃんだねぇ」
「彩羽ちゃんはさっきお部屋まで案内してくれただけよ」
沙良は彩羽を庇う。
「ふーん、あの子誰かに似てるんだよね」
結城が考えながら「あっ」と思い出したかのように手を叩いた。
「蒼兄の元カノにあんな子いたいた」
ケラケラ笑いながら結城はすっきりしたような顔をしている。そしていたずらっぽく沙良に微笑むと、「何かあったらオレんとこおいで」と言い残すとその場を離れる。
沙良はボーッとしながら一人大浴場へ向かった。
そこからあまり記憶がない。気が付くと湯船につかってブツブツ言っている自分が居た。
「元カノって言ったって過去の彼女であって……」
そう言って言葉に詰まる。
「本当に……付き合っていたんだよね?」
ネガティブな思いしか出てこない。
彩羽ちゃんは特に何も言ってなかった。蒼くんも何も言ってなかった。二人の間に「関係性は無い」とそう思い聞かせていることに気づく。
そんな自分が沙良は凄く嫌だった。
「なんか私凄く嫌な人間になってる」
このまま考えていても結果は出てこないことを悟ると、沙良は思い立ったように湯船から出た。
次回から、月・水・金での更新になります。
宜しくお願い致します(o_ _)o))




