⑩SOS
蒼の携帯は車の後部座席に置いてある。
その蒼の携帯に「緊急」という文字とアラームが、車内で鳴り響いていた。
フルフェイスの窓のお陰で、どこへ行くのか外は分からない。
車に乗ってすぐに結城は拘束された。
「結城くん!」
傍で拘束される結城の姿に取り押さえられていた沙良は動揺する。
「ダイジョウブ、この程度ぐらいはね」
「はいはい」と成すがままで抵抗をしない。いや、抵抗できる状況ではなかった。結城も服の下に様々な武器は仕込んでいたのだが、彬人が手際よく指示し、没収されていく。
「中学生がこんなオモチャで遊んじゃだめだよ」
と、彬人がほほ笑む。
この観察力に結城の顔には汗がにじみ出ていた。
(見ただけで当てるとか神かよ)
結城は正直、余裕がなかった。自分一人だけならまだ何とかなったかもしれない。しかし沙良を連れては無理だと悟っていた。携帯も没収されたが、GPS機能付きの緊急ボタンはあるキーワードで発動する「音声認識」なので、一見携帯を見てもバレない。
携帯と連動しているGPS装置はボタンの一部に付けていた。予想通り、携帯は窓の外へ投げ捨てられ残骸と化した……だろう。しかし、そんなことより結城は時間が稼げれば御の字だと思っていた。
「さて……と」
彬人は沙良を見る。沙良は目が合って冷や汗が流れた。
彬人が小瓶を取り出す。沙良はデジャヴだと思った。こんな展開を覚えている。
「沙良、これ飲んでくれるかな」
彬人は静かな声で沙良に飲むことを促した。
「そ……それは無理な要求ですよね……」
震えながらそう答えるのが精一杯である。
「そうか――。それなら仕方ない」
そう言うと押さえつけられて口の中に小瓶を突っ込まれる。抵抗という言葉の前に目的は完結してしまっていた。
吐き出そうと咳き込むが、液体は食道を通過していた。
「さて……と、これでいいかな」
彬人は飲み込んだことを確認すると、満足そうに微笑みそう言った。
「おい! お前何を!」
傍で抑え込まれていた結城が焦って抵抗する。そのみぞおちに一発こぶしが入ると、呼吸が一瞬詰まり結城は激痛で蹲った。
「睡眠薬ですよ、外野は大人しくしておきましょう」
鼻歌を口ずさみながら彬人が声を掛ける。その目は笑っていなかった。
「結城くん!」
沙良は結城に近づこうとするが叶わない。
「大丈夫、沙良にはちょっと眠っていて欲しいだけだから」
傍で彬人は笑顔で沙良に告げた。
沙良はその言葉を聞いて、寝ないように必死に意識を保とうとしていた。
ほどなくして……何か身体に違和感を感じる。この感覚は……結城に飲まされたものと同じ体験だった。
身体がフワフワして意識が朦朧としてくる。首を横に振り必死に自我を保とうとする。しかし、自分の意思に反し……沙良はそのまま静かに横たわり眠りについた。
着いた先は倉庫らしき古い資材置き場だった。




