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運命の重なった時  作者: MEGko
別れと出会いは折り重なる
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第三話 出会い

 それから桜が咲き、散り行く頃――。

 


 沙良は地下通路で立ち止まっていた。予備校が始まり数日が経過した頃だった。元々東西南北が苦手で方向音痴だったのだが、慣れない地下道を慣れようとしてモノの見事に迷ってしまったのだ。

 どの出口が予備校に近いのか、壁にある地図を睨めっこして数分。答えは一向に出てくる気配はない。携帯のナビも連動していたがGPSが上手くいかなくて、更に混乱していた。


 今の時間、通勤通学ラッシュで人の通りは多い。壁際といえども、立ち止まっていた沙良に人の波は容赦なくぶつかってきた。キャッと小さく悲鳴をあげてよろめいた時に手にしていた携帯が飛んでいく。慌てて拾おうとして肩にかけていたカバンの紐がずり落ち、中身をぶちまけてしまった。

 恥ずかしくて赤面しながら慌てて拾う。


「これもあんたの落とし物?」

 ふっと顔を上げると、目の前に知らない男性が自分の予備校の身分証を持っている。

「あ、すみません! ありがとうございます!」

 咄嗟に身分証を受け取ると、沙良は残りの私物を全力で拾い集める。

「そこの予備校通っているんだ? まだ行くの早くない?」

「え?」

 その言葉に顔を上げる沙良。

「俺もそこの浪人生なんだよ」

 笑いながらそう答える彼を、荷物を全部拾い集めカバンに入れた沙良はまじまじと見る。オシャレと言うには特徴のない、普通のTシャツとジーンズという恰好で、大きめのリュックを背負っている。前髪は寝ぐせ付きで前に下ろし、不釣合いな黒縁の眼鏡をかけていた。全体像は「地味だな」という印象である。そんなことを思っている沙良だったが、沙良も特に今どきのファッショナブルな格好をしているわけではない。髪は一つに束ねて、毛先は少し寝ぐせで跳ねていたことを思い出し、赤くなった。

(人のことをとやかく言える私ではない!)

 ちょっとでも地味とか失礼なことを言った自分を反省した。


「あの、あなたも浪人生?」

「そうそう、俺もって……二浪目だけどね。今年からここの予備校へ」

「え、じゃあ私と一緒だ……」

 沙良はクラスメイトには興味があまりなかった。クラスにこんな人いたのか改めて思い出そうとする。


「俺は黒崎蒼(くろさき あおい)って言うんだ。ほら」

 分らなさそうな……そんな考えが表情に出ていたのか黒崎は自分から名乗って、カバンの中から身分証を出して見せてくれた。確かに入校年度は同じである。

「工藤沙良って言います」

 沙良は慌てて深々と頭を下げる。それを見て黒崎は面白そうに笑った。

「いや、ゴメンゴメン。そんなに堅苦しくなくていいよ。よろしくね、沙良」

 見た目地味とか思ったけど……意外にフレンドリーな人だなぁー、と沙良は安堵した。今まであまり異性とフレンドリーになる機会も多くなかった沙良だったが、歩き出す黒崎には不思議と意識せず付いて行った。


(そういえば、名前あの人と同じだわ)

 沙良は食事会で出会った桐生の孫のことを思い出していた。

(漢字は同じでも、やはり違うものよね)

 そう思い、クスッと笑ってしまう。

「え、なに? なんかおかしかった?」

「ううん、同じ名前の人知ってるから」

「俺と?」

「そう、でも全然違うけどね」

「なにそれー、なんか酷くねー?」

 そう言うが黒崎は笑っていた。そんな他愛もない会話だったが、少し緊張は解けた気が沙良にはしていた。

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