④浮足立つイブ
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「おはよ……う」
ここ数日、自分の保護者のような存在である、蒼の祖父・宗一郎は所用で数日留守にしていた。よって珍しく蒼と沙良と二人での朝食が続いていた。
蒼はキッチンのダイニングテーブルに手をかけて、先に座っている沙良を見下ろしていた。眼鏡をかけていない沙良を見たことがないわけではない。ただ、今日は髪を下ろしコンタクトにしていただけなのだが、何となく雰囲気が違っていた。
「はいはい、見とれてないでさっさと座る」
動きの鈍い蒼をナツは座るように促した。
「蒼くん……ヘン?」
ちょっと赤くなって沙良は蒼を見た。あまりコンタクトにしたことがないので慣れていないのと、蒼の手前、急に鼓動が早くなったのだ。
「いや……似合ってる」
蒼は素直な感想を述べた。正直に「可愛い」と思ったからだ。
「ほんと、若いっていいですね」
とナツが茶々を入れる。ナツの年齢は不詳だったが、少なくとも蒼が物心ついた時から変わっていない容姿なのは確かである。美魔女という領域であった。
「ナツさんって何歳なの?」
沙良は自分の疑問をサラッとぶつけてみた。向かいで味噌汁を口にしていた蒼が噴き出す。その質問はココでは暗黙のルールであった。その質問にナツが笑顔で「他の方々には秘密ですよ」と言い耳打ちした。かなりびっくりする沙良。
それを知りたいと思った蒼だったが……ナツから恐ろしくて聞くことはとてもできない。いつか沙良から教えてもらおう、と一人心に決めたのだった。
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気のせいかクリスマスイブの日は、予備校では少し浮足立っていた。このイベントに少なからずフラグを立てている者も多いらしい。また女子の間では蒼に対して「あわよくば」という機会をうかがっている者も居た。
それを楽しんでいるのは沙良の傍に居る梨絵である。そう言いながら、梨絵も普段はパンツスタイルが多いのだが、今日は可愛らしいワンピースであった。
「沙良―っ、それコンタクト? 似合うよ!」
「梨絵もそのワンピース可愛いーっ!」
お互いはしゃいでいる。24日にオシャレとかバレバレパターンだが、全体がそういう雰囲気なので特に浮くことは無かった。
蒼に関しては……特に変わりないかな、と沙良は気にしていなかった。いや、それでなくても浮いているのに、これ以上何かやったらと大問題になりそうだな、と思ってちょっと安心もしていた。
「あ、でもスーツ姿もカッコイイよね」と思うと、それを知っているのは自分だけという優越感もあった。
フフッと笑ったら蒼が不審そうにのぞき込む。
「なに思い出し笑いしてんだよ」
「はっ! え? いや、なんにもないない」
「ほんとだ―っ、また何想像していたんだろーねぇ」
梨絵も覗き込みニヤっと笑った。真っ赤になって否定するが否定になっていない。
こんなクリスマスムードは1日中続いていた。
本日の最終講義が終わってから、蒼の傍にはお誘いの人が集まっていた。
「分かり切っていたことだけど……凄い構図」
梨絵は沙良の傍で紙パックのフルーツジュースを飲みつつ、あきれ顔で蒼を見ていた。沙良は苦笑いしている。
「沙良、今日は黒崎連れてどこ行くわけ?」
「うーん、実は私も知らないんだよね……」
沙良にはフラグのことを打ち明けていたので、二人して今日のこの後のイベントは話し済である。ただ、沙良については内容が未定なのであった。
梨絵は彼氏と合流。沙良は……未定。予定については全く想像さえつかない。
とりあえずは、この取り巻き達がどうにかなってからかなぁ、と教室の隅で見守っていたのだった。
そのうちブチ切れたのか、蒼が立ち上がる。周りの女生徒を蹴散らすと沙良の方へ向かってきた。
「お疲れ様」
沙良はとりあえず労いの言葉をかける。
「あーっ、もう! 鬱陶しい!」
その表情はあからさまにイライラしているようであった。
「モテるって大変だな」
気が付くと梨絵と一緒に、たまに蒼に絡んでくる双子で予備校へ通ってきている悠斗・愛斗も観客と化していた。ストリート系のスタイルで趣味はスケートボードらしい。アクティブねぇ、と双子を知った時に沙良は思っていた。
勉強はそこそこで、一応志望校は圏内なので、余裕というまぁまぁできる二人である。梨絵が「おつかれー」と声を掛けた。
「お前なんでイメチェンしたんだ?」
じーっと蒼を見ると愛斗は不思議そうに聞いてみる。
「というか沙良ちゃんは黒崎のコレ知ってたん?」
悠斗も問いかける。
「私は知ってたよ」
沙良はサラッと返した。「ほぉー」と頷く双子たち。
「二人に何かあったというやつかぁ」
「いや、黒崎が本気出してきたんだぜ、きっと」
もはや言いたいことの言い合いである。
「本気ってなんだよそれ……」
やれやれという風に蒼は、沙良の向かいに座った。
沙良はそれを見てクスクスっと笑ってしまう。
「まぁ今日は沙良ちゃん可愛らしいしー、梨絵は気合入りまくりだし」
悠斗が揶揄う様に二人を見る。
「受験生でも息抜きは必要なんですよ、ねー」
と梨絵はニヒヒと笑うと、沙良に抱き着いた。
「オレ達残念組は黒崎も引き込んでー、とか思っていたのに残念極まりない」
と諦めたかのように立ち上がった。
「さて、オレ達は寂しく帰りますか」
「ちょいまち待ち、それなら私も出るーっ。沙良たちはどうするの?」
「俺たちももう出るよ。外暗いし」
外は気が付けば真っ暗で、イルミネーションの仄かなライトの光で窓辺は明るくなっていた




