②クリスマスフラグの行方は
「さーらー、お茶していこーよー」
講義が終わり、梨絵は沙良に声を掛けた。
帰り際も数名の女の子が蒼を誘う算段をしている。沙良という存在を認識しているであろうが、そこはガン無視状態であった。
「いいよー」
そう言うと、蒼の方を見る。蒼とは目が合わなかったが「行っておいで」と手をひらひらさせていた。
「ありゃー下手したら蒼くん今日は帰れないかもよ?」
梨絵が揶揄う様に沙良に言う。
「……大丈夫よ」
一瞬戸惑ったしぐさをみせていた沙良だったが、何もないようにそう答えた。急に女の子にモテ始めたように見える沙良にとって、何かわからないモヤモヤが少しずつ生まれていた。
行きつけとなったカフェは、予備校からそう遠くはなかった。
いつものカフェの、通りに面したカウンター席で二人は流れる人込みを眺めていた。
「もうすぐじゃん」
何気に梨絵が話し出す。
「共通テスト? 気が付けばあっいう間だよね」
「違う!」
咄嗟に言葉を遮られて、沙良はビックリした。
「クリスマスよ! クリスマス!」
「え? あーそっち……」
そう言うと梨絵は肘をついてため息をついた。
「だって、初クリスマスだもん。受験生だけど……何かしたいじゃん」
「そっかーそういえば初イベントじゃない? 何か考えてるの?」
「んーとりあえずプレゼントぐらい。イブは予備校終わって合流してご飯食べに行く予定。あれ? 沙良は蒼くんとイベント無しなん?」
何気に沙良に聞いてくる。てっきり沙良たちも何かイベントがあるのかと思っていたからだ。
「んーそんなイベントフラグは無いかな。一応プレゼントは用意したけどね」
「意外なほど案外淡泊なカップル」
まじまじと沙良を見る梨絵。
「んーそう言うけど……別にカップルってわけでもないような?」
「へ? 何その今更感」
「なんだろう……別に今まではお互い否定もしてこなかったけど……付き合うとかではない気がする、この関係も」
「なにそれ? じゃあ別に何か関係があるの?」
「んー」と沙良の視線は宙を泳いだ。「何だろうなぁ、『義務感』とか?」ボソッと呟く。
「なにそれ? それちょっと意味わかんないかも」
梨絵がウーム、と唸った。梨絵からしてみたら、この二人は相思相愛だと思っていたからだ。根底から覆すような発言に疑問を投げかけた。
「沙良は好きとかはないの?」
「好きかぁ……」
ちょっと考えて真っ赤になる。
「どうなん……だろう」
「何それ! 結局何かあるんじゃん~」
その反応を見て楽しんでいる梨絵だった。
しかし、沙良はまだ蒼に対して決定打がないような気がしていたのだ。好きと言われて嬉しいし、ときめいている自分がいるのも分かっている。でも何か大きなものが欠けていた。
「実は私今まで『付き合う』とか無縁だったんだよね……だからそういうのがよくわからない気がする」
素直に沙良は今までのことを白状してみた。
「え、初彼氏が黒崎?」
びっくりしたように聞き返してきた梨絵に対して「うーん」としか答えられない。
「カップルなのかなぁ」
「それってさぁ、いつも一緒にいるけど……今まで『何もなかった』の?」
「何もって?」
「いや、その男女的な付き合いっていうか……まだヤッてないというか」
「なっ!」
真っ赤になって戸惑ってしまう。目が覚めたら目の前に蒼がいて添い寝状態だったり、キスがあったり……。
思い出すだけでも恥ずかしさのオンパレードである。
「ふぅーん、全く何もなさそうではないみたいねぇー」
ミルクティーを味わいながら、梨絵は沙良をじーっと見ていた。
「沙良ってさぁ、普段冴えない恰好だけど、けっこういい線いってると思うんだけどなぁ」
「ほら」と、沙良の眼鏡を外しながら梨絵は笑った。
「ちょっと! 揶揄わないでよーっ!」
慌てて眼鏡を奪い返す。それを掛けながら「もぅ」と拗ねた。
「まずはクリスマスイベントのフラグを立てるべし!」
と笑いながら言い、梨絵が外に視線をやった。
大通りの道挟んで向かいに手を振っている梨絵の彼氏がいる。
「さて、私も迎えが来たから行こうかな。沙良はどうするの?」
「私はこれ飲んだら帰るよ」
「そう、ではお先に退散するよ」
彼氏は道路を渡り店の前で梨絵を待っていた。二人で楽しそうに歩いていく姿を見て微笑ましく思っていた。
「彼氏かぁ……」
なんとなく羨ましい自分もいたが、分かっているのはモヤモヤした気持ちだけである。
はぁ、とため息をつき窓の外へ目をやると、目の前に普段乗っている送迎車が停まった。時計を見て時間がだいぶ経過していたことに気づく。
沙良もお会計を済ますと店を出て車に乗り込んだ。




