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運命の重なった時  作者: MEGko
別れと出会いは折り重なる
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第二話 顔合わせ

 工藤沙良(くどう さら)はかなり緊張していた。服を選んで食事へ行くということを今までしたことがない。ましては、タクシーが停まったその場所は、普段は前を通ったとこのある程度しか知らない料亭であった。「ここを利用する人ってどんな人だろう」と思っていた自分が今から入ると思うと……口から心臓が出そうな衝動を抑えるのに必死になっていた。

「お……お母さん……ほんとにここ?」

 不安になって沙良は母・百合絵(ゆりえ)に尋ねた。百合絵は笑いながら「何事も経験よね」と軽く受け流す。沙良にとって普段見ない母親の姿に戸惑いも感じていた。

 

 日本庭園を眺めながら沙良と百合絵は個室へ案内された。案内された部屋でさえ沙良たちが住んでいるアパートよりも広い。こういった場所は沙良にとっては無縁の世界だったので、どうしたらいいのか座っても落ち着かない様子であった。

 数分程度あろう、仲居の声で我に返った。和服姿のご老体とその一歩後ろを、スーツ姿の男性が数人入ってきた。事前に沙良は情報を与えられていない。この、お世話になった人たちがいったい誰なのかは、想像するしかなかった。

(なんだろう……重々しいというか世界が違うというか)

 そう考えながら、まじまじとご一行を観察する。その横で百合絵は会釈する。慌てて沙良も右に倣った。

「その子が工藤の娘かね」

 沙良を見ると、ご老体は百合絵に尋ねた。

「はいっ! 初めましてっ! 工藤沙良です!」

 焦ったのか沙良は自分から自己紹介を始めてしまった。

「桐生様、この子緊張しているみたいで……失礼いたしました。娘の沙良です」

 微笑みながら再度紹介してくれる百合絵に対し、沙良は違和感を覚えた。今までこのように凛とした母親の態度を見たことがなかったからだ。

「沙良、こちらがお父さんのお世話になった桐生様よ」

「堅苦しいのは無しじゃ……桐生宗一郎(きりゅうそういちろう)だ。よろしくのぉ」

 笑顔で名乗ってくれた桐生に沙良は少し安堵した。今までの流れで面食らっていたこともある。

(優しそうな人みたいで良かった)

 沙良はホッとしていた。

 

 その後の会食については、緊張して味も覚えていない有様だった。沙良は和食の作法なんてよくわからない。そんなガチガチに緊張した沙良に桐生は笑いながら「美味しく食べたらええんや」と声をかけてくれた。そんなこと言われても……と沙良は思ったが、横では百合絵は楽しそうに桐生と談笑していた。沙良は今までこんな母親は見たことがない。改めて母親の凄さを実感し、後で自分の知らない謎を訪ねてみようと思った。

 とりあえず、食事を黙々と食べながら話を横で聞いて、沙良は桐生と父親との関係を少し理解した。どうやら桐生は昔父親に命を救われたから、恩返しがしたい……とのことらしい。桐生は今後の生活費や医療費等援助する旨を百合絵に約束した。

 そして沙良は……周りを見回していた。スーツ姿の人が数名控えている。そのうち一人見た目若い人が目に留まった。その人はグンを抜いて「イケメン」だなぁ、と沙良もキラキラしながら見ていた。

(でも……言うなれば観賞用ね)

 と思ってクスッと笑ってしまった。

 そんなことを考えているうちに、

「ありがとうございます。今更勝手なこととは存じますが、それでも……宜しくお願い致します」

「ワハハ、そんなことは気にしなさんな。何かあれば孫の蒼に連絡しなされ」

 豪快に笑うとそう言い、傍にいたスーツ姿の中でもその沙良が見惚れるようなイケメンが名刺を差し出す。

 百合絵は改めて深々と頭を下げた。沙良も慌てて頭を下げる。

 桐生は笑顔で答えていた。


 

 帰りのタクシーで、沙良は今日の出来事を振り返っていた。

「ねぇ、お母さんって何者なの?」

 沙良は疑問をストレートにぶつけてみた。

「そうね、まぁ……大昔のおとぎ語なようなものよ」

 フフフッ、と笑いながら答える母親を見てそれ以上聞くのは止めようと思った。母親なのに敵わない何かを感じていた。

 そんな娘を見ていた百合絵だが、思い出したかのようにおもむろにカバンから先ほどの名刺を取り出した。

「これ、渡しておくわ」

 それは、名前と携帯番号の書いてあるメモだった。

「あの人……(あおい)って言うんだ?」

「桐生様のお孫さんってさっき言っていたでしょ。何かあればそこへ連絡したら対応してくれるわ」

「お孫さん……ね」

「桐生様はお忙しい人だから、その人が窓口とのことよ」

「なるほどぉ、受付係――と」

 沙良はいたずらっぽく笑ってみせた。そんな沙良を百合絵は「こら」と叱る。

「万が一お母さんに何かあったら、頼りなさい」

 真顔になり百合絵は言った。沙良は改めて母親が〝ガン〟だと認識する。母親との時間はそう多くないことが悔しくて、唇をかみしめ黙ってしまった。

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