第一話 プロローグ
人を好きになる定義は何ですか?
私の好きになった人は一般人と呼ばれる人ではありません。反社会的な集団の枠内に位置します。
私はそんな世界はテレビの中でのみ知っていました。たまに走っている街宣車も他人事でした。海外で勃発するテロも他人事でした。全て「その程度のこと」でした。
でも……そんな他人事のような世界と向き合う選択肢を迫られたら。私はどちらを選ぶのでしょうか。どちらを選んだらいいのでしょうか。
私は冴えない高校生活を送っていました。
他の女の子と同じようにファッションや芸能人、恋バナなどは無縁な世界で生きていました。ただ、将来に夢はありました。これでも生物学の研究員になりたかったのです。
その為に大学進学を目指し、猛勉強すべきだったのです。しかし、方向性が間違っていたのか、進んでいたのは受験方向ではなく、趣味の領域の狭く深い沼の底でした。
案の定、大学合格の切符は手にできず……どうしても掴みたいと予備校を志願し、猛勉強することとなりました。
私の母は女手一つで私を育ててくれています。
父親は……理由は分かりませんが、どうやらいない様子です。気にはなりましたが、そこは察して触れないように過ごし18年経過しました。今後も触れることは無いと思います。
運命とは予想外のことが起こるから面白い、と誰かが言っていました。
母親のガンが発覚しました。
発覚した時にはもう末期だったのです。私のサクラを見せることすら叶わないことを知りました。
泣きました。人生においてこんなに泣いたことは今までありません。
泣いて泣いて……泣いている私に母親は一つの提案をしました。
「お母さんが死んだら……お父さんのお世話になった人が何とかしてくれると申し出てくれているけど……」
それは青天の霹靂でした。父親のことはタブーだと思っていましたが、それがこうして母親の口から告げられようとは思ってもみなかったらです。しかし、それと同時に過去形から父親はもうこの世にはいないことも悟りました。私が望むなら母親は自分が動けるうちに紹介したいと言いました。
私は進学をあきらめて働くことを提案しました。人生の転換期なんてよくあることだと思っていたからです。今まで苦労していた母親の最後ぐらいゆっくりさせてあげたかったのです。
しかし母親も私の夢を応援することが最後の望みだと言いました。最後ぐらいは私の為に何かさせて欲しいことを訴えていました。
私は世話になることで母親の心配が一つ取り除けるなら、とその提案を受諾しました。