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シェア彼女  作者: AKIRA
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 意外にも、莉英が水族館を楽しんでいる様子だった。

「ペンギン可愛いね」

 はしゃいでいるとまではいかないが、興味深そうに水槽を覗いている彼女は普段の冷静な姿とは少し違かった。

「水族館は好きなんだね。動物が好きなの?」

「うん。癒されるじゃない。意外だった?」

「いや、それは」

「意外だったな。もっと冷めて観ていると思った」

 変わらず直球勝負の井口。もう何も言わない。

「何? 健太郎君的に私は冷めた女?」

 ムッとした表情で莉英は口をとがらせる。

「比較的」

 それに対し、井口は茶化すように言う。

「井口君はさ、はっきり言うのはいいところだけど、それで人がどういう思いをするかちょっとは考えたことある?」

 莉英の顔が険しくなる。あえてか、健太郎と呼ばずに井口と名字で呼ぶ。

「まあまあ。冗談だよ。喜んでくれて良かったってことだよ」

 最初からそう言えばいいのにと、彼女は早歩きで足を進めた。

「おい、井口。勘弁してくれよ。俺が間に入らなかったら気まずくなっていたぞ」

 莉英を追いかけながら、井口を小突く。

「いやあ、俺の方こそ勘弁してほしいよ。すぐ怒るよな。彼女」

 井口は悪い奴ではない。でも、彼女の言うとおりである。それは幼い頃からそうだったからもうその性格は治らないと諦めかけている。それは仕方ないとして、彼女の方も確かに少し神経質なところがあるなと思うようになってきた。やはり人間関係は気を使いすぎていろいろと疲れる。

「でもさ、あれこれ考えて水族館で結果良かったな」

「まあな」

 遠出しようという企画だったが、金銭面や時間など散々考えてた挙句、水族館に決まった。例のごとく、莉英はどこでもいいよと返事で水族館を提案したときもごねることなくすんなりOKしてくれた。

「ねえ、莉英どこ行くの?」

 他の水槽に目もくれず人をかき分けるように歩いている彼女の後ろを追いかけながら声をかける。

「イルカのショー。十一時からだから少し急がなくちゃ」

 振り向かず彼女が答える。時計を見ると時刻は十時四十五分だった。

「そっかあ。ここのショー良いって噂だもんな」

 どうやら、彼女は怒って早歩きになったのではないらしい。

「にしても、ショーの時刻まで調べてこなかったな」

 それを調べていたということは彼女なりにこの水族館に行くことを楽しみにしていたということかもしれない。そうも思うと急に嬉しくなった。

 ショーの会場に着くと、会場はもう観客で埋め尽くされ何とか三人並んで座れる場所を確保した。

 公演時間は三十分ほどだった。辺りが暗くなり、照明と水の演出が始まり、その中でイルカが縦横無尽に泳ぎ飛び跳ねる。

「ほら、綺麗だね。凄い」

 その光景を見るたびに莉英がはしゃぎ、隣にいた井口の肩や手を叩く。

 途中、イルカから尾びれを観客に向けて水しぶきを立てるというサービスがあり、三人が座るところまでかかった。

「うわー。濡れちゃった」

 彼女は井口の方に寄りかかり彼に向か合って大声で笑う。終始彼女は楽しそうだった。井口も公演中彼女に話しかけられまんざらでもない様子だった。俺はと言うと、それを隣で見せつけられて寂しさと苛立ちとでせっかくの素晴らしいショーを集中して観ることができなかった。

「良かったね。圭君」

 ショーが終わり会場を後にするときに莉英が満面の笑みで話しかけてくる。

「うん」

 ここで疑問が浮かんだ。こんなにも楽しそうな莉英は今日は何がそんなに楽しかったのだろうか。俺たちと水族館に来れたことか。それとも水族館に来れたことか。もしかして、井口と一緒にいられることが楽しかったのか。

 莉英に直接訊いてみたい。

 だがそれを訊いた後、その答えを聞いて絶望失望するのではないかと訊くことはできなかった。それだったらむしろ、普段見せない素敵な莉英をまだ見て楽しむ方が得策な気がした。

 確かに言えることは、自分が今まで経験したことのない体験を内藤莉英という人間を通してできているということは確かな様だった。



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