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シェア彼女  作者: AKIRA
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 物語はクライマックスを迎えていた。

 やっとのことで片思いだったヒロインと恋人関係になった主人公が、ヒロインの秘密を知ることになる。ヒロインが大病にかかり余命半年であるという事実を知らされ、悲しみに明け暮れながらそれでも明るく振舞うヒロインを支えようと健気に奮闘する姿が描かれていた。

「どうだった?」

 上演を終えて映画館を出てすぐに隣を歩く莉英に聞く。少し泣いた後で声が裏返っていた気がして不安になった。

「良かったんじゃない?」

 サラッとそう言うと、チラッと俺の顔を横目で見る。ヤバい。泣いていたのがバレたかととっさに顔をそむける。どうやら彼女の方は泣いていなそうだった。

「確かに、最後は感動したよね」

 泣いていたのがバレたようで、さりげなく共感してくれる。

「いや、その」

「嫌いじゃないよ。そういう男の子」

 その言葉にちょっと恥ずかしさが薄らいだ。そして泣いた自分が少しだけ悪くないのかなと思えた。

「ねえ。どこ行く?」

「そうだな。お腹空かない? ご飯食べようよ」

 この後行く場所はすでにリサーチ済みで決まっている。

「いいよ。でも、スパゲティーは今日は止めない?」

「え? どうして?」

 今日はスパゲティ店の予定ではなかったが、もしかして先週スパゲティーが気に入らなかったのだろうか。

「いや、その、圭君の後に健太郎君だったんだんだけど、まさかの同じ店で遅めのお昼しようって言われちゃって」

「え?」

「で、せっかく誘ってくれたんだからって無理して食べたんだけど、さすがに連続で二皿はキツくて」

 思い出したかのように自分の腹部を摩って困ったように笑って見せる。

「ホントにそうだったんだ」

 井口とはメールのやりとりをしただけで会っておらず、莉英とどんなことをしたかとメールで訊いてもそんなこと普通訊かないもんじゃないの? と教えてくれなかった。

「いや、美味しかったんだよ。でも、そのあと気持ち悪くなっちゃって、しばらくスパゲティーはいいかなって」

「ごめんね。きっちり打ち合わせすればよかったね」

「いいの。いいの。もしかして今日もスパゲティー食べるつもりだった? いいよ。それだったら」

「いやいや。今日は違う所を提案するつもりだったよ」

 実は候補に今日もスパゲティー店があったが、最終的に外しておいて良かったと心の中で安堵する。それにしても、彼女はハッキリものは言うが、人を思いやることができる優しい所もあるなと謝罪しているにも関わらず思わず顔がニヤけてくる。

「良かった」

 彼女も嬉しそうに声が高くなる。

 こうして歩くと本当の彼女である気がした。いや、周りから見れば完全に俺たちは恋人だ。まだ手はつなげていないのが残念でならない。

「銀座ってこんなに人多かったっけ?」

 彼女の言う通り、今まで何度もこの銀座をあるいたことはあったが、今日ほどこの風景が違って見えたことはなかった。

「週末だしね」

 そして、通る度にカップルが気になって惨めな思いになっていた。それが今日はその気になっていた存在になれている。

「何? 圭君はポニーテルの人が好きなの?」

 偶然、ポニーテールのオシャレな二十歳くらいの女性を連れたカップルが通り過ぎるのを見ていたのを莉英に訊かれる。

「ああ、まあ」

 女性の髪形を気にしていていたわけではなかったが、観ているカップルの女性がポニーテールだったのだろう。

「そっか。私、ポーニーテールだと少し髪の毛長いからな」

 そう言って、莉英は自分の髪の毛を触る。ちなみに、俺はポニーテルが嫌いなわけではない。むしろ、一番好きな髪型かもしれない。

「いや、別に莉英はそのままでもいいと思うよ」

「ありがと」

 と言いながらも彼女がポニーテルにしたらどんな感じなのだろうと想像してしまう。

 それにしても一日彼女と一緒にいるのはいい意味で長い。今日は井口が用事があるからだめということで一日俺に付き合ってくれるということだった。

「あのさ、莉英って休みの日は何しているの?」

「買い物したり、友達と遊んだり、あとは家でゴロゴロかな? どうして?」

「いや、今日は俺のために一日付き合ってくれたから」

「別に、空いていたからだよ。気にしないで大丈夫」

 俺のことが気になったからではないのか。そうでないだろう。証拠に彼女は俺が休日何をしているか聞いてこない。淡い期待を勝手に抱いて勝手に落ち込んでいた。

「何? 何か気に障ること言った?」

 表情が曇ったことを察したのか心配そうに声をかけてくれる。

「そんなことないよ」

 そんなことある。それにしても、俺は彼女のことをどう思っているのだろうか。今日は彼女の行動やしぐさ言動でいちいち喜怒哀楽を激しく感じる。

「ねえ。手でも繋ぐ?」

 不意に彼女が俺の前に手を差し出す。細くて色白の綺麗な手だった。

「え?」

 あまりのことに思わず足が止まる。

「ああ、イヤならいいよ。だって、恋人ごっこしているわけだし」

 ごっこ? どうしてその言葉を選んだのか気になったが、手は繋いでみたい。

「イヤじゃない。繋いでみたいな」

 ここは何も考えず正直になることにした。差し出された手の前に自分の手を出す。そして素早く彼女がその手を自分の手と絡め合わせた。

 生ぬるい。

 どうしてだか不思議とそこまで感動がなかった。

 そのまま俺たちは時間にして五分くらいだが昼食をとる予定の店まで歩いていた。

 その間、俺も彼女も無言で一言も言葉を交わさないでいた。


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